「特別養子縁組」をご存知でしょうか?
特別養子縁組とは、子どもの福祉のために(親のためではなく)、子どもが実親(生みの親)との法的な親子関係を解消し、養親(育ての親)と実子に等しい親子関係を結ぶ制度です(※)。
そんな特別養子縁組制度が成立した翌年の1988年、うさぎママ夫妻は児童相談所の仲介で0歳の娘・アンちゃんと出会い、その後、親子になりました。それからアンちゃんが大人になるまでの日々を感情豊かに綴ったエッセイ『産めないから、もらっちゃった』(2012年、絶版)の改定版の連載が今日からスタートします。
このエッセイには、特別養子縁組によって親になった経緯、そのときどきの著者の気持ち、実親のこと、真実告知のこと、大人になったお子さん側の気持ちまで丁寧に綴られています。特別養子縁組を希望されている方、特別養子縁組をしてお子さんを育てられている方はもちろん、特別養子縁組に興味のある方、子育て中の方にも広く読んでいただけたら幸いです。
※厚生労働省 特別養子縁組制度について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000169158.html
はじめに
私は子どもの頃、『赤毛のアン』が大好きでした。そして、大嫌いでした。
大好きだったのは、前向きに真摯に生きている強いアン。
大嫌いだったのは、血のつながりのないマリラとマシューに愛され、理解されているアン。アンとは反対に、本当の愛情と理解を与えてもらえなかった私。そして、自分がいちばんかわいい私の父親と、世間体を最優先する私の二度目の母親。
そんな私、うさぎは33年前、特別養子縁組のおかげで娘と出会い、母親になりました。結婚して不妊をはっきりと知り、12年が経ってからの出来事でした。
それから妻として、母として、ひとりの人間として、さまざまに関わってきた世間の春風、台風、雷……。ぼんやりと過ごしてきたようでも、振り返ると、心にはさまざまな思いがあります。そんな思いを、子育ても一区切りがついて時間と気持ちに少し余裕が生まれたので、同タイトルのブログに書き始めました。
ここで、本のタイトルにもなった「もらっちゃった!」という表現について、少し書いておきたいと思います。
ブログを始めて間もなく、同じく特別養子縁組をした方からメッセージをいただきました。今は「授かる」「迎える」という言葉を使っていて、「もらう」という言葉の使用は固く禁じられている場もあること。メッセージをくださった方も、お子さんを「もらった」のではなく「授かった」と思っていること。お気持ちはとてもよくわかるし、メッセージをくださったこと自体、忙しい子育て中の時間をさいていただいて、とても感謝しています。そして、同時にとてもなつかしい気持ちになりました。
じつは、私も33年前、手当たり次第に養子縁組関連の本を読んで、「授かる」という言葉が提唱されているのを知りました。そして、「ふ〜ん、そうなの。いいかもね」と感心して使ってみたんです。
でも、そんな言い方やこだわりは、世間様にはまったく通用しませんでした。そのことをつくづく実感した結果、言葉にこだわるのはやめました。身内や仲間内だけで「もらった」を「授かった」に言いかえても、世間からは「もらわれてきた子」と言われることがあります。
私は、娘を大切に育てる中で、何よりも強くなってほしいと願いました。かたくなにならずに、柳に雪折れなしというふうに、しなやかな強さを身につけてほしい。「もらいっ子なの?」と言われて、その言葉にひるんだり怒ったりするのではなく、「そうなんです」と心穏やかに明るく答えられる娘になってほしい。
そんな思いで子育てをするうちに、母親である私も、養子だと知っているくせにわざと「あら? その子は?」と聞いてくる意地の悪い人に、「私たちが(神様から特別に)もらった子です」と肩の力を抜いて答えられるようになっていました。
もちろん、100人の親がいれば、100通りの子育てがあるはずです。私は私がベストだと思う道をたどってきただけで、これが正解というわけではありません。ただ、私とともに歩いてきた娘も、このタイトルを見て「お母さんらしい! タイトルをつけるの、うまいじゃない!」と気に入ってくれたので、変えずにいます。
この連載は、そんな私たち−−私・うさぎ、夫・マシュー、娘・アンのメイプル家3名が、どのように歩んできたか、娘と出会う前から現在までのことをブログに大幅に加筆してまとめたエッセイ本(2012年発売、絶版)に手を加えて公開するものです。
アンがたまたまほかの人から生まれただけで、それ以外は本当に平凡な家族です。我が家の話はほんの一例にすぎませんが、養子縁組を考えている方、また養子を育てている方、また広く子育て中の方にとって、何かの参考になれば、これほど嬉しいことはありません。また、養子縁組に対しての偏見や誤解がなくなり、幸せな親子が増えることを心から願っています。
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