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瀬戸大也の不調&不倫は「馬淵優佳のせい」? 「オンナが料理をすべき」の思い込みが、“アスリートの妻”に背負わせるモノ

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羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。

<今週の有名人> 
「完全に白米不足でした」馬淵優佳
「AERA」2021年8月2日号(朝日新聞出版)
 
 私たちは、「自分は人の行動を見て掛け値なしに他人を判断している」と思っている。しかし、実はかなりの確率でバイアスをかけて物を見ているのではないか。

 たとえば「世の中は、お金じゃない」という若者がいたとする。その若者が年収1億円であれば「お金を稼ぐ能力がある上に、お金に振り回されない。若いのに人間ができている」と世間に受け止められるだろうが、心身ともに健康なのに働かない若者が同じことを言ったら「屁理屈はいいから働け!」と批判されるはずだ。また、女性が「女性差別を許さない」と言ったら「当たり前」と思われるが、男性が同じ発言をしたのなら「フラットな考えの持ち主だ」と高く評価されるだろう。社会的条件や性別や置かれた状況による思い込みや先入観から、他人の人となりを勝手に判断してしまう。これがバイアスだといえる。

 世の中には無数にバイアスがあり、その中でも宗教のレベルに達しているのが「オンナが料理をするべき」という思い込みではないだろうか。料理研究家・土井善晴氏は以前から「一汁一菜でよい」と提言しており、7月17日配信の「朝日新聞REライフ.net」では、「共働きで女性も男性と同じように仕事をしているのに、一汁三菜なんてできっこないわけです」「基本は一汁一菜」と発言している。男性の料理研究家という立場の発言だけに、ネット上で大きな共感を呼んでおり、私はこれに時代の「進歩」を感じた。しかし、そういう進歩が一気に引き戻される気がしてならないが、オリンピックだ。

 アスリートは体が資本のため、食事に気を配る必要がある。そこに異論はないが、ここに「オンナが料理をすべき」という思い込みと、「夫(と子ども)を成功させるのは、妻の役目」という日本的な男尊女卑の考えが加わると、「妻の料理次第で夫は成功する」といった盲信が強くなるのではないか。そんな“アスリートの妻”という役割を、今、日本中から一身に背負わされているのは、競泳男子・瀬戸大也選手の妻でタレント・馬淵優佳だと思われる。

 瀬戸選手はオリンピック前、「金メダルに最も近い男」として期待されていたが、2020年に「週刊新潮」(新潮社)に不倫を報じられたことで、ANAにスポンサー契約を解除され、味の素のCMも降板、JOCのシンボルアスリートや日本短水路選手権の出場も辞退した。さらに、日本水連が年内活動停止の処分を下すなど、数々のペナルティーを受けた。活動停止処分が明けて、今年2月の「ジャパン・オープン」に挑んだ瀬戸選手は1着でフィニィッシュしたものの、その後、不調に悩まされる。 
 
 馬淵は「AERA」2021年8月2日号(朝日新聞出版)の取材に対し、瀬戸選手の不調は「完全に白米不足でした」と振り返った。瀬戸選手は活動停止中に増えた体重を減らそうと、負荷の強い練習を重ねたところ、疲れすぎて食事が摂れず、体力も落ちるという悪循環に陥ってしまったそうだ。馬淵は同誌で、食欲がない瀬戸選手が食べやすいようにおにぎりを作るなど、食べ方を工夫したエピソードを披露している。 
 
 この記事には「不調は白米で乗り越えた」というタイトルがついているが、馬淵は不調の原因こそ分析しているものの「乗り越えた」とまでは言っていない。事実、瀬戸選手は東京オリンピックの400メートル個人メドレーと200メートルバタフライで、まさかの予選落ちをしている。「不調を乗り越えた」としたのは、200メートル個人メドレーの試合が残っているため、これから戦おうとする選手の戦意を削がないための編集部の温情かもしれないが、それ以外にも、「問題を起こしても見捨てずに、陰日向となって支えて夫を大成させるのが妻の役目」という思い込みによって、「白米不足」に気づいて工夫を凝らした馬淵は、“アスリートのよき妻”というバイアスがかかっているように感じてしまうのだ。 
 
 馬淵は「AERA」だけでなく、『突然ですが占ってもいいですか?』(フジテレビ系)『今夜くらべてみました』(日本テレビ系)など、テレビにも多数出演している。世間には「夫が競技で成功するかどうかは、妻の頑張り次第」という思い込みがあるから、これで瀬戸選手の成績がよければ「いろいろあったけど、奥さんがしっかり支えた」「奥さんはきれいなだけでなく、明るく気丈」などと称賛されただろうが、今のところ瀬戸選手は予選敗退に終わっている。その結果、ネット上には「こんな時に妻がテレビに出ているから、ダメなんだ」「妻がダメだから、夫の成績が伸びない」とか、「瀬戸の不調は妻のせい」「夫人の気が強いから、瀬戸は逃げ場を求めた」などと、瀬戸選手の不調も不倫も馬淵のせいといったコメントが見られた。 
 
 メディアに頻繁に出演したアスリート妻といえば、元プロ野球選手・野村克也氏の妻、沙知代夫人が思い出される。歯に衣着せぬ毒舌で知られた沙知代夫人だが、視聴者がおおむね好意的だったのは、彼女がアメリカの名門・コロンビア大学出身であるということと(後に学歴詐称疑惑が勃発するのだが)、夫が野球界のスーパースターで名将だったからではないだろうか。野村氏が絶好調の状態で沙知代夫人がテレビに出て、強気なことを言うと「さすが賢夫人、本質をついている」と称賛されたが、成績が悪いのにテレビに出ていると「こんなときにテレビに出ている場合か」と言われていた。このころからずっと、妻の言動自体は二の次で、夫の成績次第ですべての評価が変わっていたわけだ。

 ちなみに、沙知代夫人は「オンナが料理をすべき」という考えの強い人で、自身がオーナーを務める少年野球チーム「港東ムース」では、選手のお弁当をチェックし、冷凍食品が入っていると親を呼び出して叱っていたそうだ。「母親がごはんを作っていれば、夫と子どもは間違いを起こさない」とワイドショーでよく話していた。

 しかし、20年2月11日に配信された「文藝春秋digital」の野村氏インタビューによると、沙知代夫人は料理が得意中の得意だったけれども、「奥さんらしいことをやってくれたのは最初の1年くらい」と話している。私は、沙知代夫人がウソをついていたとか、怠惰だったと言いたいわけではない。「妻の料理次第で夫は成功する」というのは単なる思い込みで、「妻が食事を作ろうが作るまいが、夫は結果を出す時は出す」ということだ。 
 
 馬淵だけではなく、瀬戸選手も「不倫をした男」というバイアスに悩まされているかもしれない。オリンピックで結果が振るわないことに対し、ネット上には「女にかまけていたから」と瀬戸選手を責めるような声も上がっている。 
 
 しかし、オリンピックは原則4年に一度。選手たちはここで勝つために人生を捧げてきたはずだし、瀬戸選手が不倫しようと、その妻が出たがりだろうと、結果を出す時は出すし、出さない時は出さない。だったらバイアスを取り去って、素直に応援したいと思う。