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「育休取得」しただけでは不十分! 男性の家庭進出を成功させるため夫婦で話し合うべきこと

ByAdmin

Jul 10, 2021

 2021年6月、育児・介護休業法の改正法が衆議院本会議で成立した。育休を分割して取得できるようになったため、柔軟に仕事と家庭を両立することが可能になる。また、育休対象の男性に対して育休制度の説明や取得意向の確認をすることが企業側に義務付けられ、以前よりも育休取得が容易な空気感の醸成が期待されている。

 現在、男性の新卒社員の約8割が育休取得を希望してはいるが、取得率はわずか7.48%にとどまっている。“イクメン”や“イクボス”などのキャッチフレーズは普及したものの、育休それ自体の普及はまったく進んでいない。今回の法改正は男性育休推進の一歩になったが、育休取得率の低さを鑑みると、今後も継続的な議論が望まれる。

 そこで、自身の育休取得経験から日本社会の問題点について考える『パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ! ママの社会進出と家族の幸せのために』(光文社)著者・前田晃平氏に、育休取得時の感想や男性の育休取得率を上げるために必要ことなど幅広く伺った。

前田晃平
1983年生まれ。東京都出身。認定NPO法人フローレンスでマーケティング、事業開発に従事。政府・行政に政策を提案、実現するソーシャルアクションを行う。妻と娘と三人暮らし。
Twitter:@coheemaeda

「育休取得した俺はすごい」を捨てた
──まず、育休取得時に感じた理想と現実のギャップをお聞かせください。

 当初は「2人で育休をとったのだから子育ては余裕」と考えていました。しかし、いざ育児に参加すると、寝てくれない、母乳を飲んでくれない、離乳食を食べてくれないなど、自分の思い通りにならないことの連続。赤ちゃんが眠っているわずかな時間に、ご飯を食べたりお風呂に入ったりしなければいけない怒涛の生活を送るようになり、「どうにかなるっしょ!」という考えは早々に消えました。

 加えて、出産前と比較して夫婦喧嘩が格段に増えました。知らず知らずのうちに育児は妻が主導になっており、私は指示待ち状態になることが多かったからです。

 育休取得率が1割を下回っている現状ですので、そんな中でも育休を取得した自分を“パパ偏差値の高い存在”と自惚れていました。しかし、妻からしたら家事育児の貢献度は相対評価ではなく絶対評価です。当時の私の評価は“育休取得した優しい夫”ではなく、“育休取得したのに使えない夫”でした。

 戦力として期待していた夫が役に立たず、産後の心身ともに不安定になりやすい時期とも相まって、口調がついつい荒くなっていたのでしょう。しかし、当時は私も「育休を取得したのに、なぜそんなに責められなきゃいけないんだ!」と反発してしまい、喧嘩に発展することは珍しくなかったです。

 ただ、次第に自分が指示待ち状態になっていたこと、妻の心身が不安定であることに気付くようになり、“パパ偏差値”みたいな考え方は捨て、「ちゃんと頑張ろう!」という気持ちになりました。

使えない夫にならないためには…
──“使えない夫”にならないために、どのような点に気を付けるべきですか?

 よく「男性は家事育児ができない」「育休取得しても邪魔になるだけ」と言った声を耳にします。このような“男性無能論”が出てしまう背景には、“僕ら(男性)は家事育児ができないのではなく、パートナーが想定している手順で家事育児ができていない”ということが挙げられます。

 つまり、夫婦どちらかが家事育児を主導することによって、求められるハードルが異常に高くなり、そのハードルをもう一方が越えられないために、家事育児を主導している方がイライラしてしまうのです。

 例えば、ルールがガチガチに固められた店舗(前田家の場合は妻)に、新しく入ったアルバイト(私)はすぐに順応できません。その結果、店舗側は不満を募らせ、「なんでこんなこともできないの!」と怒鳴ってしまう。一方、アルバイト側は理不尽に怒られたと感じ、出勤しなくなってしまう。これが“男性無能論”が生まれる原因です。

 こうした状況を回避するため、父親もアルバイトではなく“オープニングスタッフ”として、当事者意識を持って積極的にコミュニケーションをとりながら、家事育児のやり方やルールを一緒に0から作り上げていく姿勢をもつことが大切です。

 先述した通り、家庭内のルールが固定された状態から家事育児に参加しても、どうしてそんなルールになっているのかを理解しなければ、地雷を踏み続けて夫婦関係を悪化させるリスクがあるからです。

 他方、家事育児を主導している側も、パートナーが活躍できない原因を知っておくべきです。家事育児はどうしても“自分にとって”一番都合の良いやり方を採用してしまいます。パートナーと一緒に業務フローを作って、お互いが効率的かつ納得できるかたちを模索していくことが大切です。

──家事育児を分担しても「自分の負担が大きい」といった感情が双方に生じます。この“やってあげている感”とは、どのように折り合いをつけると良いでしょうか?

 「トイレ掃除」「アイロンがけ」「公共料金支払い」など、家庭内のタスクを一通り書き出し、それらが終わる毎にチェックをするなど、お互いのタスクを可視化することで、“やってあげている感”は多少軽減できます。

 とは言え、“フェア”という視点は非常に哲学的で、家事育児の負担を5:5にすることは実質不可能です。

 “やってあげている感”に囚われずに、率先して家事育児に関わっていくように習慣づけていくことが大切なのではないでしょうか。

 そのためには、夫婦の時間を確保してコミュニケーションを取り続け、お互いの不平不満を心の中にため込まないことが、最も大切なことだと考えています。

──気兼ねなく育休取得ができる社会を実現するために、私たちはどのような価値観を共有するべきなのでしょうか?

