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『ザ・ノンフィクション』オタク業界とやりがい搾取の関係「ここでしか生きられない私~34歳 秋葉原メイド物語~」

日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。7月11日の放送は「ここでしか生きられない私~34歳 秋葉原メイド物語~」。

あらすじ

 秋葉原のメイドカフェ・HEART of HEARTsで働くもち、34歳。同店は秋葉原でも有名なメイドカフェの一つで、スタッフから選抜された5人組アイドルユニットもあり、店内にはステージもある。新型コロナ前はインバウンド需要もあり「メイドバブル」で店は連日大賑わいだったという。

 しかしコロナの影響は秋葉原も直撃し、番組がもちの取材を開始した2度目の緊急事態が出る直前の2020年12月、店内の客の入りはまばらで寂しい状態だった。その日、売り上げ10万円を目指すが半分にも届かなかったという(番組内で、メイドカフェの客単価は3,000円程度と伝えられていた)。秋葉原では多くのメイドカフェが廃業に追い込まれており、番組内ではテナントを募集する張り紙が貼られた空きビルも映されていた。

 もちは内気で、友達らしい友達もいない少女時代を過ごし、漫画やアニメなどのオタク文化を心のよりどころにして生きてきた。24歳のとき、幾度となく訪れたオタク文化の聖地・秋葉原でメイドとして働きだす。働きぶりが評価され、今は店の実務を担う立場だ。

 親にはいまだにメイドの仕事を反対されているようだが、自分を支えてくれた場所を守ろうともちは奮闘し、自分の報酬を削ってでも店の維持費やスタッフの給料に回している。もちの貯金はコロナ禍でなくなり、番組スタッフに自分のお金はどのくらいあるのか尋ねられた時、財布に入っているだけと話し、財布には1,000円ぐらいしか入っていなかった。

 メイドカフェの閉店後も、売り上げを補うべく共同経営者のあずにゃんと共に早朝近くまでオンライン配信を行う。そんな日々では睡眠時間もままならず、事務所の片隅で体育座りのような姿勢で仮眠を取ったり、たまに自宅に帰れても、寝すぎないようソファーにもたれかかって寝るような生活だ。

 一方で、メイドバブルの恩恵をほとんど受けていないであろう店の10代のメイドスタッフたちは冷静だ。番組スタッフの取材に対し、もちのことは好きだし、尊敬しているが、もちのあまりに献身的すぎる働きぶりを前に、「自分の時間も仕事と同じくらい欲しいなと思っているので(もちと)同じ人生は嫌です」ときっぱり話す。

 2021年1月、緊急事態宣言の延長が決まり、それまで避けていたキャストの人員削減をもちは決断するも、人気スタッフも「卒業」してしまう。明日が見えない日々が続く中、客のほとんどいない店の片隅でもちは涙をぬぐう。

 もう一人の共同経営者であるあずにゃんは、アイドル志願だったが乃木坂46やモーニング娘。のオーディションに通ることができず、アイドルとしての活路をHEART of HEARTsに見いだし、店の選抜アイドル5人組の1人でもある。16年の『TOKYO IDOL FESTIVAL』に出演した際の映像をうれしそうに番組スタッフに見せていた。

 あずにゃんも店に対する責任感はとても強いように見え、優しい性格でスタッフを叱れないもちに対して不満があるようだ。ある日、深夜の配信中、もちが「寝落ち」してしまったのを見たあずにゃんは、もちに不満を伝える。そのような中で迎えたもちのメイドデビュー10周年イベントでは、花束を持った客たちがもちを訪ね、店は久々の賑わいを見せていた。

「頑張る」よりも冷静さが必要ではないか

 番組を見ていて一番気になったのは、もちがスタッフの給料を優先するため自身の報酬を減らしていた、というくだりだ。コロナでもちの貯金は尽きたと伝えられており、番組中、夜になってようやくその日の食事としてもちが食べたのは、1本のサラダチキンバーだった。

 もちがオーナーなら「店を守るために身銭を切る」は選択肢としてあるかもしれないが、番組を見る限り、もちの上には「会長」がいるとあり、店の実質的なオーナーはこの会長ではないかと思う。そうであるなら、もちが身銭を切ってまで従業員の雇用を守ったり、もちとあずにゃんがメイドカフェ営業後も朝方まで配信を続ける、という過酷な生活を続ける前にやることは「オーナーへの相談」ではないだろうか。

 もちとあずにゃんが二人暮らすワンルームは、会社が借り上げていると伝えられていたので、義理があって言い出しにくいのか、すでに相談して芳しい回答が得られず、自分たちでやるしかないと諦めているのか。または、もちとあずにゃんが切り盛りしていくしかないような契約になっているのか。はたまた、会長としては店をたたんだり、休業してもいいと思っているのだが、もちとあずにゃんがそれを回避したいがために奮闘しているのだろうか。

 もちもあずにゃんも「自分が頑張ればいい」の人のように見えた。しかし、明らかに二人とも、もうすでに頑張っている。もちの働き方を見て、そこまではやれないと話す10代スタッフたちは冷淡なのではなく冷静なだけであり、もちとあずにゃんの働き方こそが冷静さを欠いているように思う。

 オタクのもちも、アイドル志望だったあずにゃんにとっても、HEART of HEARTsは特別な場所なのだろう。しかし、労働に「自分の個人的な思い入れや思い出」はあまり混在させないほうがいいように、二人を見ていて思った。もちもあずにゃんも行動は自主的なのだが、正直「やりがい搾取」的なものを感じてしまったのだ。

 しかし、こういったオタク業界で働く人は何もメイドカフェに限らず、「これが生きがい」「これが私の居場所」「これが私の全て」という熱烈な思いを抱く傾向があるだろう。それゆえ、やりがい搾取されやすい業界だと思う。

 一方で、ここまで情熱のある人たちが、仮に別のカタギの仕事につき「オタ活」は趣味と割り切ったところで、自分のやりたかったことを本業にできなかったという後悔を引きずり続けるかもしれない。「好きを仕事にする」難しさを思う。

 番組の最後、もちのメイド10周年記念イベントで、有志より送られた花輪には「もうちょっとゆっくりしませんか」とメッセージが添えられていた。横になると寝すぎてしまうからと体育座りやソファーにもたれかかって寝ることが多いもちには、とりあえずちゃんと夜、自宅の布団で横になってぐっすり寝てほしい。いつも仮眠のような姿勢で「ちゃんと寝ないようにする」ことが日常になっていることの異常さに早く気づいてほしい。

 次週の『ザ・ノンフィクション』は「最期の願い ~父と息子と家族の2週間~」。60歳の父・静徳は首の骨にできたがんの影響で、首から下を自力で動かすことができない中、緩和ケア病棟から自宅に帰る。静徳は自身が校長を務める小学校の卒業式に出席し、生徒たちに思いを伝えたいという夢がある。一方、33歳の息子・将大。幼いころからいじめを受け、父親である静徳は家庭のことは妻に任せきりだった。父と息子の間の過去にできた溝と、今の生活について。