■産婦人科医・宋美玄先生の妊娠・出産Q&A
Q.妊娠中に新型コロナウイルスにかかるとリスクが高いの?
A.重症化リスクが高く、通常より入院できる病院が見つかりにくいかも
妊婦さんが新型コロナウイルスに感染・発症した場合に困るのが、まずご本人の不安でしょう。妊娠中はただでさえ体調の変化に敏感になり、精神的にも不安定になりやすいので、十分なケアが必要になります。次に軽症であっても、隔離期間には妊婦健診等を受けられなくなることが挙げられます。
さらに大変なのが、通常に比べ、中等症以上の場合に療養先や入院先が見つかりにくいかもしれないことです。何しろ妊娠中は禁忌の薬も多く、新型コロナウイルス感染症の治療と同時に妊娠経過も診ていかなくてはなりません。ですから、産婦人科医がいない病院などでは受け入れができない場合もあります。
また、妊婦さんが新型コロナウイルスに感染すると、重症化するリスクが少し高くなると言われています。特に35歳以上、肥満(BMI値30以上…BMIの計算式はこちら)だったり、タバコを吸っていたり、また糖尿病や高血圧、喘息などの基礎疾患があったりする場合は、重症化のリスクが高いと言われているので注意が必要です。
なお、母子感染するかどうかも気になると思います。現時点でははっきりとはわかっていませんが、妊娠中の胎内感染、出産時の産道感染のどちらもリスクはゼロではありません。ただ今のところ、妊娠中に母親が新型コロナウイルスに感染・発症しても、胎児に先天性障害が起こったり、流産の確率が上がったりすることはないと考えられています。妊娠中期や後期に感染すると、早産のリスクが高くなり、赤ちゃんがNICU(新生児集中治療室)に入るリスクは上がりますが、死亡リスクは高くないようです。
母乳を介した感染があるかどうかについても、まだはっきりしていませんが、WHO(世界保険機関)は感染のリスクよりも、母乳栄養のメリットのほうが大きいとしています。ただし、お母さんがマスクをして手指や乳房を消毒したうえで、搾乳して哺乳瓶で与えたほうがいいとされているようです。当然のことですが、お母さんが搾乳するのもつらいようであれば、人工乳(粉ミルクや液体ミルク)を選んでもいいと思います。
以上からわかるように、妊娠中に新型コロナウイルス感染症にかかると特に大変です。妊婦さん自身はもちろん、家族や周囲の人も感染しないようにしっかり予防や対策をしてくださいね。
それでも、もしも妊娠中に発熱、味覚異常、倦怠感がある、咳が出る、息苦しいなどの症状がある場合、まずはかかりつけの産婦人科に電話で相談しましょう。他の妊婦さんや医療関係者にうつしてしまう危険性があるため、決して連絡なしで産婦人科を受診しないでください。かかりつけの産婦人科が休診、または連絡がつかない場合などは、各自治体の受診・相談センターに連絡しましょう。
その後、PCR検査で陽性となったり、新型コロナウイルス感染症と診断されたりした場合は、軽症ならほとんどは自宅療養になります。中等症以上の場合はホテルなどの隔離施設で療養するか、または入院することもあるでしょう。大変だと思いますが、多くの場合は重症化しません。医師や保健所の指示に従って落ち着いて対処してくださいね。
<今回のポイント>
○妊娠中は受け入れ先を探すのが大変
○妊娠中は重症化のリスクが少し高い
○35歳以上、肥満、喫煙者、基礎疾患のある人は特に要注意
※この記事は2021年8月1日現在の最新情報をもとに作成しています。
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