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木村拓哉、“封印”されたドラマ『ギフト』の魅力――今とは違うダークヒーローとしての存在感

――ドラマにはいつも時代と生きる“俳優”がいる。『キャラクタードラマの誕生』(河出書房新社)『テレビドラマクロニクル1990→2020』(PLANETS)などの著書で知られるドラマ評論家・成馬零一氏が、“俳優”にスポットを当てて90年代の名作ドラマをレビューする。

 1997年に放送されたドラマ『ギフト』(フジテレビ系)は、木村拓哉演じる記憶喪失の青年・早坂由紀夫が「届け屋」として、依頼人から受け取ったさまざまな荷物を届ける1話完結の物語だ。

 由紀夫が届ける謎の荷物の背後に、複雑な人間ドラマが絡み合う大きな事件が存在し、最終的に意外な結末を迎えるというのが各話の流れ。萩原健一主演の『傷だらけの天使』や、松田優作主演の『探偵物語』(どちらも日本テレビ系)といった、1970年代に放送された男臭い探偵モノのドラマを、当時大人気アイドルの木村で撮るというコンセプトが前面に押し出された作品となっていた。

 同時に、記憶喪失の由紀夫は事件を解決するごとに過去の記憶が少しずつ蘇り、最終的に本当の自分と対峙することになるため、「自分探し」的な要素も打ち出された。心理学がブームとなり、「心の時代」と言われていた90年代らしい作品だとも感じる。

 由紀夫は届け屋として都内を走り回るのだが、GUCCIのスーツを着てクロスバイクで疾走する木村の姿が実にカッコいい。ほかにも、ストップウォッチやポラロイドカメラといった小道具の持ち方、葉巻を咥える時に見せるさりげない仕草や台詞回しが、どれも魅力的だ。

 今では「何をやってもキムタク」と揶揄されることもあるが、当時の木村の演技はとても自然なものとして視聴者の目に映った。少しだるそうな台詞の言い回しや軽妙な身のこなしは、90年代の若者の振る舞いがそのままドラマの中に入ってきたかのような衝撃があった。

 クールなトーンでしゃべっているかと思うと、突然、怒鳴りつけるといった緩急のある芝居も魅力的で、木村の一つひとつの仕草から目が離せない。そして何より感じるのは、男臭くもありながら中性的でセクシーという、木村にしか出せない圧倒的な色気である。

 物語の冒頭、由紀夫は51億円を横領した代議士・岸和田のマンションにあるクローゼットの中から発見される。血まみれで丸裸の木村がクローゼットから転がり落ちる場面はとてもセクシーで、当時の木村が担っていた、少年のようでも少女のようでもある中性的な色気をワンシーンで表現した名場面といえる。

 この色気は、ワイルドな男臭さが魅力の萩原や松田には出せないもので、映画『太陽を盗んだ男』やドラマ『悪魔のようなあいつ』(TBS系)で主演を務めた沢田研二のダーティーな色気を彷彿とさせた。なお、沢田は『ギフト』の最終話、写真で出演している。おそらく作り手の意識の中に、当時の木村と沢田を重ねているところがあったのだろう。

 つまり『ギフト』の木村には、萩原、松田、沢田が過去に見せた魅力が投影されているのだが、90年代の木村主演ドラマが面白いのは、作品ごとに作り手が木村に演じさせたい魅力的な男性像が微妙に違うことだ。

 『その時、ハートは盗まれた』『あすなろ白書』『ロングバケーション』(すべてフジテレビ系)といった、北川悦吏子氏の脚本で木村が演じた役は、優等生で気弱な青年。どちらかというと、少女漫画の王子様的な存在だった。対して『若者のすべて』(同)や『人生は上々だ』(TBS系)で木村が演じた役はワイルドなチンピラ風で、男が惚れる男の風貌であった。

 『ギフト』はどちらかというと後者だが、全裸で登場する冒頭の場面を筆頭に、とてもセクシーな存在として描かれた。同時に、普通の人が躊ちょするような、反社会的で危険な行為ですらクールにこなす、ダークヒーローとしての魅力も強くにじみ出ていた。しかしこれが、のちに作品を悲劇に巻き込んでしまう。

 最終話、記憶喪失だった由紀夫の過去がついに明らかになる。本当の由紀夫は「溝口武弘」という悪党で、仲間のチンピラとともにケンカやセックスに明け暮れており、護身用にバタフライナイフを持ち歩いている危険な男であった。

 『ギフト』放送終了後の98年。13歳の少年がバタフライナイフで教師を刺殺する事件が起きた。少年は同作でナイフを使う木村の姿を「カッコいい」と思い、自身も購入したのだと語った。これにより同作は“封印”され、各テレビ局で再放送が中止に。2019年にDVD-BOXが発売されるまで幻の作品となっていた。

 13歳の少年がカッコいいと思った木村の姿は、早坂由紀夫ではなく溝口武弘だったのだろう。何かあるとナイフをチラつかせて相手を威嚇する溝口の振る舞いを、作り手は「否定すべき弱さ」として描いていたのだが、木村が演じたことで、クールでカッコいいダークヒーローとしての魅力が備わってしまった。

 溝口がバタフライナイフを取り出す時の仕草は確かにカッコよくて、残念ながらこれは否定できない。このあたりはフィクションの難しいところで、作り手の意図が曲解されて視聴者に届いてしまった悲劇だと今は感じる。

 『ギフト』の事件がどの程度、その後の仕事に影響したのかは定かではないが、木村の演じる役は徐々に保守化していった。

 2001年に型破りの若手検事を演じた『HERO』(フジテレビ系)を筆頭に、木村はカリスマ美容師、パイロット、社長、総理大臣といった華やかな職業の主人公を務めるようになり、同時に“正統派ヒーロー路線”へと変わった。しかし、『ギフト』がお蔵入りせずに、ダークヒーロー路線の木村主演ドラマが作られ続けていたら、今とは違うダーティーな姿がもっと見られたかもしれないと思うと、まことに残念だ。

 今年、木村は50歳となる。当時の色気は90年代の木村にしか出せないものだが、歳を重ねた今だからこそできる老獪な悪役を、そろそろ演じる頃ではないかと『ギフト』を見返して思う。
(成馬零一)