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広告業界で感じた女性の生きづらさの正体『ぜんぶ運命だったんかい――おじさん社会と女子の一生』笛美さんインタビュー

ByAdmin

Aug 5, 2021

 7月20日、「#検察庁法改正案に抗議します」Twitterデモ発起人の笛美さんが『ぜんぶ運命だったんかい――おじさん社会と女子の一生』(亜紀書房)を上梓しました。

 同著は笛美さんが新卒で広告代理店に入社してから、海外での生活を経てフェミニズムを知るまでの過程、そして「#検察庁法改正案に抗議します」のTwitterデモがどのように始まったかが描かれています。

※2020年5月、検察官の定年延長を可能にする検察庁法改正案について、笛美さんの「#検察庁法改正案に抗議します」をつけたツイートを発端に、Twitter上で抗議の声が広まった

1人でTwitterデモ#検察庁法改正案に抗議します
右も左も関係ありません。犯罪が正しく裁かれない国で生きていきたくありません。この法律が通ったら「正義は勝つ」なんてセリフは過去のものになり、刑事ドラマも法廷ドラマも成立しません。絶対に通さないでください。

— 笛美「ぜんぶ運命だったんかい おじさん社会と女子の一生」発売中 (@fuemiad) May 8, 2020

 「日常的な視点や身近な話からフェミニズムのことを知りたい」「会社や家庭で感じているモヤモヤの正体を知りたい」そんな人にオススメの作品です。著者の笛美さんに、執筆の背景や同著への思いについて話を聞きました。

笛美(ふえみ)
広告業界の片隅にいる会社員・フェミニスト。元々はフェミニズム関連の発信をしていたが、勢いで始めた「#検察庁法改正案に抗議します」タグが1000万ツイートを超える大規模なオンラインデモに。

身近な視点でフェミニズムを知ってほしい
——貴著の執筆の背景をお伺いします。

 2019年1月、フェミニズムについて投稿するため、Twitterとnoteを始めました。noteでは、西武・そごうの広告炎上への意見や、フェミニズムに気づくまでの経緯を執筆していたところ、偶然読んだマスコミ関係の人が、知人の編集者さんに紹介してくださったことがきっかけです。編集者さんとは「いつかフェミニズム本を出したいね」と話していました。

 そんな中、2020年5月にTwitterで「#検察庁法改正案に抗議します」を投稿したところ予想以上の反応があり、「Twitterデモの話も含めて本にできたら」と話が進み、4、5カ月かけて執筆しました。

 すでにフェミニズムに関心がある人のための本は沢山ありますが、「モヤモヤしているけれどもフェミニズムに気づいていない人」のための本はほとんどありませんし、日本ではまだまだ、真正面から「フェミニズム」と言われると引いてしまう人も多いと思います。

 「働いている女性の目線でフェミニズムの話をする本があったら」という思いはずっとあって、自分の経験が活かせると感じたので、挑戦してみました。

——タイトルの「ぜんぶ運命だったんかい」というフレーズが印象的ですが、どのような思いが込められていますか。

 自分一人の稼ぎで暮らすことが難しいほどの低賃金労働だったり、一方で仕事に集中し過ぎて婚期を逃したり……いわゆる“失敗した女性”と揶揄されないよう、当時の私は総合職としてハードな働き方をすることも、“女子力”を高めて恋愛や婚活に臨むことも、自分なりに努力してきました。それでも、結局的に全部上手くいかなかったんです。

 でも、上手くいかなかったのは私の努力不足や自己責任だけではなく、実際には男性中心社会を維持するために作られたルールや、社会構造のもとに全部決められていたことだと気づき、「おい!」とツッコむような気持ちで出た言葉です。

 たとえば、年配の女性が会社にいないことについて、当時の私は「女性は根性がないからすぐ辞めるんだ」とずっと思い込んでいました。しかし実際は、女性は結婚や出産を機に追い出され、新しい“女の子”が補充され、会社は男性と女の子だけになる。そんな運命が決められていたのに、それに気づかなかった自分に対して「馬鹿だな」という思いもありました。

——広告業界のジェンダー観の遅れについても書かれていますよね。海外での生活を経てフェミニズムの視点に気がづき、その後、日本の会社に戻った時に戸惑われたとのことですが、フェミニズムに目覚める前後で広告業界の仕事への見方は変わりましたか。

 日本の名作とされる広告は、広告業界にいる人間としてテクニックを学べることはあっても、女性蔑視が強く、ジェンダー観までんではいけないと感じました。ジェンダー問題を取り上げた広告が作られることもありますが、ジェンダーの素地がないまま作っているのか、どこかズレていることもありました。炎上しても原因がわからないため、ジェンダーのテーマが怖くて手をつけられない空気もできているように感じます。

