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Netflix『未成年裁判』は“ほぼ実話”? モチーフになった事件と、ドラマで描かれなかった「犯行動機」のうわさ

 近年、K-POPや映画・ドラマを通じて韓国カルチャーの認知度は高まっている。そんな作品をさらに楽しむために、意外と知らない韓国近現代史を、映画研究者・崔盛旭氏が解説していく。

Netflixオリジナルドラマ『未成年裁判』

 最近、NetflixやAmazonプライムなどインターネット上のプラットフォームを通して配信される韓国ドラマの中には、実在の事件を題材にしたり、韓国の現状を反映した作品が目立つようになった。そして世界のどこからでも見ることができるこれらの作品によって、韓国ドラマ自体が世界的に熱い注目を浴びる機会も増えている。第79回ゴールデン・グローブ賞テレビ部門にノミネートされ、俳優のオ・ヨンスが韓国初の助演男優賞を受賞した『イカゲーム』のブームは良い例だろう。

 だが、作中で起こる事件の背景や物語の土台となる歴史など、韓国人でなければ細部まで理解しづらいドラマも少なくない。そこで、本コラムではこれまで韓国映画を取り上げてきたが、これからはドラマも含めて紹介し、映画・ドラマを問わず作品を一層楽しむための手助けをしていきたいと思う。それによって、より多様な視点から韓国の近現代史や社会の実情が浮かび上がってくるのではないだろうか。

 今回選んだのは、未成年の犯罪をテーマにしたNetflixオリジナルの韓国ドラマ『未成年裁判』(ホン・ジョンチャン監督、2022)だ。全10話の構成で、未成年による殺人事件や家出、DV、いじめなど、実際の事件を多岐にわたってモチーフにしたこの作品は、一時Netflixの世界ランキング・ベスト10に入るほどの高い視聴者数を記録した。

 その背景としては、未成年犯罪とそれをめぐる法的判断の難しさが世界共通の普遍的な問題であることが挙げられるだろう。だからこそ、事件や判決内容をめぐる現実とドラマの違いを知ることにも意義があるように思う。

 なぜならその違いは、現実をドラマ化する過程で必然的に行われる変形(脚色)によるものであり、変形には現実(の結末)に対する不満や失望を乗り越えるための「期待や願望」が反映されるからだ。そして、その「期待や願望」こそが、現実の変化を求めて作り手が社会に訴えるメッセージであり、問題提起でもあるといえるだろう。

 では『未成年裁判』にはどのような現実が反映され、また変形が施されているのだろうか。今回のコラムでは、全10話のうち1~2話で描かれた「仁川(インチョン)女児殺人事件」と呼ばれる、未成年による実在の小学生女児殺人事件を取り上げて紹介する。

あらすじ

 8歳の男児が残忍な手口で殺害されたにもかかわらず、満14歳未満の「触法少年」に該当する犯人は刑事責任を免れることとなる。事件後、少年法の廃止を要求する社会の声が一気に高まる中、ヨンファ地方裁判所の少年部に赴任したシム・ウンソク判事(キム・ヘス)は、早速この事件を担当することになった。

 犯人のペク・ソンウ(イ・ヨン)が触法少年は刑事処罰されないと認識した上で殺人を犯したことから、シムは共犯がいると直感する。そんな中、未成年の女学生、ハン・イェウン(ファン・ヒョンジョン)が共犯として捜査線上に浮上し、シムは同僚のチャ・テジュ判事(キム・ムヨル)と共に、調査に着手する。

 徐々に明らかになる事件の全貌。シムは触法少年および未成年に対する最高刑を言い渡すが、被害者遺族の苦しみは、そんな判決では決して慰めることのできない、あまりにも過酷なものだった。

 本作は、本来なら刑事責任が問われるはずの罪を犯した未成年に対して、少年法は果たして有効であるのかという「少年法のあり方」への問いかけから始まっている。

 犯罪そのものは十分厳罰に値するにもかかわらず、犯罪者が未成年であるという理由だけで、それを免れてよいだろうか。未成年犯罪者の更生を第一の目的とする少年法は、果たしてその目的通りに機能しているだろうか――こうした疑問や議論は、これまでも未成年犯罪で「軽い」判決結果が出るたびに、必ずと言っていいほど国民の中から噴出してきた。

 感情に左右されることなく公正を保たなければならない法の執行と、それに対して共感や納得ができない国民感情が衝突すると、「少年法廃止」を求める世論が高まる。国民感情からすれば、現在の韓国の少年法は「甘すぎる」のである。

 実際、次期大統領に当選したユン・ソギョルは「触法少年の年齢を満12歳未満に引き下げる」という検事出身らしい公約を掲げているが、一方で「法の改正」より更生のための「国家システムの改善」を訴える国民の意見も少なくない。

 韓国の「少年法」は「反社会的な少年に対してその環境の助成と性行の矯正に関する保護処分をし、刑事処分に関する特別処置をすることで少年の健全な育成を期する」(『警察学辞典』より)と定義されている。つまり、反社会的な少年の更生を図り、健全な育成を目的とするというわけだ。

 そして「少年」とは満19歳未満の者で、中でも満10歳~満14歳未満の少年は「触法少年」、つまり刑事処分ではなく保護処分の対象にするとしている。満14歳以上の少年は「犯罪少年」といい、刑事処分と保護処分の両方の対象になっている。

 最高刑は触法少年が2年間の少年院送致(10号処分)、犯罪少年が懲役20年である。『未成年裁判』でいえば、ペク・ソンウは触法少年、ハン・イェウンは犯罪少年に当たる。

