マーベル・コミックの人気女性キャラクターを描いた、新作映画『ブラック・ウィドウ』。スカーレット・ヨハンソンが演じる暗殺者ブラック・ウィドウは、2010年公開の『アイアンマン2』に初登場したときからファンの心を奪い、7月8日に全米で公開されると3日間で8000万ドル(約87億7000万円)以上の興行収入をたたき出した。
しかし、その『ブラック・ウィドウ』をめぐり、スカーレットと、同作の制作スタジオを傘下に持つウォルト・ディズニーの間に大きな亀裂が生じている。
米芸能誌「People」によると、スカーレットはディズニーから「『ブラック・ウィドウ』は劇場のみで公開する」と約束され、報酬の大部分は劇場の興行収入に基づいて計算されるという契約を交わしていた。しかし、ディズニー側がストリーミングサービス「Disney+」で同作を劇場公開と同時配信したことで、劇場での観客が激減。5000万ドル(約54億8000万円)以上もの損害を被ったとして、契約違反を理由に、現地時間7月29日にディズニーを提訴した。
これに対して、ディズニーの広報担当者は、「まったくメリットがない訴訟」「新型コロナウイルスのパンデミックで、世界が長期的に恐ろしい影響を受けているということを無情にも無視した訴訟であり、悲しく痛ましい」「ディズニーはヨハンソン氏との契約をきちんと守った」と反論。「Disney+のプレミアアクセスで配信されたことで、彼女はすでに受け取った2000万ドル(約21億9000万円)に加え、追加報酬を受け取る能力を大幅に強化した」とも主張した。
このディズニーの反論にネット上は、「契約違反の話をしているのに、なんでコロナとか報酬額の話を持ち出すのか」「“コロナ禍で世界中の人が困っているのに、2000万ドルを受け取ったスカーレットが“ごねている”と印象づけている」などと違和感を覚える人が続出。論点ずらしだとの批判が噴出した。
映画業界の女性の権利を守る人権団体「Women in Film」、業界のジェンダー平等を守る「ReFrame」、そしてセクハラ撲滅を訴える「TIME’S UP」は、共同でディズニーへの批判声明を発表。「訴訟に関してはどちらの肩も持たない」とした上で、ディズニーの反論は「契約上の権利を守ろうとするスカーレットを、無神経で利己的な人物と印象づけようとしている」と指摘。
「ビジネス的な対立において、このようなジェンダーに基づく人格攻撃は、あってはならない」「男性は人格攻撃を受けずに利益を守れるのに、女性や少女が同じことをすると、すさまじい個人攻撃や批判を受ける環境を作り出す」とし、彼女の人格を傷つけるようなディズニー側の攻撃を強く非難した。
スカーレットの弁護士は、有料サービスである「Disney+」の会員がさらに課金して視聴できる「プレミアアクセス」で『ブラック・ウィドウ』を劇場と同時に配信開始することで、「会員数を増やし、同社の株価を上げようとしている」のは明確であり、それをごまかすためにコロナの話を持ち出したと批判。
スカーレットのエージェントも、ディズニーの声明を「恥知らず」「虚偽である」と強い口調で非難。「彼女はコロナ禍の世界的な影響を無情にも無視するような人間ではない」と憤りをあらわにしている。
米メディアは、今年5月28日に劇場と「Disney+」で、やはり同時に公開/配信された映画『クルエラ』に主演したエマ・ストーンも、ディズニーに対して同様の訴訟を行う可能性があると報道。今後の展開が注目されている。