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「やられた!」目の前で煙のように消えた万引き犯――ベテランGメンが執念の追跡で捕まえた犯人の正体!

 こんにちは、保安員の澄江です。

 新型コロナウイルスの蔓延防止対策による行動規制は終わり、街の雰囲気も段々と活気づいてきました。どこの街に行っても、人出の増加を実感するほどで、商店も客足を取り戻しつつあるようです。

 かといって、景気が良くなったわけではないので、私たちの仕事に変わりはありません。仕事を失い、食うに困って弁当や惣菜を盗む人も減ることなく、犯行を繰り返すことで生き延びているような状態に陥っている人が散見されます。

 生活費の節約を目的に万引き常習者と化した主婦は、年齢を問わず幅広く潜在しており、換金目的の犯行にまで手を染める者が増えました。生き残るためにと、家族総出で犯行に及ぶ「万引き一家」も増加傾向にあるようで、親の指示でやむなく犯行に加担したと涙ながらに告白する小学生を捕捉したときには、その非情な環境に触れて涙が止まらなかったです。

 コロナウイルスによる経済停滞やロシアのウクライナ侵攻、さらには急激な円安に追い打ちをかけられた日本経済は、いつになったら落ち着くのでしょうか。景気が悪くなるほど、街の治安は悪化していくので、早期回復を期待するばかりです。

 今回は、コロナ不況で増加傾向にある内部不正事案について、お話ししたいと思います。

大型ショッピングモール、カツサンドを持った不審な女性

 当日の現場は、東京の外れに位置する大型ショッピングモールD。広大な駐車場と売り場面積を誇る人気店です。この日の勤務は、午前11時から午後7時まで。ここ数年、毎月のように入っている現場なので、店内把握(店内構造を熟知すること)の必要はありません。早い時間は、お客さんの流れがある食品売り場を中心に巡回することにして、ランチ目当ての来店客に紛れて周囲の警戒を始めます。

「あの女(ひと)、大丈夫かな?」

 およそ30分後、有名店のカツサンドとパック入りのサラダ、それに透明の容器に入ったスムージーを手にしたショートカットの女性が、化粧品売り場に入っていく姿が目に留まりました。カゴを持つことなく、商品を直接手に持って抱え歩く姿に、妙な違和感を覚えたのです。

 おそらくは仕事中なのでしょう。一見して20代前半くらいに見える女性は、白いポロシャツに黒パンツといった服装で、休憩前の買い出しに来られたような雰囲気です。すると、化粧品売り場でリップスティックを棚取りした女性は、それをカツサンドの上に載せてレジ方面に向かって歩いていきました。

 不審感が拭えず、精算完了まで遠目から見守ることにすると、レジ列を避けて多くのテナントが軒を連ねる専門店街に向かって歩いていくので、慌てて後を追いかけます。すると、正面から異臭漂うホームレス風の男性が現れました。職業柄、自然と目を奪われ、その隙に女の姿を見失ってしまいました。

「どこに行ったのかしら?」

 慌てて周囲を探すも、女の姿はありません。近くにある旅行代理店やモバイルショップなど、周囲のテナントはもちろん店外にまで探索範囲を広げて10分近く探してみましたが、その姿を見つけることはできませんでした。

「やられた!」

 冷静に考えれば、いまここに女が現れても、声をかけるわけにはいきません。目切れ(目を離しているという意味)している間に、何をしているかわからないので、もはやあきらめるほかないのです。気持ちを切り替えて食品売り場に戻ると、先ほど目を奪われたホームレス風の男性が、298円の激安弁当と38円のお茶を手に持ってレジに並んでいました。

「今日は、ダメかもしれないわ」

 朝一番から失敗してしまったことが響いたのか、なにひとつ活躍できぬまま業務は終盤を迎えます。眠気を堪え、疲れた体を引きずるように巡回していると、一瞬にして目の覚める出来事が起こりました。

