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中学受験「“公立”中高一貫しばり」の落とし穴⋯⋯親にも言えない子どもの本音とは

“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 公立の中高一貫教育が人気となっている。それは「学費を抑えつつ質の高い学習環境を与えたい」という家庭が増えているからと言われているが、率直に言って激戦。もちろん学校によって違うが、その倍率は3倍から7~8倍となっているのが実情だ。

 公立中高一貫校の場合、「受験」ではなく「受検」と書き、「適性検査型」と呼ばれる教科横断型の問題が出題される。どちらかと言えば「学力」をみる「試験」というよりも、思考力や表現力に重きを置いた選抜方法をとっている。この適性検査以外に作文や面接、小学校からの報告書、グループワークなどを組み合わせて総合的に合格・不合格を判定しているのだ。

 つまり、以前は私立受験向けの勉強をしている子と公立受検を目指す子では受験(検)の形式が異なるために、ふたつは“別物”という感覚があり、公立受検は学校の授業を真面目に取り組んでさえいれば、塾要らずで突破している子が少なくなかった。

 しかし、近年では大学入試改革の影響で、思考力・表現力を量る問題が私立中高一貫校でも頻出されており、事実、「適性検査型入試」を導入している学校も多数、存在している。そのため、難関私立志願者が公立を併願するケースも多く、私立、公立という壁が徐々になくなってきており、より早くから私立・公立両方に対応できる受験対策をするご家庭が主流になりつつあるのだ。

 陽菜さん(仮名)は現在、大学2年生。中学受験当時、陽菜さんの公立小学校では受験組は少数派で2割くらい。陽菜さんも6年生になるまでは中学受験をする気はなかったという。ところが、6年生の1学期でクラスは学級崩壊に陥り、授業が成立しないような状態になってしまったそうだ。

「私は特に勉強ができる方ではなかったんですが、それでも、こんな状態のクラスは嫌だなと思っていました。学区内の公立中学に行けば、中学受験で外に出る人以外は、このメンバー。そう思ったら、やっぱり私も出たいなって⋯⋯」

 クラスメイトの美優さん(仮名)が、もともと公立中高一貫校専門の塾に通っていることを知っていたので、陽菜さんは親に頼んで、自分もその塾に通わせてもらうようにしたという。

「塾は楽しかったですね。勉強することを邪魔する子はいませんでしたし、人間関係に余計な気を遣うこともなかったので気楽でした」

 やがて、6年生の冬を迎え、陽菜さんはある公立中高一貫校を受検するのだが、結果は惜しくも不合格。陽菜さんの中学受検はそこで終わった。

「親に、その公立中高一貫校しか受けさせてもらえなかったので、不合格となった瞬間で地元公立中学進学が決まりました。ガッカリしたんですが、美優も不合格だったと聞いて、ちょっと安心したんです」

 ところが、ほどなくして、陽菜さんは美優さんから「併願していた私立M女子学園に進学する」旨を伝えられる。

「不合格よりも、そのことの方がショックでしたね。中学受験組で地元公立中に進学する人間は私だけになってしまったので、行きにくいということもありますし、美優のことが羨ましくて仕方なかったです」

 陽菜さんが進学した公立中学では幸い、小学校のような学級崩壊にはならず、何やかんや言いながらも、それなりに楽しい学校生活であったという。真面目な陽菜さんは部活も頑張り、中堅の公立高校へと進学したが、本人いわく「内申で振り分けられただけ」だそうだ。

「美優のことを羨ましがるたびに、親から『M女子なんて偏差値が低い学校にお金をかけて通う必要はない!』と言われて、そんなもんか⋯⋯と思ってはいたんですが、こないだ美優が上智大学に学校推薦で入ったって聞いて⋯⋯。また、モヤモヤしちゃったんです。M女子は確かに偏差値的には振るわないかもしれないですけど、ミッション校のせいか、それこそ、ウチの高校からは行けないような大学からも推薦がたくさん来る学校なんだそうです。正直、それを知っていればなぁ⋯⋯って思いました」

 陽菜さんが進学した大学は、陽菜さんにとっては「滑り止め以下」の大学だそうで、本人的には納得がいかないそうだ。

「親からは浪人なんて絶対に許さないって言われていたので、合格した大学に入っただけって感じです。おまけにコロナなので、いまだに全くと言っていいくらいキャンパスライフなんて体験していません。それで、余計に『なんで、こんなふうになっちゃうのかな⋯⋯』って、誰にも、ぶつけようがないモヤモヤがあるんですよ」

 陽菜さんの自己分析によると、そのモヤモヤは「もし○○だったら」に原因があるという。

 もし、親がもっと早くから中学受検の勉強をさせておいてくれたら⋯⋯。もし、親が美優の親のように併願校を受けさせてくれて、進学を認めてくれたならば⋯⋯。もっと違った結果が生まれていたはずだ、という気持ちが消えないと訴える陽菜さん。

「親御さんの中には経済的な問題も絡んで、公立中高一貫校しか受けさせないという家庭もあるのは理解できます。でも、もし、中学受験を選ぶのであれば、少なくとも“合格体験”をさせてあげてほしいなって思いますし、子どもにはわからない、その先にある大学受験の実情は調べておいてほしいなぁって思うんですよ」

 陽菜さんの気分の落ち込みはコロナ禍も多分に影響していると思う。しかし、陽菜さんの経験に私たち親が学ぶとするならば、受験結果というものは、たとえ12歳という幼い年齢であっても、後に引きずる可能性があるということ。

「落ちたら、地元公立。以上」という進路決定は、公立中高一貫校を受検する親御さんにありがちであるが、結果に対して潔く割り切り、次の目標にまい進できる人間の方が少ないということは、考慮に入れておくべきだと思っている。