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『ちむどんどん』は対象年齢3歳~。ヒロイン・暢子一家の借金問題だって“なんとかなる”、史上最も“やさしい”朝ドラ

ByAdmin

May 21, 2022

テレビ・エンタメウォッチャー界のはみ出し者、佃野デボラが「下から目線」であらゆる「人」「もの」「こと」をホメゴロシます。

【今回のホメゴロシ!】伸るか反るか! NHKが賭けに出た“愛すべきクソゲー朝ドラ”『ちむどんどん』の“魅力”に迫る

 4月から放送を開始し、今週から「東京編」に突入した連続テレビ小説『ちむどんどん』(NHK総合)から目が離せない。本作は、沖縄本島北部の山原(やんばる)に生まれたヒロインとその家族が、本土復帰前後の時代を、貧しいながらも力強く生きる姿を描いた作品だが、エピソードの整合性やプロセスの積み重ね、人物の細やかな心情描写、それらすべてを「しゃらくせえ!」とばかりにすっ飛ばす“大胆”な構成が見事だ。

 ここ数年、一部の朝ドラには、若年層の視聴者を開拓しようとするNHKの試みが見てとれる。別稿「朝ドラ『半分、青い。』脚本家・北川悦吏子の“革命的な表現手法”“トレンディ霊力”をホメゴロス」(https://www.cyzowoman.com/2018/06/post_186024_2.html)で、筆者は『半分、青い。』の作り手が「視聴者の理解力を小学校低学年程度に想定している」と書いたが、あれから4年の時を経て朝ドラはさらに“進化”を遂げた。本作はどうやら、「3歳児から楽しめる朝ドラ」として作られているようだ。

◎20年後の顧客を見据えたNHKの豪胆な戦略

 3歳児の目と耳を引き付けるために、この朝ドラではとにかく「動きがわかりやすく大袈裟」であることが重視されている。「沖縄編」では、やんばるの美しい自然の中をヒロイン・暢子(稲垣来未/黒島結菜)が溌剌と駆けまわり、海に向かって両手を広げて叫ぶ。「東京編」では“破茶滅茶コント”風のドタバタ劇が展開。大音量の劇伴が「ここ、感動するところですよ」「笑うところですよ」と視聴者の耳たぶをつかんで無理やり引き入れようとする。また、わかりやすい“悪者”が登場して、なにかと「対決」の構図が置かれる。なんだかんだあってトラブルが解決して「ちむどんどん(胸がわくわく)」する。だいたいこのパターンの繰り返しだ。

 「苦難」や「試練」の描写を極力避けるあたりも「お子様向け」の“やさしい”作劇と言えよう。本土復帰50周年にちなみ返還前後の沖縄を舞台に据えながら、基地問題も米兵もコザ騒動も出てこない。時代性が伝わってこない。戦争とアメリカ統治下の時代を生き抜いた沖縄の人々の苦しみも、そこから立ち上がるたくましさも、ほぼ描かれない。もちろん朝ドラという枠ならでの制限は多分にあろうが、いくらでも表現の方法はあるはずだ。

 ともあれ、お子様向けということなら致し方ない。『おかあさんといっしょ』(NHK Eテレ)とセットで、ぜひ母子で見てもらいたい、制作側はそんな期待を『ちむどんどん』に寄せているようにも見える。現在3歳のお子様たちも20年後には大切なお客様。未来の受信料支払者を丁重に扱う、NHKの商魂とチャレンジ精神に感服するばかりだ。

◎「愛すべきクソゲー」にも似た味わいの作劇

 お子様向けであると同時に、この朝ドラは、初代ファミコンの大味なゲームのようにも感じられる。“1面”(1週)ごとに登場する、背景も人格もまったく描かれていない、あからさまな「敵役」の雑魚キャラが実にゲーム的だ。「小獣・ヤーイボロボロー」(「貧乏」を理由に突然狂ったようにヒロイン4きょうだいをいじめ出す島袋)や、「妖怪・オンナノクセニー」(暢子の就職先となるはずだったが、ステレオタイプの性差別をかましてくる眞境名商事の幹部たち、そして社長の息子)などが“各面”でヒロインの前に立ちはだかるが、だいたいぶん殴るかバックレるかで攻略できる。

 世界観やストーリー、人物の心情を「描写」するのではなく、設定を「説明」するだけというのも、ゲームっぽい。
 
「ここは ほんどふっきまえの おきなわ」
「のぶこのいえは びんぼうでした しゃっきんも ありました」
「でも ゆうこの きょうどうばいてんでの しゅうにゅうと 
はたけしごとだけで せいかつは どうにかなりました」
「のぶこは とつぜん おもいました 
とうきょうで りょうりにんに なりたい!」

 「そういう設定なんで、つべこべ言わずに、そういうものとしてプレー(視聴)してください」ということらしい。ここまでくると、いっそ清々しい。

 本土復帰前後の沖縄が舞台の『ちむどんどん』だが、「それを題材に選んだ意味を見いだせない」という点において、人気漫画『タッチ』(小学館)のゲーム化を謳いながら犬を探すだけのクソゲーだった『CITY ADVENTURE タッチ MYSTERY OF TRIANGLE』(1987年発売)に通じるものがある。

 また、暢子が青いシークワーサーをかじれば戦闘力が1.5倍増し、さまざまな試練を蹴散らすことができるという設定は、主人公の筋肉が薬によって増強され、無敵になるクソゲー『突然!マッチョマン』(88年発売)を彷彿とさせる。なにより「突然!」という世界観が似ている。『ちむどんどん』に副題をつけるなら、「突然!料理人」というのはどうだろうか。 