 朝、見失った女が、菓子売り場に現れたのです。運のいいことに、店に入ってきたばかりのようで、まだ何も手にしていない状況です。

「きっと、やる」

 そう確信して行動を見守れば、特上の握り寿司と特定保健系のお茶(500ml)を手に取った女は、次に菓子売り場で舶来物のクッキーと箱入りのチョコレートを棚取りして握り寿司の上に載せると、朝見た時と同じ経路でレジを通過しました。

 またしても専門店街へ向かっていくので、見失わないよう近距離で追尾すると、テナントのモバイルショップに入っていきました。裏のバックヤードに入っていくところをみれば、ここの従業員に違いありません。

 内部不正事案の場合、本来であれば一度見送り、クライアントの指示を仰いでから声をかけるのがルールです。しかしながら女はテナントの従業員で、クライアントの社員ではないので、中まで追いかけて声をかけることにしました。朝のこともあるし、いま盗んだ商品を食べられてしまえば証拠隠滅されることにもなるので、すぐに決着をつけたかったのです。

「お疲れさまです。D社の保安です」
「え? ああ、お疲れさまです。なんですか?」
「先ほど売り場で手にした商品のご精算、まだのようですが、どうされるおつもりですか?」
「……いや、払いましたけど」

 否定されたものの、ひどく動揺しており、彼女の顔をみれば自白しているのと変わらぬ状況にありました。すると、私たちの様子を呆然としながら遠巻きに見ていたモバイルショップの店長らしき男性が、気まずい様子で私のそばに来て耳元でささやきます。

「お疲れさまです。ここの責任者ですけど、彼女、なにをしたんですか?」
「ご本人がいいなら別ですけど、私からお話しするわけにはいかないので、その商品を持たせて、事務所まで一緒にきてもらえますか?」

 本人が認めていない段階で、私の口から事実を告知するわけにはいきません。大体のことは察しているだろう店長も、あえて詳しいことは聞かずに女を立たせて、一緒に行こうと促してくれています。

 事務所の応接室に到着して、未精算の商品をテーブルに並べてもらったところで、モバイルショップの店長が言いました。

「〇×さん。これ、どうしたの?」
「ごめんなさい……」
「間違えちゃったなら、ちゃんと話したほうがいいよ。会社に報告されるだろうし、きちんとしよう」
「すみません、ごめんなさい。私……」

 逃げきれぬと察した様子で、涙ながらに犯行を認めた女は、朝の犯行も素直に認めてくれました。事務所までの道中に逃走経路を聞けば、同じくバックヤードに入ったと話していたので、道理で見つからないわけだと合点がいった次第です。

 この日の被害は、すべてを合わせて計7点、合計4,000円ほど。

 派遣社員だという女は23歳で、商品を買い取れるだけのお金は持っていると話しています。モール側の店長に状況を説明すると、テナントの従業員であることを考慮されたのか、警察は呼ばずにすませたいと言われました。

 結局、各々の会社に事故報告をあげることを約束して、事態は終結。商品代金の精算のため、午前中に盗んだリップスティックを出すよう求めると、財布も商品もロッカーにあるというのでモバイルショップの店長と3人でテナントのバックヤードまで取りに伺います。

 すぐにでも逃げ出したい。

 そんな表情の女が、いやいやながらロッカーを開くと、その中には大量の商品が入っていました。値札のついた洋服や化粧品のほか、色の変わった菓子パンなどが、乱雑に保管されていたのです。

「これ全部、お金払ってなさそうね」
「……ごめんなさい。本当にすみません」
「なんで、こんなことを?」
「父の仕事がうまくいかなくて、家にお金を入れているから、いろいろと足りなくなっちゃって……」

 結局、すべてを認めて即時解雇となった女は、ロッカー内に残されていた商品の代金を精算することで許されました。大きな企業ほど身内の不祥事を隠したがるもので、一歩間違えば逮捕されていただろう被疑者からすれば、この上なくラッキーな展開だったといえるでしょう。

 後日、テナントとして入っていたモバイルショップのテナント契約は更新されず、いまはマッサージ店が入居しています。

(文=澄江、監修=伊東ゆう)

本コラムを監修している伊東ゆうさんが新連載を開始しました。ぜひご覧ください。
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