覚醒剤の使用や密売などで逮捕起訴され、通算12年を塀の中で過ごした後、その経験を基にさまざまな活動を続ける中野瑠美さんが、女子刑務所の実態を語る「知られざる女子刑務所ライフ」シリーズ。
なんで懲役やなくて禁錮?
クルマを運転していて若い女性とお子さんを死なせた90歳のおじいさんの事故が話題ですね。
今のところは「禁錮7年」で決着しそうです。「なんで懲役やなくて禁錮?」とテレビやネットは大騒ぎです。でも、ついうっかりと「アクセルとブレーキを間違えただけ」(=殺意ナシ)やと、「過失運転致死傷罪」(自動車運転死傷行為処罰法、7年以下の懲役・禁錮か100万円以下の罰金)以上の起訴はムリらしいです。
これがお酒やクスリ(違法薬物)のせいなら「危険運転致死傷罪」で起訴できます。これやったら、最高刑は致死が懲役20年(有期刑マックス)、致傷なら懲役15年やそうです。まあそれでもご遺族は納得できないでしょうが、クルマは瑠美もほぼ毎日運転してるんで、ほんまに他人事やないです。これからは、ドライブレコーダーは必須アイテムですね。
問題は「加害者」のキャラクター?
「殺意」がなければ刑を重くできないのはしゃあないのですが、むしろこのおじいさんの問題は「上級国民案件」ですよね。元エリートで勲章ももろてるせいか、最初は実名も出ず、そもそもパクられ(逮捕され)てませんでした。
もし瑠美が同じ事故を起こしたら、ソッコーパクられて、今も獄中(なか)にいてると思います。とっくにやめたクスリも疑われてますね。でも、おじいさんは事故から半年くらいして書類送検されて、2020年2月に在宅起訴ですよ。2人も亡くなってるのに、公判が始まるまで1年半もかかりました。しかも、裁判で「アクセルとブレーキは踏み間違えてない」とか「原因はクルマの故障」とかトボけてますしね。キャラのほうが問題ですよね。
もうひとつ大きな問題は、おじいさんが有罪でも、「年寄りすぎて収監ナシでOKかも?」ちゅうことですね。いわゆる「執行停止」です。刑事訴訟法第482条は、「年齢七十年以上であるとき」も執行停止できるとしてます。普通は執行停止を受けられるのは、末期がん患者くらいですけどね。
瑠美は、「禁錮」なら90歳でもOKと思いますよ。懲役は工場で何かを作ったり、調理や洗濯など受刑者の身の回りのことをして、けっこう忙しいのですが、禁錮刑は悠々自適やから。
それに、ムショの高齢化はどんどん進んでますから、みんなやさしくしてくれますよ。けっこう前から「高齢受刑者のお世話」は、刑務作業のひとつです。
瑠美が、バブル期に巨額詐欺事件を起こした尾上縫さんのお世話をしていたことは、岩波新書にも出てますし(笑)、あの鈴木宗男先生は、ムショで高齢受刑者のお風呂の介助中に東日本大震災に遭ったそうですし、ホリエモンはトイレのあとお尻を手で拭く(!)おじいさんの世話をしてたそうです。
あと瑠美は見てないのですが、映画『すばらしき世界』の西川美和監督が「旭川刑務所を取材したら、お年寄りばっかりやった」と書いてたと、編集者さんから聞きました。
「木工や裁縫の工場内にも、眼光鋭い凶暴そうな男たちは見当たらず、長年の室内作業と栄養管理で小さくしぼんだ青白い老人ばかりが飼いならされたように黙々と作業の手を動かしていた。それともそこにいる人は皆『老人』に見えただけだろうか」とあります。
今のムショは、普通に老人ばっかりですから。
ちなみに、おじいさんが入るなら交通刑務所と思いますが、交通刑務所は「交通事故を起こした」だけの人たちですから、リアルヤクザはまずいてないし、規則もゆるいです。弁護士さんとかエリートも普通にいてるんで、「上級国民人脈」も広がるのとちがいますかね。
人生100年時代ギリギリですが、模範囚で仮出所できたらええですね。