• Fri. Sep 17th, 2021

「息子には英語に振り回されほしくない」私立中の英語教育に期待した父子の“理想と現実”

“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 現在の私立中高一貫校では、ネイティブスピーカーの教員から日常的に英語指導を受けられることや、海外研修、留学プログラム、さらには海外大学進学への積極的な取り組みなどはもはや「当たり前」になっている。「国際的に活躍できる人材の育成」がグローバル化していく日本には必須という認識のもと、各校が英語を筆頭とする外国語学習に力を入れているからだ。

 その中でも「インターナショナルクラス」というような名称で運営されているコースを持つ学校では週9〜10時間の英語授業が実施されているが、一般的な「中学生になって初めて本格的に英語を勉強する」コースであっても週7~8時間の英語授業が展開されていることは、むしろ普通だ(公立中学は週4時間)。

 会社員である信也さん(仮名)は大卒後、国内企業に入社し主に営業畑を歩いていた。それなりに出世も順調で、会社員生活には概ね満足していた信也さんであるが、ある日、突然、会社が外資の傘下になったことで「英語」に振り回されるようになったという。

「自分は英文科卒でもないですし、ましてや留学経験もない。どうにか“読み書き”には対応できるんですが、聞く・話すはいまだに本当に苦労しています。息子には、こんな思いはさせたくないと思い、当時6年生だった息子の志望校として、英語教育に強いという中高一貫校に照準を合わせました」

 そして、信也さんは息子の翔くん(仮名)を英語教育に熱心なある中高一貫校に入学させた。その学校は、ターム(学期)留学や長期留学にも積極的な学校で、副担任にはネイティブスピーカーが就き、英語の授業以外でもさかんに英語が使われる学校生活という触れ込みに心が動いたという。

「最初は翔も『英話の授業が楽しい』と妻に報告していたみたいですが、すぐについていけなくなったのは誤算でしたね……」と信也さん。

 その学校はグレード別授業を展開しているのだが、一番上のクラスは当然のことながら帰国子女や幼い頃から英語に慣れ親しんでいる子どもたちで構成されており、中学入学までほとんど英語に触れたことがない翔くんはスタンダードクラスに所属。そこでイチから丁寧に指導されていたという。

 ところが、そのスタンダードクラスもフタを開けてみたら英検5級(中学初級程度)取得者が多く、4級取得者(中学中級程度)もチラホラといるようなレベルの高さだったそうだ。

「私立って成績下位層に合わせて授業展開するわけじゃないんですね? どっちか言えば、上位者をさらに伸ばそうとしているというか……。そのせいか、学ぶスピードもすごく速いみたいなんですよ。英語の授業ですぐについて行けなくなり、おまけに英会話の授業でも、クラスメイトの皆はネイティブの先生の言っていることが理解できているのに、自分はまったく解らないことが、増えていったようで、その空間に耐えられなくなったみたいなんですよね。もちろん、息子には奮起をしてほしくていろいろと発破をかけてもいたんですが、言えば言うほど、英語嫌いに拍車がかかったみたいで、本当に弱りました」

 中3までに英検3級レベルを必須としている中高一貫校は多いのだが、翔くんの学校は元々、英語に興味がある子が入学してくる傾向があるので、中学卒業時点で英検2級(高校卒業程度)レベルも珍しくないとは、その学校の先生の弁だ。

 翔くんに併設高校進学条件が付けられたのは中3の春だったという。「秋までに英検3級を取得しなければ高校への進学を認めない」ということだが、翔くんは奮起するどころか、ますます英語から逃げるようになり、それどころか、その頃には、どの教科も低迷しており、学習意欲は皆無という状態。

「もちろん、学校は補習を組んでくれたり、追試をしてくれたりもしていましたし、英語補習塾にも無理やり入れましたが、本人にやる気がない以上、どうしようもないんですよね……」

 結局、翔くんは英検3級を取得することができず、進学条件を満たすことができなかったのであるが、担任の先生のご尽力で、レポート提出などの裏技を駆使しながら、どうにか併設高校進学が認められたという。父親である信也さんは語る。

「学校の温情で高校には入れてもらいましたが、だからと言って成績が上がるわけもなく、高1になった今も英語は最下位に近い成績です。もう英検会場にも行きませんね……。はじめのうちは“親の心、子知らず”だなぁと思っていたんですが、考えてみたら、この学校を受けろって言ったのは私ですし、今、思えば、“親の思いは余計なお世話”だったってことですかね……。結局、勉強は英語であろうと何であろうと、自分で興味を持ってやろうと思わない限りはどうにもならないってことですよね……」

 信也さんは翔くんが自分から「これをやりたい」と言うまでは、何も言わずに見守ることにしたそうだ。

 中学受験は、子どもが幼い分、親の誘導によることが大きい受験になってしまうので、翔くんのような、親の“良かれ”が思い通りにならないというケースも珍しくない。信也さんの反省の弁を聞いているうちに、子育てというものは本当に難しいものだなあと改めて感じるところである。