• Fri. Sep 17th, 2021

元極妻が見た映画『すばらしき世界』――「出所したヤクザのつらさ」がわかります、カタギの皆様に見てほしい

今は亡き某指定組織の三次団体幹部の妻だった、待田芳子姐さんが語る極妻の暮らし、ヤクザの実態――。

『すばらしき世界』はカタギの皆様に見てほしい

 やっと見てきましたよ、話題の映画『すばらしき世界』!

 正直見ていてツラいだけでしたが、カタギの皆様には、ぜひご覧いただきたいです。「社会復帰は大変なんだな」と、わかっていただけたらうれしいです。

 原作は、佐木隆三さんの小説『身分帳』(1990年)だそうです。出所したヤクザが社会復帰しようとがんばって空回りするお話ですが、主人公には実在のモデルがいたそうです。これを読んだ西川美和監督が、主人公の「ひたすら瑣末で、面倒で、時に馬鹿げてさえ見える『生きていくための手続き』」に驚き、「こんなにも退屈かつ切実な物語があるだろうか」と思って映画化を決意されたそうです。

 「退屈かつ切実」だから、見ていてツラいのです。かつて「『ミンボーの女』(伊丹十三監督、1992年)を見て怒らないヤクザはいない」と言われていました。実際に伊丹監督襲撃事件も起こっていますが、『すばらしき世界』を見て「ツラくないヤクザはいないんじゃないか」と思いましたね。「ヤクザにならなければいい」とか「ムショに行くようなことをしなければいい」と言われるのはわかりますが、主人公がなぜそうなったのかは、映画に出てきます。

旭川刑務所はビジネスホテルよりいい?

 切ないばかりではつまらないので、元極妻な視点から解説をしてみたいと思います。物語は、役所広司さん演じる三上正夫が大雪の中を刑務官に見送られて旭川刑務所を出所する少し前から始まります。

「これがうわさの新しい旭川刑務所ね~」

 ロケに使われた近代的なムショを見て、声が出そうになりましたよ。キホン個室だそうで、「ヘタなビジホより全然いい」と、リニューアル当時はかなり話題だったんです。

 ちなみに豆知識ですが、男子刑務所ではキホン長さ2ミリの丸刈り(「原型刈り」といいます)で、出所の2~3カ月前から「蓄髪(ちくはつ)」といって髪を伸ばすことが認められます。

 出所する時の役所さんが坊主頭ではないのはそのせいですが、ガリ(散髪)も懲役(受刑者)がするので、たいていは微妙な仕上がりのようです。シャバで理容師さんや美容師さんだった人がいればいいのですが、そんなにたくさんはいませんしね。

 六代目山口組の司忍組長がボルサリーノをかぶっていたのも、ガリ屋(散髪担当者)の微妙な仕上がりを隠すためだったと思います。

 役所さんがバスに乗ると、2人の刑務官が雪の中をバスが見えなくなるまで見送ってくれますが、あとは独りぼっち。でも、上野駅に着くと、橋爪功さん演じる弁護士さんが迎えに来てくれていて、おうちですき焼きをごちそうしてくれます。この奥様が梶芽衣子さんなのにはびっくりしました。『女囚さそり』シリーズのイメージしかなかったので(苦笑)。

 そして、役所さんは『孤狼の血』(白石和彌監督、2018年)では広島弁(呉弁?)で「そうじゃのー」とかニコニコしてたのに、今回は博多弁を操っておられました。さすがです。

 久々のシャバでいろんなことに驚き、戸惑う役所さんはチャーミングですらあり、萌えましたね。ていうか、役所さんがイケメンだからアリなのであって、「極悪人顔」だったら成り立たない設定です。

 あと細かいことを言っちゃうと、出所の少し前に職員と外出して買い物をしたり、駅で切符を買ったりして社会復帰の練習をする「釈放前指導」(釈前教育ともいいます)が行われるので、映画のようにおどおどすることはないと思いますよ。

 ただ釈前指導は1994年に基準が統一されていて、それまでは施設によってマチマチだったので、作品のモデルになった山川一こと田村明義さん(1986年2月出所)は指導を受けていなかった可能性が高いです。そして、この田村さんが亡くなられた時は、佐木さんが喪主までされてるんですね。

 西川監督によると、『身分帳』が刊行された頃、田村さんは話題の人で、ラジオ番組にも出ています。ドラマ化の話もあって、自分の役は大照れしながら「高倉健さん希望」と言ったとかナイスなエピソードもあったそうです。健さんでなくても役所さんならうれしいですよね、きっと。

 そして、田村さんは今も問題になっている「無戸籍」の人でもありました。無戸籍については、ちょっと考えたいので、次回に書かせてくださいね。