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フェムテックは女性の「生産性をあげるため」のものではない!

ByAdmin

7月 2, 2021

 2020年は日本の「フェムテック」元年とも呼ばれ、フェムテックという言葉の認知度がアップした年です。しかし、実際、フェムテックとは何を意味しているのでしょうか? 

 女性のためのプロダクトであればすべてフェムテックなのか。「女性の生産性を上げる」という文脈でフェムテックが語られることもあり、なんとなくモヤモヤを感じることも……。

 そこで今回は、フェムテック市場が拡大している背景や、フェムテックが生産性向上のために利用されることへの違和感について、フェムテック企業「fermata(フェルマータ)」の共同創業者でCCOの 中村寛子さんにお話を伺いました。

中村寛子
Edinburgh Napier University 卒。2015年「mash-inc.」を設立。女性のエンパワメントを軸に、ジェンダー、年齢、働き方、健康の問題などをテーマにセッションやワークショップを行うダイバーシティー推進のビジネスカンファレンス「MASHING UP」を企画プロデュース。2019年「fermata」(フェルマータ)を共同創業し、フェムテック関連のコミュニティ運営、イベント開催、プロダクトの開発、販売を行なっている。

フェムテックはそもそも、投資家のための言葉だった
――まず、フェムテック(Femtech)とはどういったものを指す言葉なのでしょうか?

中村寛子さん(以下、中村):フェムテックとは、女性(female)とテクノロジー(technology)を合わせた造語で、「女性の健康課題を解決するモノやサービス」のことです。

 2012年にベルリンのスタートアップ企業のco-founder / ChairwomanであるIda Tinさんによって作られた、まだまだ新しい言葉なんです。これまで、女性向けのテクノロジーを扱う企業は投資を受けにくいと言われていましたが、フェムテックという言葉を通じて、そこに市場があることを明らかにしたものであり、本来は投資家や起業家間で使われていた 言葉だったんです。そのため、当時は一般消費者が使うことは想定されていなかったのではないでしょうか 。

 ただ、日本では最近、フェムテックという言葉がメディアで取り上げられる機会も多くなり、投資家や起業家以外の方にも広まっていますよね。それに伴って、フェムテックの定義や捉え方も 、様々 になってきているように感じます。

 まだ新しい言葉ですから、どのようにフェムテックが定義されるのかは、社会に委ねられている段階だと言えます。

 私自身は、フェムテックに は、「女性の心身にまつわるタブー(固定観念)を変容するムーブメント 」といった側面 もあると捉えています。フェムテックというモノが現れてきたことにより、これまで語りにくかった話題を語り、心身にまつわるタブーや固定観念を揺るがすきっかけになっていると思います。

――では、なぜ今、日本でフェムテックがブームになっているのでしょうか?

中村:現在fermataでは、フェムテックプロダクトの店舗・オンライン販売だけではなく、イベントやコミュニティの運営も行っています。イベントでは、生理、妊娠、更年期など、女性の心身にまつわる情報を提供したり、モヤモヤしていることを参加者で共有し合ったりしています。そこで感じたのは、これまで潜在的にあった「語りたい」というニーズが、フェムテックという言葉の出現によって掘り起こされたのだということです。

 ただ、fermataがフェムテックの先駆者と言ってくださる方もいるのですが、キーワードでひとまとめにされていなかっただけで、実際はもっと前からフェムテック的なモノやサービスは存在していました。 たとえば生理日予測アプリの『ルナルナ』さんはサービス開始から20年以上経っていますし、女性向けのセクシャルウェルネス・プロダクトを販売されている『ラブピースクラブ』さんも今年で25周年を迎えられています 。

 こういった先人がコツコツと市場を切り開き、フェムテックが受け入れやすい土壌を固めてくれていたからこそ、現在のフェムテックブームがあるのだと感じています。

架空の人物 を基準に「生産性」が語られる社会構造こそが問題
――フェムテックは本来、女性が健康的に生活するためのものだったり、女性が自身の体について語るムーブメントとのことですが、最近は「女性の生産性を高めるためのもの。社会的、経済的利益に資するもの」という視点で語られる場面もあります。たとえば、「 フェムテックを社内で活用して、女性の働き方を改革する」などです。この点についてはどうお考えでしょうか?

中村:フェムテックは、女性の生産性を上げるためのものではなく、女性がよりよく生きる ためのものだと理解しています。

 そもそも、「フェムテックを使って女性の生産性を上げよう」という文脈で語られるときの“生産性”とはなんなのだろう、と思うんです。たとえば、生理時に快適に過ごすことで、生理のない人と同じくらいのパフォーマンスを出すことでしょうか? そういったときに語られる“生産性”の基準は、現実に存在しない「一年中元気なシス男性」ですよね。私は、そんな架空の人を 基準に 、 皆が 合わせることを求める社会構造こそが問題だと考えています。

 フェムテックという新たな選択肢を知ることで、自身のタブーを見つめるきっかけにしていただきたいとは思いますが、 決して社会や会社のために使用や購入を強制されるものではありません。フェムテックはそもそも、社会課題を解決するためのものではなく、個人の課題を解決するために作られた商品・サービスであることがほとんどです。

 フェムテックを福利厚生として 導入する際に、「生産性を向上させたい」とおっしゃる企業さまもいらっしゃいますが、そういった場合に私達は、「生産性の向上を目指してフェムテックを導入しても、誰も使いません。組織への信頼度 やウェルビーイングを指標にしませんか?」と提案しています。

 フェムテックという言葉が、生産性や経済的利益を目的としたものとして使われるケースはありますが、少なくとも私たちfermataは、そういった意図でプロダクトを紹介することはありません。先ほど申し上げたように、フェムテックという言葉は 曖昧で、定義の仕方が社会に委ねられている状態です。私たちは、フェムテックを「社会課題ではなく、女性の個人的課題を解決するもの」だと発信し続けたいと思っています。

――また、生理の貧困が問題視されるようになった今、「お金がある人は、体調をお金で管理しパフォーマンスをあげる。フェムテックを利用できない女性と、仕事のパフォーマンスにおいても差がでる。格差を助長しかねない」という声もありますよね。

中村:そうですね。私は、生理の貧困とフェムテックが二項対立で語られることには違和感があります。そもそも根幹は同じで、「これまで女性の心身の課題が見過ごされ、解決が後回しにされてきた」というところにあります。

 たしかに、生理の貧困は、生きることに直結した深刻な問題です。だからこそ、そこに対しては、国や自治体が制度を作り、恒久的に支援する必要があります。学生さんを中心とした民間団体が声をあげ行動したことで、やっと体制が動き始めたことは本当に素晴らしいと思います。一方、フェムテックは「生きていくための最低限の選択肢で、本当にいいのだろうか?」を問うムーブメントです。人口の半分を占めるはずの生物学的女性向け市場が後発となった理由はここで言うまでもありませんが、だからこそ、今はまず買える人が買い、先陣を切って市場があることを示していく。

 そして、やがて多くの人が手に取れる「当たり前の」市場となるよう育てていく。その必要があると思います。誰かが切り拓かなければ選択肢は増えないままですから。fermata内でも、「生理の貧困や、フェムテックという言葉がはやく不要となってほしいね」と話しているんです。

―後編に続く

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