 さらに、地元の山原高校の音楽教師・下地先生(片桐はいり)と、歌がうまい4きょうだいの末っ子・歌子(上白石萌歌)がしつこく繰り返す「追いかけっこ」は、歌子をかくまった風呂敷の模様に、下地先生が目を回すというオチも含め、クソゲー内ミニゲームの様相を呈していた。もちろん、このミニゲームによるボーナス(物語へのなにがしかの寄与)は一切ない。

 しかし多くの人が「クソゲー」という言葉を口にする刹那、心に宿るのは懐旧と愛着の念だ。この朝ドラも、そんな「いろいろと雑で無茶苦茶だけど、なんだかんだクセになって、つい最後まで見てしまう」という“味わい”を目指しているような気が、しないでもない。

◎ヒロインたちの冒険を助ける、さまざまな“アイテム”と“呪文”

 前述した、暢子にとっての「青いシークワーサー」や、暢子の兄・賢秀(竜星涼)がずっと頭に着けている「マグネット・オーロラスーパーバンド一番星」など、「アイテム」が重要な意味を持つのも本作の特徴だ。

 現時点の時代設定である70年代前半、シークワーサーは沖縄県外ではなかなか手に入らなかったという。「東京編」に突入したため、今後暢子がピンチに面した際、お助けアイテムがないのが少し心配だが、ご安心あれ。暢子には「ヒロイン無双アーマー(鎧)」があらかじめ装備されているので、何が起こっても、必ずなんとかなる。さらに、上京前に母・優子(仲間由紀恵)から魔法の刃「ケンゾーナイフ」(亡き父・賢三[大森南朋]の名入り包丁)を授ったので百人力だ。

 「魔法の呪文」の存在も欠かせない。“1面”(1週)につき最低1コールがノルマの言葉「ちむどんどんする〜」は、暢子のHPを上げる。視聴者にはさして「どんどん」が感じられなくても、暢子がそう言えばとにかく「どんどん」したことになるのだ。比嘉家に代々伝わる呪文「お願いします!」を唱えながらBボタンを長押しして頭を下げれば、すでにある借金はいつまでも返済を待ってもらえるし、新たな借金を重ねることもできる。さらに、「幸せになります!」を組み合わせることで「合体魔法」が成就する。

 「沖縄編」“2面”(第2週)で口減らしのため東京の親戚のところに行くことになっていた暢子が、2つの呪文による「合体魔法」により、あっさりと行かないで済むことになったのには度肝を抜かれた。このシーンで、賢三に金を貸し、賢三が作った銀行からの借金の保証人にもなっている暢子の大叔父・賢吉(石丸謙二郎)の抜け殻のような表情が、何度でも見返したくなるほどに白眉だった。「2つの呪文を唱えれば、賢吉の『無の表情』が現れる」というマニア向けコマンドも、心に留めておきたい。

 と、ここで、身も蓋もない話になってしまうのだが、結局「なぜかハンマー」というアイテムがこの物語のすべての鍵を握っているといっても過言ではない。これを使えば、だいたいのことは「なぜか」どうにでもなる。貧乏な比嘉家の子ども4人が全員、なぜか中学卒業後に働かず高校まで進学できて、長女の良子(川口春奈)に至っては名護の短大まで卒業できたのも、上京した賢秀がなぜか爆速でプロボクサーのテストに合格したのも、暢子が知らない住宅街で雨宿りしていたら、なぜか三線の音が聞こえてきて、沖縄県人会の会長宅に拾われ、風呂と食事と寝床の提供を受け、さらに仕事の世話までしてもらえたのも、「なぜかハンマー」が作動したからにほかならない。

◎「借金、ダメ!絶対」啓蒙朝ドラとしての側面と今後の見どころ

 3歳児から楽しめるこの朝ドラにも、非常に強固なメッセージが一つだけある。それは、「どんな理由があろうと、誰かの保証人になってはならない。金を貸してはいけない」という教訓だ。比嘉家が多重債務の蟻地獄にはまっていく姿や、その元凶である優子と賢秀の「母親と長男の共依存」に関する描写だけがやけに微細で、その姿は、現代にも通ずる社会の「闇」を我々に伝えてくれている。

 そんな『ちむどんどん』だが、今後の見どころは盛りだくさんだ。「多重債務どこまでいけるかチキンレース」は、いつ決着するのかという問題。優子がヒロインの最大の理解者を装いながらも、実はラスボス(最大の障壁)なのではないかという疑惑。母・優子の前で天下無双の威力を発揮する鎧「長男アーマー」を生まれながらに装備している賢秀の巻き起こすトラブル。これらは物語にどう絡んでいくのだろうか。

 さらに、本作が『若草物語』をモチーフにしたばかりに、歌子に課された「すぐに熱を出す」という記号的ハンデは、「なぜかハンマー」の力を借りてある日突然解除されるのか。下地先生と歌子からバトンを引き継ぎ、しつこく繰り返される製糖工場の跡取り息子・金吾(渡辺大知)と良子の追いかけっこにはどうオチがつくのか。良子が金吾と結婚する「玉の輿ブースト」で終着するのか、それともダスティン・ホフマンよろしく、友人・石川(山田裕貴)が土壇場で良子を奪いにくる「『卒業』ミニゲーム」となるのか。「そもそもオールクリア(最終回まで見届けることが)できるのか」というチャレンジも込みで、「ちむどんどん」しながら注目していきたい。