今は亡き某指定組織の三次団体幹部の妻だった、待田芳子姐さんが語る極妻の暮らし、ヤクザの実態――。
ヤクザは寂しがり屋
前回ご紹介した映画『すばらしき世界』で気になった無戸籍問題について考えてみたいと思います。
役所広司さん演じる主人公の三上正夫には戸籍がありませんでした。無戸籍が問題になっていますが、今も1万人以上はいるといわれているようです。
亡きオットの若い衆の中には、「自分は戸籍がない」と言っている子も何人かいましたが、実際には戸籍が何なのか、わかっていないだけのようでした。逮捕されて初めて自分の本名を知るなんていうのも都市伝説的にはありましたが、実際にはそういう感じの子たちは組織になじめず、いつの間にかいなくなっていました。
いろいろな理由で学校に行けず、集団生活を経験していない子どもは、ヤクザのようなタテ型の組織は難しいかもしれませんね。
かつてヤクザは、基本的に寂しがり屋さんでした。三代目山口組の田岡一雄組長は、自著『山口組三代目 田岡一雄自伝』(徳間書店)で、ヤクザ組織について「子供のときのわたしがそうであったように、みんなもわたし同様、暗い、悲しい環境に生まれ育った者ばかりである」とし、山口組を「そういう愛情に飢えた者同士が肩寄せ合い、心を温め合う」集団としました。
もっとも寂しさは「支配欲」も生みますね。組によっては、盃を交わす前に本人や関係者の写真を何枚も撮っておいて、「逃げてもどこまでも追っかける。親族もひどい目に遭わせる」と脅す親分もいました。昭和の話ですけど、「親分や組織からは逃げられない」と、「心まで支配下に置く」のがヤクザなんですよ。愛されたことがないので、相手を束縛することしかできないのでしょうね。
オットは、いなくなる子に対してはゆるかったですね。「来る者は拒まず、去る者は追わず」的な感じでした。単に面倒だったのかも(笑)。
報道によりますと、子どもが生まれた時に出生届を出さず戸籍を作らないのは、「お母さんが子の父親とトラブっているから」という理由がほとんどのようです。出生届を出すと子の存在がわかってしまい、不倫がバレたり、DV被害を受けたりする可能性があるんですね。
『すばらしき世界』の三上は、「芸者さんが産んだ私生児」という設定でした。これはモデルになった山川一こと田村明義さんがそうだったんですが、お母さんについては結局よくわからなかったそうです。映画の原作である佐木隆三さんの『身分帳』に収録されている「行路病死人」に書かれていました。
ちなみに菅田将暉さん、YOSHIさん、仲野太賀さんなどが出演する映画『タロウのバカ』(大森立嗣監督、2019年)は、無戸籍で名前もなく学校にも行かない「タロウ」と呼ばれる子ども(YOSHIさん)とその友だちのお話でした。
豊田エリーさん演じるタロウのお母さんは、「ワケあり」というよりは単に深くは考えていない印象でしたね。実際にはそういう例のほうが多いんじゃないかなあ、とも思いました。まさに「今どきの子ども」です。
ていうか、戸籍なんかなければ作ればいいのにと思いますが、簡単ではないんですね。新たに戸籍を作るとなると、「いつ頃生まれたか」の証明などがけっこう面倒くさいそうで、手続きを変える法改正も進められていますね。
でも、そもそも戸籍って必要なんでしょうかね。世界では中国と日本と、日本の植民地だった台湾だけですよね。韓国も日本の植民地だったので以前はありましたが、2007年に廃止されたそうです。
健康保険や生活保護などの行政サービスは、戸籍がなくても受けられるそうですし、今はマイナンバーもありますから、特に困らない気もします。「戸籍がない=かわいそうな人」的な報道は見ていてつらいです。
戸籍がないというだけでひっそりと生きて、最期は餓死したおばあさんの事件をテレビで見ましたが、もっと早くなんとかできなかったのでしょうか? 戸籍なんかなくても大丈夫な世の中にしたいものです。