• Tue. Jan 31st, 2023

『ザ・ノンフィクション』火事を起こした元ラーメン屋・のぼるは“孤独死”なのか?「酒と涙と女たちの歌2 ~塙山キャバレー物語~ 前編」

 日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。1月15日の放送は「酒と涙と女たちの歌2 ~塙山キャバレー物語~ 前編」。

『ザ・ノンフィクション』あらすじ

 茨城県北部、日立製作所の企業城下町でもある日立市。全国チェーン系の商業施設や、飲食店が並ぶ国道沿いには、昭和で時が止まったかのような簡素な青いトタン張りのスナックや居酒屋が並ぶ「塙山(はなやま)キャバレー」と呼ばれる一画がある。60年ほど前に誕生し、現在は14軒が営業中だ。

 塙山キャバレーを支えてきたのは店を切り盛りするママたちの働きぶりと、ママ同士の絆、何より塙山への愛情だ。「みんと(以下もカギカッコ名は店名)」のママは、客に出すビールが切れてしまった際は塙山内の別の店「めぐみ」でもらってきて、と客に伝える。

 客がジョッキ片手にビールをもらいにいった先の「めぐみ」は、家族連れの客も多く、和やかなでくつろいだ雰囲気だ。

 塙山を訪ねる客の事情もさまざま。肺がんのステージ4の女性客は、ママが好きだからと「みき」を訪ね、また、仕事が続かない息子と話し合いたい父親は、話し合いの場に「ふじ」を選ぶ。息子はカウンターで気持ちを吐露し、「ふじ」のママは「真面目すぎるんだよ」と伝えていた。

 そんな常連の一人・のぼるは、もともと塙山キャバレー内でラーメン店を開いていたものの、店からの漏電が原因で、5軒が全焼する火事を起こしてしまう。塙山キャバレーは店が外周を囲むように並んでおり、中央に店が密集する「島」の部分もあったのだが、その島が焼け落ちる形となり、今でもその場所はぽっかりと空いたままだ。

 のぼるはその後、脳梗塞を患い、生活保護で生活している。「働いていないと狂う」のだといい、塙山キャバレー周辺の草むしりをした後、塙山で飲む一杯のビールを楽しみにしていたのだが、のぼるは2022年2月に自宅で亡くなる。第一発見者はのぼるの幼なじみで「めぐみ」のママだった。

 のぼるは苦難の多い人生だった。幼少期に飲んだ薬の副作用で身長が伸びず、学校の入学は3年ほど遅れていたという。両親が離婚し児童養護施設で過ごし、船乗りに憧れ海洋高校を目指すも、身長制限でそれもかなわなかった。職を転々とした中でようやく塙山で自分の店を持つも、それも漏電による火災で失うことに。

 亡くなる前日、のぼるは回転寿司チェーン店「スシロー」で、塙山キャバレーのママたちに寿司をふるまっていたそうだ。ママや塙山の常連客たちは、のぼるの火葬に立ち会いたいと市役所に相談するも、市役所からは法的な理由で難しいとの回答で、有志のママが集まり、店で遺影を前にのぼるを偲ぶ。

 ある日、「めぐみ」のママに43歳の息子から連絡が入るが、電話をしながら車を運転していたところ、警察の検問に引っかかってしまったため、2万5,000円の違反金を立て替えてほしいとの話だった。息子は足場を組む仕事をしており、朝から晩まで働き詰めなのだが、息子の妻が宗教にハマり金を使い込んでしまっているとママは話す。

 また「ラブ」のママは、長年連れ添った内縁の夫を癌で亡くし、傷心の中、店をやめようかと思い悩む。

(↓前回2021年放送の塙山キャバレーレビューはこちらから。「ラブ」のママの詳細もあります)

『ザ・ノンフィクション』のぼるの死は本当に“孤独死”なのか?

 「亡くなったときに独りだった」「親交のあった人々が葬式で別れを告げられない」という意味では、のぼるは孤独死なのかもしれない。ただ、のぼるは亡くなった前日、最愛の塙山キャバレーのママたちに寿司をふるまっていた。「亡くなる前に、好物を好きな人とおいしく食べる」 という時間を持てる人は、少ないのではないだろうか。

 また、のぼるは、もらい火になってしまった店のママとは疎遠になってしまったようだが、火事を出した罪悪感からか塙山に通い続けていた。スシローには疎遠になったママも誘い、久々に話すことができたという。のぼるは人間関係に対し、諦めが悪い。そのタフさがいい。

 のぼるは苦労人だったのだろうが、流されずに困難に立ち向かっていた人に見えた。塙山というかけがえのない場所とママたちが心の中心にあり、つながりを持ち続けたのぼるは「孤独死ではない」と筆者は思う。

『ザ・ノンフィクション』番組スタッフの冴えた質問

 ちなみに、「めぐみ」ママの息子の妻が宗教にかなり金をつぎ込んでいることが明かされた際、番組スタッフの質問が非常に冴えていた。

スタッフ「今話題のあの宗教?」
めぐみママ「違う違う、あれじゃないやつ」

 「宗教」「献金」で多くの視聴者の頭をよぎったであろうものを、ぬかりなく訊ねた輝かしい質問だった。

 家族関係に暗い影を落としかねないほどの“献金”を要求する宗教は、ほかにもあるのだろう。宗教なのに罪深い。財布に優しい料金でほっとくつろげる塙山キャバレーのほうが、よほど人を慰め、救っている。

 次週は今週の続編。店を閉めようか思いあぐねる「ラブ」のママの決断は……。