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中国アイドルオーディション番組『偶像練習生』大ヒットの功罪ーー政府の「推し活」規制に、現地ファンの“意外な本音”

 BTSやBLACKPINKなど、「K-POP」アイドルたちが世界的に人気を集めるようになって久しい。

 彼らの活躍は日本のアイドル界にも影響を与えており、K-POPの影響を受けたオーディション番組が多数放送されきた。19年には韓国の人気オーディション番組『PRODUCE 101』の日本版『PRODUCE 101 JAPAN』(GYAO!、TBS系)が放送され、11人組ボーイズグループ・JO1が誕生。20年には、日本のソニーミュージックと韓国のJYPエンターテインメントによる日韓合同のグローバルオーディションプロジェクト『Nizi Project』(Hulu、日本テレビ系)が大ヒット。9人組ガールズグループ・NiziUが結成された。さらに、21年放送の『PRODUCE 101 JAPAN SEASON2』(GYAO!、TBS系)からはINIが生まれている。

 実は中国でも同様にオーディション番組が人気を博し、21年に中国の動画配信サービス「WeTV」で放送された『創造営2021』は、国内で社会現象に。一方で、ファンがアイドルを応援する活動、通称「推し活」が中国政府によって規制されるなど、不穏な話題も飛び交った。

 一体、中国のアイドル界で何が起こっているのだろうか? 中国オタクカルチャーに詳しい中国出身ライター・はちこ氏が、現地のアイドルファンの声も交えながら、“中国芸能界とファンの今”について寄稿してもらった。

 去る2021年は中国アイドル業界にとって波乱万丈の1年だった――という書き出しにしようと考えていたのだが、年度を置き換えてしまえば過去の数年、おそらくこの先の数年間もこの文章から始まってしまうと気づいた。

 日本や韓国のアイドル文化を吸収し、独自のインターネット文化と若者文化を融合させた中国のアイドル業界は、流行と常識が大変速いスピードで切り替わり、中国人のファンでさえ追いついていくので精一杯だ。

 この記事では、実際に中国のアイドルを追いかけている中国在住のアイドルファンの声を紹介しながら、昨年日本でも話題になった、中国の「推し活規制」に至るまでの経緯を整理したい。また、後編では今回の規制が中国進出を狙う日本のアイドルや芸能事務所にどんな影響を与えるかについても解説していきたいと思う。

中国における男性アイドル事情――オーディション番組『偶像練習生』が大ヒット

 まずは簡単に、近年の中国における男性アイドル事情を振り返っていこう。14年頃から、ジャニーズ事務所における「ジャニーズJr.制度」のようなものを設け、アイドルを育成していく芸能事務所が現れた。その流れから、韓国の大人気アイドルオーディション番組『PRODUCE 101』をモデルとして、ネット動画配信大手の「iQIYI」が制作した『偶像練習生』が、18年に異例の大ヒットを収める。

 以降、中国では同じ形式のオーディション番組が毎年、複数の動画配信サイトによって制作・放送されるようになった。オーディション番組は数カ月の放送で多数のファンがつくため、事務所でアイドルを育成するのに比べてコストが低く、その回収も早い。

 また、ネット配信番組はテレビ局が制作するものに比べて構成や企画が目新しく刺激的などの理由も相まって、若い世代の視聴者からも圧倒的に支持されていた。 
 
 さらには、「練習生」と呼ばれるオーディション参加者たちにとってもメリットが大きい。これらのオーディション番組からデビューしたグループは、ほとんど活動期間が2年間に制限されている。とはいえ、デビューさえできれば2年間の仕事が約束されるため、その期間中に一躍トップスターになることも夢ではない。

 このように、ネット配信のオーディション番組が特に盛り上がった状態の中では、アイドルを目指す人たちにとって、オーディション番組が“唯一のビッグチャンス”だといっても過言ではないのだ。

 一方で、こうしたオーディション番組は100名以上の参加者が、10人程度のデビューメンバーに入ることを目指す。参加者全員に順位がつけられ、上位10名程度がデビューできるわけだが、当然これは簡単なことではない。また、結果は全てがファンの投票次第なので、デビューを決める練習生の順位争いは、ファン同士の激しい対立に直接つながる。投票は無料で行えるものの、番組のスポンサー商品を購入して、付随の投票用QRコードから“票を積む”といった方法もあり、むしろこちらが一般的になっていった。

