• Thu. Jan 27th, 2022

2021年、心に残る「食の本」をフードライター・白央篤司が選出! レシピ集やエッセイなど4冊

時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター・白央篤司が選んでご紹介!

2021年、「心に残る食の本」4冊

 さて師走に入り、2021年もじきにおしまい。今年も食関係の本が数多く出版された。コロナの影響でレシピ本を求めた人は昨年に続いて多かったよう。レシピ以外のものも含めて、心に残る食の本を今回は4冊ご紹介したい。

絵本:『えきべんとふうけい』マメイケダ著

 絵本っていいなあ。そんな気持ちを久しぶりに思い出した。

 おいしそうな表紙に惹かれて本を開けば、しょうゆさしが空を飛ぶ。駅弁を買うひとを見かけて「ぼくも のりたくなった」と始まる電車の旅。東京から島根あたりまで、楽しい旅が続いていく。

 車窓いっぱいに広がる大河に海原、そして富士山。知らないまちの家並みをぼんやり眺めるのも、列車旅の好きな時間だ。何より見開きで描かれる弁当の数々がなんとも魅惑的で。駅弁を開けるときの期待やウキウキする気持ちがよみがえる。

 著者のマメイケダさんは1992年生まれ、高校卒業後に総菜調理の仕事をされてから画業に進まれたとプロフィールにある。旅が好き、食べることが大好きだけど、やっぱりまだ遠出は控えたい……という方にもおすすめしたい一冊。

フォトエッセイ:『おいしいレシピができたから』藤井恵 著

 あまたいる料理研究家の中でも、藤井恵さんはトップクラスの人気を誇るひとりだ。私は彼女の人気の理由をその「堅実さ」にあるとみている。地に足の着いた日本の家庭料理を軸とし、ごく普通の食材と調味料と道具で作れるレシピを常とされ、テクニック的にもある程度の料理経験があれば作れる「ほどよい範疇」をかたくなに守る。それでいて、どこか料理に華がある。

 そんな藤井さんは料理研究家になって22年。「このへんで一度、ひと区切りしようかと」思われて、フォトエッセイを作られたようだ。こういう本は正直、「素敵なわたしの素敵ライフ」をごく浅く、軽く紹介して終わるものもなくはない。しかし藤井さんはそんなことはしなかった。

「数年前から、50代という年齢をどうとらえたらいいのか迷っていた」

 いつまで、好きなことができるだろう。残りの人生、何がしたいのだろう。

「ここ13年、体のあちこちが順番にトラブルを起こしている」

 老いを感じるが、それは誰にでも平等に来るもの。淡々と今すべきこと、したいことを考え、選択していくさまが飾り気のない筆致で描かれていく。

 これまでの振り返りも実に率直でおもしろい。ネットであるとき「セレブ料理研究家」と書かれたのを見つけ、「セレブだってさ、笑っちゃう。私の極貧時代を知らないな?」とつぶやくように書く。そこからどうやって現在の「場所」を築いてきたのか。

 仕事に没頭したいが子育てもある。夫婦間には「氷河期」もあったと。料理誌編集者とのやり取りで自分の仕事が磨かれていったくだりなども実に興味深い。ともかく率直に、ひたむきにつづられた自分史だった。

 料理にある程度慣れて、いろいろ作ってみたい、もっと料理を覚えたいと思う人におすすめしたい一冊。

 「塩加減」を知ることが、すなわち料理上手への道だと私は思っている。素材に対してどの程度の塩をして、どの程度調味上の塩気を加えたら、完成の際にちょうどよくなるのか……というのをいかにつかんでいくか。

 計量するのではなく、自分なりの「ひとつまみ」を体で覚えていきましょう、というのが本著の狙いだと私は見た。最低限の塩分で、存分においしさを引き出す、演出する。そのための格好のドリルである。

 著者の荻野恭子さんは世界65カ国以上を訪ねて現地の方々に料理を習い、研究を続けてきたベテランの料理研究家。書内でも各国の料理が紹介されている。

 「料理は、子育てに少し似ていると思います。子育ては見守ることがいちばんたいせつで、へたに手を出しちゃいけない。料理も同じで、なにかを焼くときはあんまりさわらないほうがいい。じっと見守って。でも、じっと見てばかりもいられないから、目を離す勇気も必要」という言葉は至言だ。

マンガ:『しあわせは食べて寝て待て2』水凪トリ 著

 今年の7月に紹介した作品の続巻。

 病を抱え、フルタイムの仕事が難しくなった主人公・麦巻さとこ。転居して知り合った周囲の人々から良い刺激を受け、薬膳に興味をもっていく。第2巻では生きる強さを少しずつ取り戻し、年下の人間を気遣う大きさも見せる。

「(昼に食べた)カレー、少し重かったかな。夕飯はお粥にしとこか」
なんてセリフがサラッと入ってくるところに、この漫画の価値を思う。自分の体の声に耳を傾けられ、日々の食事のバランスを考えられる。これこそが養生の基本、人生で早いうちに身に着けたいスキルだ。

 さとこはこの後お粥を作って、自分なりに良いと思う野菜をトッピングする。まずは無塩で味わい、次に塩気のあるおかずと共に楽しむ。彼女が大事にしたい「食の豊かさ」があざやかに描かれていた。

白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター。郷土料理やローカルフードを取材しつつ、 料理に苦手意識を持っている人やがんばりすぎる人に向けて、 より気軽に身近に楽しめるレシピや料理法を紹介。著書に『自炊力』『にっぽんのおにぎり』『ジャパめし』など。