  “人生100年時代”と言われていますが、その100年のほんの数カ月・数年ぐらいは仕事ではなく子どもと一緒に過ごすことに使っても良くないですか?

 育休中は、本当に目まぐるしく、友人の赤ちゃんを見ると「自分の子どもにこんな時期あったっけ?」と思えるほど光の速さで過ぎ去ります。そんな尊い時期にあくせく働く必要があるのか疑問です。

 確かに育休を取得すると、キャリアを積むための時間は減るかもしれません。ですが、代わりに得るものもあるんです。

 私に関していえば、これまでは“会社の中の前田晃平”しかいなかったのが、育休を取得したことにより、地域の人たちと交流する機会が生まれ、“地域の中の前田晃平”という新しい顔を持つことができました。

 育休取得が地域に自分の居場所をつくり、老後の充実感につながったり、新たに視野が広がることで仕事にいかせることも多いと思います。男性の育休取得には“子育てするため”“産褥期の妻を支えるため”といった役割が大きいですが、それだけではなく、人生の幅広いキャリアを培ってくれる制度でもあるのではないでしょうか。

──職場の雰囲気に負けたり、自分の居場所を失うことへの恐れから育休取得を断念する男性は多いです。そういった方にどのようなアドバイスを送りたいですか?

 大前提として、育休取得したからといって減給や配置転換をすることは違法行為です。堂々と取得して良いと思います。とは言え、“男性は働き続けて家族を支えるもの”というジェンダーバイアスに縛られ、育休取得を躊躇ってしまう気持ちはよくわかります。そういった方はぜひ「パートナーが働くことを望むなら、定年まで1人で働き続けるより、夫婦2人で働けたほうが良くないですか?」と考えてみてほしいです。

 “正社員の妻が出産育児のためにキャリアを断念すると2億円の損失になる”という試算があります。

 男性が育休を取得せずに終わりなき出世レースを戦う場合と、妻がキャリアを継続できるように男性も育休を取得して家事育児に協力する場合では、どちらが精神的・肉体的・経済的に安心安全なのかは容易に想像がつきます。

 配偶者は“パートナー”と表現されますが、本当の意味でパートナーとして配偶者と接している人は少ないように感じます。男女問わず、収入や家事育児を一人で背負わず、パートナーと支え合う未来を考えてみてはいかがでしょうか。

企業と政治の意識改革が不可欠
──育休取得のメリットを語っていただきましたが、具体的に育休取得率のを上げるためにはどうすれば良いですか?

 主に2つあります。1つ目は企業の働かせ方の見直しです。

 男性社員が育休取得を断念した理由に関する調査結果では、「職場の人手不足」「会社の育休制度が整備されていなかった」「育休取得が難しい職場の雰囲気だった」など、企業側の課題が上位を占めています。

 まず「職場の人手不足」ですが、それをどうにかするのはマネジメント側の責任です。突然の退職や休職などと違い、育休は事前にどの時期に取得するか予定が組めますから、仕事の引き継ぎや業務の調整などもしやすいはずです。

 次に「会社の育休制度が整備されていなかった」「育休取得が難しい職場の雰囲気だった」などは企業側の怠慢でしかありません。育休は法律で定められており、従業員1人1人の権利を尊重するために直ちに改めるべきです。

 2つ目は国からの子育てに関する支援予算の拡充です。

 いまの日本は子育てに対する支援がまったく足りていません。

 とりわけ、家族手当てや出産・育児休業給付、保育・就学前教育などに行う“家族関係社会支出”の割合は、海外と比較しても著しく低い。家族関係社会支出が増加すると、女性が担っている家事育児を社会がサポートできるようになり、出産育児に関する出費を減らせるだけでなく、安心して子どもを預けることができます。

 にもかかわらず、 家族関係社会支出を増やさないどころか、政治家の中には“削っても良い予算”と考えている方も少なくありません。

 男性が育休取得をためらう理由として、給与やキャリア面での不安をあげる方も少なくないかもしれません。しかし、国からの家族関係社会支出が増加すれば、子育て世帯は育児や教育にかかるお金の心配をしなくてすみますから、もっと育休取得を前向きに考えられると思います。ですので、子育て世代を始めとした若い世代が政治に関心を持つことが、子育て関連の予算をつけるための最大の活動と言えます。

──具体的に私たちはどのように政府にアプローチをすれば良いのでしょうか?

 SNSが普及したおかげで直接国会議員の方に声を届けられるようになりました。「私たち現役世代にちゃんと投資してください!」とメッセージを出し続けることで、大きなインパクトを起こせます。SNSを上手く活用すれば、政策の意思決定のプロセスに介入できるし、実際にそのような事例は数々生まれています。

 “男性の育休取得”が議論されると、“家事育児に無関心の男性vs家事育児に疲弊する女性”といった対立構造が生じやすいです。しかし、男女が手を取り合い一枚岩となり、誰もが当事者意識をもって男性の育休取得が当たり前の社会をつくっていきたいです。

(取材、構成:望月悠木)

前田晃平『パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ! ママの社会進出と家族の幸せのために』(光文社)