 ファン1人の投票数には制限があるため、効率的に商品の購入や投票をするために、ファンは自ら組織化する。こうして、集められる金額も年々エスカレートしていく。

 21年5月、牛乳についている投票券のみを使用して、中身を排水溝に廃棄するファンのニュースは日本でも報じられたが、これをきっかけに、世間ではオーディション番組やアイドルファンたちへのバッシングが強くなった。

 結果的に、この投票券を使用していた番組『青春有你3』は放送中止、アイドルファンが多く利用するSNSサービスも利用不可になった。あげく、今後アイドルオーディション番組の制作は禁止との規制が国から通達されてしまった。

 このような環境の変化は、中国のアイドルファンたちの「推し活」にどのような影響を与えているのか、現地のファンでないとなかなか見えない、感じられない部分は多い。

 日本のアイドルファンは、好きなアイドルのファンクラブに入会してライブを見に行ったり、グッズやCDを購入したりすることで推しを応援するだろう。しかし、中国の「推し活」はまるで異なる。一言でいうと、ソーシャルゲームに近い感覚だ。 
 
 まれに公式ファンクラブを設ける事務所もあるが、多くの場合はファンが自発的にコミュニティを組織化して「後援会」名義で応援活動を行っている。その上で、一番“普通”の応援活動は、推しのSNSに「イイね!」を押したり、コメントをしたり、いろいろなサイトで行っている「人気ランキング」の上位に推しを食い込ませるために投票するといったこと。ソシャゲでいう「デイリーミッション」のような活動が中心である。 
 
 もちろんそれだけでは足りず、推しのコラボ商品が出るなどのイベントがあれば、その期間中、ファンは全力で課金する。同じ商品を観賞用、保存用、布教用で3つ買うとかではもう甘い。「今現在、出せるお金を全部つぎ込むことが流儀」だと思っているファンは多いのだ。 
 
 というのも、まだ知名度が低く、人気上昇中のアイドルは代表作が少ないため、ダンスや歌のスキルよりも、「推しを布教したい」というファンの熱やグッズなどの購買数が、メディア出演や商品コラボの査定軸になってしまうからである。それをわかっているからこそ、アイドルファンは「デイリーミッション」のような日課をコツコツとこなす先に、必ず推しのさらなる発展があると信じているのだろう。

 応援活動は、それ以外でも多岐にわたる。たとえば、推しの誕生日にプレゼントを送る、公共交通機関に広告を出して推しを宣伝する、推しが番組に出演した際はスタッフへの差し入れを用意するなど。

 特に大きい「後援会」にもなると、アイドル名義の公益活動を開催することもある。事務所とのつながりがあるため、より多彩な応援活動を展開できるわけだが、当然、これらの活動に使用する資金は、ファンたちが少しずつお金を出し合って集めたものだ。

 そして、前述の「推し活」規制は、直接これら全ての応援活動に影響してしまった。メンバーへの投票行為、ファンがお金を集めての応援活動、コラボ商品の購入誘導などの行為を、国が明確に禁止したのだ。さらに、未成年の応援活動参加には厳しい制限を設けたと聞く。

中国で規制された「推し活」の一例

・芸能人の「人気ランキング」機能廃止
ファン同士の競い合いを避けるため、さまざまなサイトにある個人やグループのランキング投票機能はすべて廃止。音楽作品や映像作品のランキングのみ表示可能だが、芸能人の個人名が表記された作品はNG。

・「購買行動」の誘導を禁止
芸能人のスポンサー商品などにおいて、ファンの購買データ開示し、購入を煽るような行為はNG。また、売り上げ目標を設け、購買行動を誘導するPR活動も禁止。

