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「神木隆之介はキラキラしすぎ」!? 爆死中の映画『100日間生きたワニ』を見たアニメライターが「小規模で見たかった」と語るワケ

 2019年12月12日から、漫画家・きくちゆうき氏のTwitterアカウント上で連載が始まった4コマ漫画『100日後に死ぬワニ』。タイトルが示すように、100日後に死んでしまうらしいワニの何気ない日常をつづった物語が1日1話公開され、20年3月20日に投稿された最終話は「いいね」の数が214万という国内Twitterの歴代最多数を記録。

 ツイートに対してどれだけの回数の反応があったかを表すエンゲージメントは2億を超え、日本を感動の渦に巻き込んだ。連載当時、いったいワニがどんな最期を遂げてしまうのか、更新時間にスマホを必死にスクロールして待った人も多かったのではないだろうか。

 しかし、切ないラストの漫画を読み終わった後、涙が乾く間もないほど突然に、3人組アーティスト・いきものがかりとのコラボ動画、映画化、書籍化、グッズの発売、イベントの開催など、タイアップ情報の波が次々に押し寄せた。

 ワニと過ごした100日を振り返る余韻もないまま、メディアミックス展開が矢継ぎ早に発表されたため、ネット上には反発の声が続出。「当初から商業展開を狙ったステマだったのでは?」「作品に感情移入してワニの死を悲しんでいることをネタにされたような気分」などと大炎上し、最終回の感動の嵐から一転、一気にネットユーザーのコンテンツへの興味は失われていった。

 そんな中、予告されていた映画が7月9日に封切られた。大ヒット映画『カメラを止めるな!』(2018年)の上田慎一郎、ふくだみゆき夫妻が監督・脚本を担当し、出演者には、神木隆之介や中村倫也ら人気俳優のほか、声優・木村昴という知名度抜群の芸能人たちがキャスティングされている。この豪華な布陣をめぐっては、公開前からネット上で「このキャストなら期待できる」「話題性を狙いすぎ」と賛否を呼んでいたが、同時に“素朴で身近に感じたワニ”とは違った作品になるのではと、どこか疎外感を覚えたファンもいたことだろう。

 筆者が映画館に足を運んだのは、公開から1週間後の土曜日。すでに大型の劇場でたった1スクリーン、1日1回だけの上映になっていた。しかもスタートは朝の9時と、中々に見に行くのにハードルの高い時間帯。7月12日に興行通信社が発表した国内映画ランキングでは、トップ10“圏外”、一部では初日の興行収入は500万円、土日の興行収入は1,700万円程度だったとも報じられているだけに、この爆死ぶりを見ると、スクリーン数や上映回数の少なさは致し方ないのかもしれないが……。

 肝心の物語は、映画版タイトル『100日間生きたワニ』が示すように、ワニ(神木)が生きた100日間と、ワニが亡くなった後の100日が描かれる2部構成。まずは漫画原作と同様に、ワニが死ぬ100日前からスタートする。原作と比べると多少、エピソードの順番が入れ替わっていたり、カットされた部分もあったが、ネズミ(中村)やモグラ(木村)、ワニが思いを寄せるセンパイ(新木優子)とのやりりが細かくなり、それぞれのエピソードがより深く描かれていた。彼らが笑って気軽に「また次な!」と何の疑問も持たずに約束を交わす度に、ワニの行く末を知っている観客たちは皆胸を締め付けられ、切なさを感じたはずだ。

 出演者たちは可もなく不可もなく、しっかりと与えられた役どころを全うしていた印象。神木は『千と千尋の神隠し』(01年)や『借りぐらしのアリエッティ』(10年)などのジブリ作品に参加し、『サマーウォーズ』(09年)や『君の名は。』(16年)では主演を務めるなど、声優経験も豊富なだけに、危なげなくワニを演じていた。

 そんな神木をはじめ、中村、木村の声はどこかキラキラとしすぎていて、素朴なイラストとギャップを感じるきらいもあるが、許容範囲ではないだろうか。木村はイヌ役のファーストサマーウイカがパーソナリティーを務めるラジオ番組『オールナイトニッポン0』(ニッポン放送)にゲスト出演した際、「いつもよりも声量を落として演じた」と言っていたが、確かに静かだった気がする。

