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農薬忌避、脱資本主義。いきすぎた「自然派」農業に挑む人たちのあきれた主張

ByAdmin

Jul 13, 2021

 自然派系のトンデモと農業は、相性がいいと思う。食を通じて誰もが我が身の問題となるので、声をあげやすいから? 素人でもちょこっと体験でき、自然の営みを肌で感じたような気分を味わえるから?「母なる大地!」という壮大なストーリーを展開できるから?(それを言ったら海と空も壮大な自然なのに、人の手にはあまるのであまり語られない?)。

 昨今の現場では今、どんなトンデモが生息しているのでしょうか。今回は「農業の風評を追うトンデモハンター」を自ら名乗る、渕上桂樹(@Keiju_Fuchikami)さんにお話をうかがいました。渕上さんは現在、長崎県で果実酒バーを営みながら、ラジオ番組のパーソナリティを勤めたりコラムを寄稿したり、精力的に活動する人物。野菜売り場担当や生産者としての経験もあり「地元の農家を応援したい」という気持ちから、地元のさまざまなコミュニティと交流と持つようになったといいます。

渕上桂樹さん(以下、渕上):「農業で長崎を元気に!」みたいなコミュニティがありまして、「お話会をするので来てください」と声をかけられ出向くと、農業と関係のないテーマばかりなんですよね。電磁波がどうとか、脱石油の化粧品を勉強しようとか。商品を無理に売りつけられるわけではありませんし、別に農業と関係ないことを扱ってもいいんですが、どれもこれもトンデモのオンパレードなので、結局そこか? と残念に思うばかりです。しかも本人たちは、心の底から「自分たちはいいことをしている」と信じているのが、またつらい。異を唱えると、いいことをしているのになぜケチをつけるのか? という感じです。

 私のバーでも、知り合いになった自然派ママから、店でマルチ商品の勉強会を開きたいという申し出がありました。そういうものはお断りしていると言うと「それほどマルチの要素が強いわけではないんですよ?」と。いいマルチなんてありませんし、そういう問題ではないので「私の店だから、私が嫌いな要素があるものはお断りする」とお伝えしましたが、困ったものです。

 トンデモ活動も結構ですが(よくないけど)、そういったトンデモさんたちが関わる、肝心の農業のほうは? というと相当にグダグダな状態であったそう。どうやって「長崎を元気に」するのか、謎だらけです。

渕上:すごかったのは「くるくる村」という施設を主催していたふたり組です。そこはオーガニックや無農薬をウリにしていましたが、肝心の作物はジャガイモのみ。しかも、一度も栽培に成功していませんでした。私も生産者ですから作物について多少の知識はありますが、ジャガイモって比較的栽培が容易とされているんですよ。でも、基本を守らないから作れない。それを「前の農家が農薬を使っていたから、土地の波動が低い」とか言っていましたね。そんな状況を見かねて周りの農家が「苗を植える時期が遅い」とかいろいろやさしくアドバイスするんですが、なぜか逆切れして「自分たちはお金儲けのためにやっているわけではない。お金儲けのために農業をするのはどうかと思う」と言い出します。挙句のはてに、お金儲けのために安全を犠牲にするのはもうやめよう! 的な発信まで……。まるで普通の農家が、ヤバいものを作っているかのような、物言いなんです。

 渕上さんはAGRI FACTという媒体で、その村についても書いています。「農薬の危険」を強調し、「猪と共存する」と猪対策も拒み……という件は、Twitterでよく見かける、熊の射殺を批判するようなお花畑な人たちとオーバーラップしたような感覚を覚えました。

渕上:しかもどれも、信念があってやっているというより、かなり思いつきで動いている印象です。「人間のウンコはパワーを秘めている。昔は肥溜めを使っていたのに、それをしなくなったから、人間の抵抗力が弱くなっている」とか。でも今って、人糞を農業に利用するのは法律で禁止されています。それを教えると「え、そうなんですか。でもその法律っておかしいですよね」と。じゃあ、いろいろな薬を飲んでいる人の糞尿を使うことはどう思うか? と聞いてみれば「それもそうか」とすぐ納得する(笑)。何も調べていない、考えていないのがよくわかります。さらに一度も成功していないジャガイモ栽培を有料で「ベトナムに指導しに行きたい!」とか言い出したこともあり、もうめちゃくちゃです。

 くるくる村的に、金儲けのために農業をするのはダメなんじゃなかったでしたっけ……? しかしこれだけに留まればただの「へんな村人がいました」で終わる話。ところが農業に行き詰まったため、次にとったアクションは畑や敷地内の建物をイベント会場として提供すること。いわずもがな、「トンデモの輪」がどんどん広まっていくことになります。