・未成年の応援活動参加を禁止
未成年の応援活動、投げ銭やスポンサー商品の購入などを禁止。オンラインイベントは未成年の学業を影響しない前提でのみ開催。

 こうした「推し活」の規制に対して、中国のアイドルファンはどう感じたのか? オーディション番組出身アイドルの後援会で管理業務を担当している、北京在住のyumeさんに聞いてみた。 

  yumeさんはジャニーズや声優のファンを経て、現在は、昨年中国で放送されたオーディション番組からデビューした男性アイドル・Aさんを推している。ファンサイトを運営した経験もあり、今は国からの規制を受けながらも、Aさんの後援会では事務所との情報共有、ファンの組織化管理、ファンイベントの企画などの管理業務に携わっているという。

 アイドルの推し活が規制され、デイリーミッションのような活動や、スポンサ―商品への過度な課金や後援会の集金が制限されたことに対して、正直な感想を聞いたところ、yumeさんからは「ホッとした」と、意外な答えが飛び出した。

「アイドル黎明期の推し活は、“もっと多くの人に自分の推しを知ってほしい”という単純な気持ちが大きかったです。しかし、近年のアイドル人気に伴って、推し活は“絶対に他メンに負けたくない(推しが出世するチャンスを奪われたくない)”という、ファン同士の競い合いに変化してしまった。同時に、ファンの精神的な消耗も激しくなっていきました。そんな中、今回の規制があったので、加熱しすぎる推し活から解放されて、内心よかったと思うファンは結構多い。ただ、このままだとファン自体をやめてしまう人が増えるリスクもあるので、後援会に関わる身としては悩みどころです」(yumeさん)

 yumeさんいわく、規制の中でもファンを維持するには、アイドル本人が継続的にメディア露出するほか、ファン同士のつながりを保つために、ファンコミュニティ(=後援会)の役割が非常に重要だという。デイリーミッション的な活動はつらいが、これがファンを団結させた側面もあるため、全くなくなってしまうと困る部分もあるようだ。

 今後の後援会としての活動展開について聞いたところ、yumeさんは「まだまだ継続するつもり」と述べた。ただ、今はコロナ禍で大人数が集まって集会を開くことは難しいので、規模は縮小して行うという。

「SNSでの布教活動は、推しの今後のメディア露出度に直接関係するので、もちろん継続します。後援会内部でも、定期的に推しが出演したメディアを振り返るイベントを行ったり、ファンアートなどを見せ合う二次創作イベントを開催するなど、ファンが後援会へ参加する意欲を維持していきたいですね」(yumeさん)

 yumeさんの話からもわかる通り、「推し活」に規制はあるものの、ファンのあり方や、「推しを布教したい」というファン活動の根本が変わることはまずない。

 yumeさんが推しているAさんはすでにデビューしているため、アイドルとその後援会にとっては、応援活動の方法を見直し、派手な動きをしていなければ、規制があっても問題なくやり過ごせると思う。それに、今回の「推し活」規制の結果を見ると、ファン向けのアイドル人気ランキングが撤廃され、後援会運営のSNSアカウントがBAN(強制削除)されるといった処置は多いが、罰金などの処罰はない。

 そうなると正直、ファンたちの推しを応援したい気持ちは変わらないだろう。たとえSNSのアカウントが消されても、いくらでも転生して復活するし、規制に沿った“新しいゲームルール”に適応すればいいだけの話だ。規制を破ってしまっても問題ない、とまでは言えないが、「推し活」への影響は限定的だと筆者は考えている。

 最近の中国アイドルブームで初めて中国の芸能事情に触れた方々は、このような突如の規制に戸惑うかもしれない。しかし、中国出身の筆者にとっては、むしろ何かしらの規制が入ってくるという前提で中国のコンテンツ全般を見ていたので、「なるほど、今回はアイドル業界の番になったか」というのが正直な感想だった。

(後編につづく)

■はちこ
「現代中華オタク文化研究会」サークル主。小学生の頃、中国語吹き替え版の『キャプテン翼』(テレビ東京)で日本のアニメを知り、中学生の頃『ナルト』(同)で同人の沼にドハマり。以来、字幕なしでアニメを見ることを目標に、日本語学科へ進学。アニメをより深く理解するには日本の文化や社会の実体験が不可欠だと考え、2011年来日。名古屋大学大学院修士課程を修了後、都内勤務。現在も継続的に中華オタク関係の同人誌を執筆している。