 では、今作のモチーフになった「仁川女児殺人事件」とはどのようなものだったのだろうか。2017年、高校を中退したキム(当時満16歳)は公園で被害者の女児(当時8歳)から「スマートフォンを貸してくれないか」と声をかけられた。キムは「充電が必要だから」と言い、被害者を自宅マンションに連れていき、充電器のケーブルで首を絞め、殺害した。

 その後、被害者の遺体を切断し、一部はゴミ捨て場に、一部はマンション屋上の貯水槽に遺棄し、一部はキムが所持して出歩くなど、大胆な行動を見せる。夜遅くになっても帰宅しない被害者を心配して両親が警察に通報、警察は近所やエレベーターの監視カメラの映像からキムを容疑者として特定、逮捕した。

 そして、取り調べの過程で共犯のパク(当時満18歳)が浮上。犯行やアリバイ作りに関してキムと交わしたSNS上のチャットの記録が決め手となり、逮捕に至った。キムは精神疾患による偶発的な犯行だったと主張したが、2人が緻密な計画を立てて殺害していたことが明らかになり、判決では主犯のキムに「犯罪少年」の最高刑である懲役20年が、共犯のパクには懲役13年が言い渡された。

 だが、犯行の残虐性に対して2人には犯行動機がまったく見当たらず、まるで「遊び」かのように微塵の躊躇もなく殺人を犯していた。結局、判決にいたるまで、いかなる罪意識も持っていない態度を貫いたことから、国民は憤り、ドラマにも描かれているように「少年法廃止」や「厳罰化」の国民請願にまで及んだのである。

 その憤りには愛娘を奪われた上に、遺体を見ることさえ許されないという耐え難い苦痛を味わった遺族らへの思いが込められていることは言うまでもない。

 ちなみに、ドラマでは描かれなかったが、実際の犯行動機として世間でうわさされたのは、キムとパクがハマっていたというSNSコミュニティーのゲームだった。「総括」と呼ばれる管理者が与える設定に合わせて、メンバーたちがそれぞれのキャラクターを作成し、架空の殺人物語を作り上げていくゲームだという。

 これが犯行の直接的な動機になったとは言い切れないものの、本来ならば想像上で完結する殺人事件を、2人が現実に再現しようとしたのであれば、ゲームが影響を与えたと捉えることは十分に可能だ。この事件によって未成年に対するSNS規制も穴だらけということが浮き彫りになり、規制の強化を急ぐ声も上がったが、進展はなかった。

 こうして見ると、ドラマは被害者の性別や加害者の年齢など、いくつかの設定を除けば、実際の事件を非常に忠実に描いていることがわかる。だがその中でも、実際の事件の犯人たちが「犯罪少年」に当たる年齢であるのに対して、ドラマは犯人の一人を「触法少年」に変えている点は注目すべきだろう。

 犯罪少年と触法少年という異なる立場をわかりやすく打ち出すことによって、このドラマでは少年法の一番の盲点と指摘される「満10歳~満14歳未満」という年齢規定と、刑事処分除外の妥当性への問題提起を試みているからだ(実際、ドラマのペク・ソンウのように、最初から触法少年であることを自覚して罪を犯す未成年も非常に多い)。

 ドラマを見進めていくとより明らかになっていくが、本作のメッセージは単純に少年法の廃止や厳罰化を訴えるのではなく、加害者の家庭環境や学校という組織の問題、更生のための国家的システムの不十分さ、法が必ずしも被害者に寄り添えていない実態といった多層的なまなざしから少年法のあり方にアプローチし、判決を下す判事たちの葛藤や闘いを通して社会の構造的な問題を浮かび上がらせることにある。

 当然だが、未成年犯罪は決して未成年だけの問題ではない。社会全体の問題なのだ。

 今回紹介した事件から、日本では1997年に14歳の少年が起こした「神戸連続児童殺傷事件」を思い起こす人も多いかもしれない。普通の中学生による猟奇的な犯罪として日本中を震撼させたこの事件によって、日本でも少年法の限界や、加害少年の情報が漏えいし報道が過熱するなど、さまざまな問題や議論が巻き起こった。

 そして今年4月、成人年齢の引き下げに伴い、18~19歳の少年犯罪に対する厳罰化や実名報道の解禁といった少年法の改正が行われた。実際に、19歳の少年が起訴された「甲府夫婦殺人放火事件」をめぐっては、今回の法改正を受けて、各メディアで実名報道が行われている。まさに今、日本でも未成年犯罪に再び注目が集まっているといえるだろう。

 一方の韓国では、未成年犯罪に関してメディアが大々的に報道したり、憤った市民たちが厳罰化を求めて声を上げることはあっても、18歳未満の未成年犯罪をめぐる顔や実名の公開は、現在も禁止されている。

 だが、時代も社会も、そして子どもたちを取り巻く環境も大きく変化する中で、今後、日本のような改正が行われる可能性は十分考えられる。ドラマにも登場した「推定無罪」の重みや、名前や顔が出ることで発揮される犯罪の抑止力といったさまざまな要素を鑑みる必要があるだろう。

 未成年による犯罪が絶えない社会の現実にどう向き合い、いかなる判断を下すのか。加害者の裁判においては感情に揺れることなく常に冷徹でありながら、被害者の悲しみには共感し寄り添おうとする、キム・ヘス演じる「シム・ウンソク判事」の目を通して、ぜひ最後までドラマを見守ってほしい。 

崔盛旭(チェ・ソンウク)
1969年韓国生まれ。映画研究者。明治学院大学大学院で芸術学(映画専攻)博士号取得。著書に『今井正 戦時と戦後のあいだ』(クレイン)、共著に『韓国映画で学ぶ韓国社会と歴史』(キネマ旬報社)、『日本映画は生きている 第4巻 スクリーンのなかの他者』(岩波書店)など。韓国映画の魅力を、文化や社会的背景を交えながら伝える仕事に取り組んでいる。