渕上:いろいろなトンデモが大集合していましたね。いかにもなのは、アーシングイベント。携帯の電波が4G、5Gとどんどんヤバくなっていって、体内に悪い電子がたまっていく。でも、くるくる村の畑に行って裸足で立つと、その電子が放流されて病気知らずの身体になりますよと。じゃあ、くるくる村に行かれない人は? そんなあなたも大丈夫! このアーシングマットを買えば! ってやつです(笑)。あとはスタップ細胞を作ろうというイベントもありました。スタップ細胞は本当は存在しているんだけど、それが広まるとみんな病気にならなくなるから、アメリカの製薬会社の利権でもみ消されているそうです。

 ググってみると……なるほど、スタップ細胞であると主張されるまぼろしの何かは、その手の方々のブログなどで結構紹介されている物件であるよう。玄米に水と塩、黒糖を加えて発酵させたものを飲むと、体の細胞が活性化されて体内のスタップ細胞も自然に活性化されるんですってよ、奥さま。結果、不老不死みたいにスーパー健康体になる! いいえ、ならないでしょう。私の知ってるSTAP細胞と違うわ。世界は広いわ。

渕上:ウンコがどうとか言っているあたりはまだ笑えていたんですが、イベントのなかに反ワクチン動画の上映会などが混ざってきたあたりから、シャレにならないと思うようになりました。反医療となると、子どもたちが巻き込まれますのでね。

 そういったイベントは、参加者のほとんどが女性だったとか。子どものためを想い「体にいい野菜」に引き寄せられた結果、そうしたディープなトンデモにはまっていくのは、よくある沼のしかけです。

渕上:基本、よその土地からやってきて「農業をやりたい!」という人に対し、地元の人たちは応援するんですよ。ところが具体的にアドバイスをすると頑なになって耳をふさぎ、真っ当な手法は拒否する。そしてうまくいかなくなると「田舎は閉鎖的だ」とか言い出す。さらに自然派たちの困ったところは、作物がうまく育たない自分の問題だけでは終わらず、周りも迷惑被る点です。農薬が~除草剤が~といってそれらを使わないので、虫や雑草の発生源になる。また、種イモ代をケチって自家養殖したものを使えば、センチュウなどの病気が次の代で発生する原因となり、もし発生したら周囲の畑は大迷惑です。種イモを買い、農薬などを使うのはそれらを予防するためなんですが、自然派の人たちはそういった影響を気にしない。

 また、自分たちが無頓着なだけではなく、他者を攻撃してくるという実例もあります。直売所など野菜を売っている場で農薬使用を非難され、「◎◎を使っているのでダメだよね!」と大声で言われたり。そもそも普通の農家は、安全性の確立されているものを基準値を守って使用しています。守らなければ、残留農薬検査などでバレますしね。それなのに、あたかもこちらが悪みたいに風評被害をされるんです。私はいつも言っています、それを公開の場で話あいましょう、と。嘘をついているのはどちらなのか、はっきりしますから。しかしそうすると、逃げてしまう。

 何かトラブルが発生しても自然派スピ系の人たちですと、お約束のポエムで「宇宙のリズム」とか「気づき」とか「自分に必要な試練」とか言ってぼんやりさせ、ふんわりはぐらかす気も……。

渕上:まさにそのとおりです。「やっぱり自然農は大変だ。でも僕は負けません!」みたいなストーリーに持っていく。「農薬を使っている農家ならこんな苦労をしないけど、僕は大変! でもやる!」みたいな。つける薬がありません。彼らの場合、思想を表現するツールが農業なんですよね。農業がやりたくて、結果自然派になったのではない。イベントに集まってくるような人たちに感じる共通点は、怒りを抱えていることでしょうか。今の時代、誰しもが現状に不満や怒りを抱えていると思いますが、私が出会ったトンデモさんたちは、自然派というツールを使って怒りを表現しているように思えました。

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 何か実現したい暮らしがあるのであれば、孤島に行って単身でやってくれと思ってしまいますが、ニワカにはそこまでの力があるはずもなく、意識高い取り組みを発信して承認欲求を満たすには、あくまで一般社会の中でアクションを起こすのが重要なのでしょうか。「田舎に行ったらひどい目にあった」というのは、昔からホラー作品の定番設定ですが、今の時代は「そとから異質なものがやってくる」ほうが多いのか?

 渕上さんの活動する長崎県が、トンデモを支持する元農林水産大臣の出身地であることも関係していることも、大変興味深いポイントです。いずれ「日本トンデモ発生地マップ」を作りたい私としては、これから先も長崎県は要チェック。まだまだ他のトンデモ事件が発生している様子ですので、またいずれ続報をお届けできればと思います。