• Wed. Dec 1st, 2021

85歳でも運転免許を返納しない母、娘の説得に「恩知らず」と逆上! 父は「ママは運転がうまい」は甘やかすが……

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)

そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。

母のおもらしが増え、家中が臭くなり、怒鳴る父……変わってしまった実家に娘の複雑な思い」や、「『わが母ながら立派』と思っていたが……同居する弟夫婦は『他人以下』、父の介護に一人で取り組む心情は聞くに聞けない」でも紹介したように、「高齢の親に運転をやめさせたい」と頭を悩ませている子どもは少なくない。

 宮下いづみさん(60)もその一人だ。85歳の母親涼子さん(仮名)が運転をやめてくれないことを新聞に投稿したところ、後日特集が組まれるほど大きな反響があった。親の運転問題で悩んでいる子どもがいかに多いかがわかる。

私は20代の若者より運転がうまい

 宮下さんの両親、明さん(仮名・92)、涼子さんは隣県で二人暮らしをしている。ともに大学を卒業後アメリカに留学した経歴を持つ超高学歴の夫婦だ。だが、こと運転に関しては対照的な考え方を持っている。

「父は70代半ばで自主的に免許を返納しました。母は留学していた22歳の頃に運転をはじめ、以来63年運転し続けています。母には、高齢になったから運転をやめないといけないという自覚はまったくありません。昨年までは高速道路を利用して別荘に通っていたほどです」

 涼子さんは「20代の若者よりも運転がうまい」と並々ならぬ自信を持っているが、そう考えているのは涼子さんだけのようだ。宮下さんは涼子さんの運転技術が明らかに衰えていると感じている。

「交差点で右折するときに、対向車が来ていないのにタイミングを逃して、信号が赤に変わる瞬間に右折する。バックでスムーズに駐車ができない。母の運転を見ていると怖くなることがたびたびあるんです」

 宮下さんは涼子さんの運転に不安を抱き、しばしば涼子さんの車に同乗しているという。そのときだけでも数々の危険な兆候があるのだから、宮下さんが同乗していないときにどんな運転をしているか考えると恐ろしくなると嘆く。

 昨年別荘を処分したため、涼子さんが高速道路を運転する機会はなくなったとはいえ、街なかを運転する機会はまったく減っていないのだ。

「父を病院に連れて行く、弟が飼っている犬を預かるため毎週末弟の家まで行く、買い物に行く、お友達に頼まれて車を出す……と母は車を運転しなければならない理由をいくらでも挙げるんです。でも父の病院へはタクシーで行けばいいし、犬は弟に連れて来てもらえばいい。両親のマンションは、スーパーも病院も徒歩圏内にあります。住み替えるときに、生活するのに便利な駅近の場所を私が探したんです。それなのにわざわざ車で遠くのスーパーや病院に行く。マンションから近い病院は『あそこはヤブだから』と言うのも、いかにも母らしい言いぐさです」

 宮下さんが涼子さんの代わりに運転すると言っても、「あなたの世話にはならない」「あなたは運転がヘタ」と断固拒否するというのだ。

 もちろん宮下さんも涼子さんの運転をやめさせるために、これまで考えられる限りの手立ては取ってきた。そのひとつが、宮下さんの夫や子どもたちによる説得だ。

「ところが夫や娘が説得すると、母は逆上しました。娘には『恩知らず』とまで言い放ったんです」

 涼子さんのかかりつけ医に運転をやめるように促してくれるように頼んだこともある。

「お医者さまのお母さまが事故を起こして免許を返納した話をして、返納を勧めてくださっても、『そんなボケた人がいるのね。私には関係ない』とまるで他人事でした」

 70代で免許を自主返納した明さんも、宮下さんの危惧に共感し、涼子さんが免許を返納した方が良いと言っていたというが、頼みの綱だった明さんにも暗雲が立ち込めてきた。

「父は今ステージ4のがんを患っていて、認知症も発症しているのか記憶も怪しくなってきました。そしてとうとう『ママは運転がうまい』と言うようになってしまったんです」

 弟の武さん(仮名・57)に至ってはもっと始末が悪い。

「弟は母の運転を『危ないとは思わない』『まだ大丈夫だろう』と言うんです。夫も子どもたちも、なぜ弟が母に運転をやめるように言わないのか不思議がっています。母は昔から弟を溺愛していて、弟もマザコンなんでしょう。母の行動に慣れていて、異常も感じていないのではないかとも思います」

 さらに、武さんは涼子さんに車を買い替えてあげたというのだから、絶句するほかない。宮下さんの嘆きはいかばかりか。

 宮下さんは、涼子さんが80歳を迎えるころから真剣に運転をやめさせようと説得し、有効な手段を考えてきたが、こうしてことごとく失敗に終わってきた。

「強硬手段として、車のキーを取り上げても危険を感じていない弟が母に渡してしまうでしょう。車に乗るなと私が体を張って阻止しても、母は振り切って出かけると思います」

 涼子さんに免許返納を促すたびに、「もうあなたなんか二度と会いたくない!」と怒鳴られる。

 だからといって、あきらめるわけにはいかない。車の運転には人の命がかかっている。何かあったら取返しがつかない。家族がどう責任を追えばいいのか。

 宮下さんは「法律で一定の年齢を決めて、運転を禁止してほしい」と訴えて、投書もそう締めくくった。