 私のTwitterアカウントには、アンチフェミニズムの人が執拗にリプライを送ってきたり、揚げ足を取ってきたりするのですが、そのように積極的に嫌がらせをするような人を除き、女性蔑視発言をしてしまう人は、案外“普通”の人だと思います。そのズレている広告を作った男性も、きっといい人なのだと思います。女性を蔑もうと思っているわけでもなく、寧ろ優しくしたいと思っている。でも「女性に優しくする=人権を尊重する」ではないですし、知識がないがゆえに、わかっていない広告を作ってしまうのだと思います。

 会社では、ジェンダーやフェミニズムという言葉を発するだけで“ヤバい女”扱いをされる空気感がありましたし、誰も私の言いたいことを理解してくれませんでした。最近は、女性蔑視や人権侵害の広告に、ネット上で声があがることは珍しくなくなっていますが、中から話してもなかなか伝わらなかったので、世間に怒られて気づくしかないのかもしれません。

——「報ステ」のCM炎上など、ジェンダー表現の問題により広告が炎上することは度々ありますが、広告業界のクリエイターがジェンダーについて学ぶフェーズにはまだ至っていないのでしょうか。

 広告に関する教育事業を展開している「宣伝会議」のオンライン講座で、ジェンダーの講座があったり、社内でジェンダーの講習会を開いている企業もあります。でもそれを1回受けただけでは、根本的な理解にまでたどり着くのは難しいと思うんです。また、忙しい売れっ子のクリエイターほどそういう講座を受けた方がいいと思うのですが、なかなか時間が取れない印象があります。

 広告業界は流行に敏感な人が多いので、話題になれば気にしてくれる傾向があると思います。例えば、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗元会長による女性蔑視発言は、インパクトのある出来事だったと思います。象徴的な出来事が増えれば、世の中が変わるきっかけになるのではないかと思っています。

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あなたの言葉で伝えられる人がいる
——「#検察庁法改正案に抗議します」でも、貴著やTwitterで使われている言葉を見ても、笛美さんの言葉選びは優しい印象を受けるのですが、何か意識していることはありますか。

 世の中の多くの人は、自分の周りの悩みのことだけでいっぱいいっぱいだと思うんです。誰かが大きな声で訴えている話を聞くのを嫌がる人もいます。この考え方はトーンポリシングと紙一重だと思うのですが、自分のことだけで忙しい人たちの耳に入るためには、浸透するような言葉を選びたいという思いでいます。

 日本では社会運動が身近ではなく、社会運動に慣れていない人たちは声をあげること自体に抵抗があります。「なんとなく怖い」といったイメージでシャットダウンされないよう、「仲間ですよ」という気持ちで発信しています。

——貴著を読んでいて、笛美さんからは自己効力感を感じるのですが、「社会を変えたい」と思いつつも、一歩を踏み出せない人へアドバイスをいただけますか。

 私も「世論を変えなくちゃ」という思いはあったものの、Twitterデモがあそこまで注目を集めるとは思っていなかったんです。不安な気持ちを日々呟いていた中で、偶然その中の一つが当たっただけでした。

 広告の世界では、口コミが重要と言われています。「知人が言ってること」の影響は大きいんです。SNSでも普段の生活でも、人それぞれ得意な伝え方があると思います。私が伝えられなくても、あなたなら伝えられる人がいます。少しでもいいので、何らかの方法で周囲の人に話をしてみるといいかもしれません。

——最後に、貴著に込められたメッセージをお伺いします。

 日本では今も、「若い女性であるうちはチヤホヤされて、一定の年齢になったら追いやられる」運命ができています。過去の私も含め、そんな運命を自己責任と考えてしまう女性もいると思いますが、フェミニズムを吸収し、自分のせいにするフェーズから脱出してほしいです。

 自分がミソジニーの真ん中にいたとき、仕事も恋愛も婚活も、全てにおいて力が湧いてこない状態でした。でもフェミニズムを知って「私が酷い状況を変えよう」とエネルギーが満ちてきたんです。以前の私のような疲れ切ってる人にこの本を通じフェミニズムを伝えることで、別のベクトルで元気を届けられたらいいなと思います。

 頑張っている女性は世の中にたくさんいて、でもその頑張りを“わきまえること”や下からお伺いを立てることなど、変なところに使わされている人が多いと思います。多くの女性が本来向けられるべきところにエネルギーを使えるようになったら、日本は良い方向に変わっていくんじゃないかと私は期待しているんです。

 また、広告業界を含めビジネスの世界では「自分だけが成功すればいい」という思考が強いですが、日本全体を見たり民主主義を考えれば、多くの人が声をあげ動くことが重要だと思うようになりました。私の本をきっかけに色々な人が気づいて動くきっかけになってほしいです。

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