 今作では全体的に“生っぽい芝居”が求められていたようで、全員がそういったディレクションを受けていたのか、突出して誰かの演技が目立って気になる、というシーンは少なかったように思う。といっても、木村はどこにいってもイケメン演技はワンパターンなので、静かな山田一郎(『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』)という印象だったが……。

 その後、物語は運命の100日目を迎え、ワニが命を落とす。そして、満開の桜の下で楽しい花見になるはずだったその日から100日後、頻繁に集まっていた面々は疎遠になり、それぞれのどんよりとした心情を表すように、外はずっと雨が降っていた。

 ここで、これまで登場したワニの仲間たちとは毛色の違うキャラクターが現れる。映画オリジナルキャラクターのカエル(山田裕貴)だ。空気が読めているんだか読めていないんだか、やたらとグイグイ距離を縮めてくるカエルは、人づてにどんどんワニと仲の良かった面々と顔見知りになっていく。

 だが、ワニを失って傷心中のネズミたちは、カエルの強引さに気圧され、疎ましく思うようになり彼と距離をとる。カエルは新しい街に越してきたばかりで、友人もおらず頼る者もない。だからこそ、自ら積極的に動き、周囲と仲を深めようとしているのだが、心の扉を締め切っていたり、明るく人と話す気分じゃない時に、そんなふうに来られても……と、敬遠されてしまう。

 登場してしばらくは、ほかのキャラと同じように、カエルに対して、いら立ちを感じたりはしたのだが、彼のバックボーンが見えてからはグッと親近感が沸いた。実は、カエルもネズミたちと同じような心の傷を抱えていることが明かされるのだ。

 誰もが知らないところで傷を負いながらも、何でもないふりをして生きている。「明るく笑っているからこいつは大丈夫」なんてことはないし、暗い顔をしているから優しくされる権利があるわけでもない。

 それに気付いたネズミの働きかけで、ワニの死後から止まってしまっていたグループLINEが再び動き始め、またみんなで集まり、笑い合うという展開は、とても自然に受け入れられた。カエルがいてくれたおかげで、ワニの死から立ち止まったままのネズミ、モグラ、センパイ、イヌたちが再び笑顔を取り戻すことができただけに、原作のその後を描いた映画には必要不可欠な存在だったと思う。

 そうしてみんなが笑顔で、ワニとの思い出を抱えて前に一歩を踏み出したのを見て、あらためてこの『100日後に死んだワニ』という作品が、ワニのことが好きだったなぁと感じた。

 だからこそ、全部たどたどしかったらよかったのに。エンドロールでキャストやスタッフの名前が手書き風の文字で描かれているのを見てそう思った。

 “ヘタウマ”でシンプルなイラスト、素朴なストーリーで描かれた、等身大かつ身近にいそうな親近感溢れるワニが好きだったのに。だから、「どうして死んじゃうんだよ」って思いながら、少しでも幸せそうな日を送っている姿を見守るのが楽しかったのに。誰だって気付いていないだけで、“100日後に死ぬ”カウントダウンが始まっているのかもしれないから、日々を大切に生きようと背中を押してくれたはずだったのに……。

 豪華な出演者じゃなく、素人みたいな演技にぎこちなさのあるキャストで、公開するのもYouTubeとか、動画配信サービスで5分のショートアニメとか、そういう小規模でこの作品が見たかった。たどたどしいなりに、不器用な仲間たちがワニとの別れを乗り越えていくところが見てみてたかった。後ろでお金がたくさん動くであろうことは4コマ漫画連載当時の賑わいぶりから薄々感じ取ってはいたけれど、それを全面に見せつけなくてよかったはずだ。淡々と毎日Twitterで更新されていたあの時のように、さらりとその後の100日も見せてほしかった。

 そう思わずにいられない。ワニくん、あの時君が死ぬまでを見とどけた時間が、君が、恋しいよ。

三澤凛(みさわ・りん)
劇場アニメはもちろん、毎クールの深夜アニメもくまなくチェックしている大のアニメ好きライター。最近は『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』にドはまりしている。