• Sun. May 29th, 2022

山本ゆりさん「イライラしているときでも作れる」料理ほか、16人の料理家による役に立つ“食”エッセイ

時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!

今月の1冊:『生き抜くためのごはんの作り方 悩みに効く16人のレシピ』

  “レシピ”とタイトルにあるが、実際にはエッセイ集である。

 「人生において、料理ってこんなふうに役立つこともあるよ」「私は料理のこんなところに助けられてきたよ」ということをテーマに、16人の料理家が文章を寄せている。「ひとり暮らしを始めるので、料理を覚えていきたい」「食生活を見直したい」「ちゃんと自炊をしていきたい」と真剣に考えている人なら、かなり役立つ本だと思う。

 執筆陣は掲載順に、冨田ただすけ(料理研究家、「白ごはん.com」の主宰者)、寿木けい(エッセイスト・料理家)、有賀薫(スープ作家)、竹内ひろみ(自然派料理家)、西邨マユミ(マクロビオティックの専門家)、山本ゆり(料理コラムニスト)、高山なおみ(料理家・文筆家)、きじまりゅうた(料理研究家)、枝元なほみ(料理研究家)、リュウジ(料理研究家)、今井亮(料理研究家)、小田真規子(料理研究家)、おりえ(主婦)、ヤミー(料理研究家)、なかしましほ(料理家)、滝村雅晴(パパ料理研究家)の各氏。それぞれひとつずつレシピも披露する。彼らの年代はざっくり30代から60代、得意とする分野もかなり違って、バラエティに富む人選と言えるだろう。

 この本、「14歳の世渡り術」というシリーズの一冊で、書内には特にそのあたりに関する説明もないのだが、“中学生のうちに考える力を鍛えておこう、社会に出たときこんな視点を持っていたらきっと役立つはず”といったコンセプトのようだ。

 食べものが身体をつくる。だから、食事を自分で作ることができる=生きる力である、生き抜く力を若いうちに養ってほしい……的なことが編集部の筆によって序章に綴られる。いかにも正しいのだけれど、あまりに正論すぎて響きにくいかもしれない。人間日々栄養を考えて、しっかり自炊していければいいけど、なかなかそうもいかない。

 世間における食の悩みに日々対応している専門家たちの言葉はもっとダイレクトで鋭く、ピンポイントだ。例えば山本ゆりさん。“イライラしているとき、どう食べるべきか?”をテーマに書かれる。

 料理すること、栄養を考えることは当然大事だけれど、例えばインスタントラーメンや菓子パンが好物だとして、それらをどうしても食べたいときに我慢して、心は満たされるのだろうか? 

 山本さん自身もあれこれ逡巡しつつ、「暴飲暴食は余計にストレスになる。舌が一瞬満足しても、心もお腹も満たされない。だから、食べたいものと体にいいものを一致させることが重要だ」という地点にたどり着く。イライラしているときでも作れるぐらい簡単で、おいしく、栄養もあるレシピを考えたので作ってみてほしい……と軽快にエッセイは進む。料理名は「キャベツたっぷり豆乳カルボナーラうどん」だ。

 「洗い物もほとんど出ない」「豆乳が苦手でも大豆の風味はほとんどえ消えるから」なんて言葉を添えるところがさすが。SNSなどで多くの作り手の声を聞いてきた人ならではの気くばりというか。

 きじまりゅうたさんは、料理に必要なのは「段取り力」であると語る。「料理という作業は一度スタートしてしまうと、時を止めることはできない」だからこそプロセスにおいて何が必要で、何をどう用意しておけばいいのか。そこを考えることが大事だと。勉強や仕事でもこの力は活かされる、というのに納得。段取り力を養うために、きじまさんが“教材”に選んだのはなんとカップラーメンだ。いいなあ、このチョイス!

 「ええ、お湯入れればそれでOKじゃん」と思うなかれ。きじまさんが考える、カップラーメンを食べるために必要なプロセスは8つ(卵入りなので手間は増えるけれど、その分栄養価もよくなる)。読んでみると、「なるほど、普段無意識にこのぐらいのことをやっていたのか」と思わされるに違いない。そしてちょっと、自己肯定感も上がるかもしれない。

 その他、冨田ただすけさんの「“買えない料理”を作れることが、きっとこれからいろんな場面で自分を助けてくれる力になる」というメッセージも印象的。彼は「買えない料理」の一例として「焼き海苔にちょんと醤油をつけて炊き立てのごはんを挟むもの」なんてのを挙げる。何気ないものだが、確かに買えない。作りたてを食べられるというのは、自炊する人間が得られる大きな喜びのひとつなのだ。そんな小さなことが、自分を大きく助けてくれることもある。

 有賀薫さんの「食べることと出すことはセット」 という考えは万人に持っておいてほしいものだし、リュウジさんが料理を始めた理由と、料理することでどんな「力」を得ていくことができたかという話は、若い方にぜひ読んでほしいと思う。

 そして枝元なほみさんのエッセイには「作って、食べて、生きる」ことの意味と導きがやさしい言葉でギュッと詰まっている。必読です。

 最後に一点。本書にはマクロビオティックの考えも紹介されている。大人が、いろいろと食に関する基礎知識を身に付けた上で、自分の責任で実践するのは構わないけれど、十代のうちは肉も含めて幅広い食物を楽しく食べてほしいと私は思う。コラム内に「白い砂糖は使わず」とあるが、日本で一般的に販売されている白砂糖を食用にすることは何の問題もない。

 食事は人間の健康に深く関わることだけれども、どんなに健康的な食事を心がけていても、病気になるときはなる。これは避けがたいことだ。病気になったらいくら栄養バランスのいい食事をしても、それだけで病は治らない。病気を治すのは医療であることを忘れないでいてほしい。

白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター。「暮らしと食」をテーマに執筆する。 ライフワークのひとつが日本各地の郷土食やローカルフードの研究 。主な著書に『にっぽんのおにぎり』(理論社)『自炊力』(光文社新書)など。
Instagram:@hakuo416