細田守監督の最新作『竜とそばかすの姫』が7月16日に公開された。本作は、幼い頃に事故で母親を亡くし心の傷を負った主人公の女子高生・すずが、インターネット上の仮想空間<U>で、もうひとりの自分「ベル」となり心に秘めてきた歌を披露。歌姫として世界から注目される存在となったベルは、悩みや葛藤を抱えながらも、未知の存在との遭遇を通して成長していく――という物語が描かれる。
これまでも細田監督は『サマーウォーズ』(2009年)で神木隆之介、『おおかみこどもの雨と雪』(12年)で宮崎あおい、『バケモノの子』(15年)では染谷将太や広瀬すずなど、多くの芸能人を声優に起用してきた。本作では、主人公のすず/ベル役にミュージシャンの中村佳穂を起用しているほか、すずの同級生役に成田凌、染谷、玉城ティナらが名を連ねている。また、同6日に都内で行われた完成報告会見で、重要キャラクター・竜役を佐藤健が務めていることがサプライズ発表されたことも大きな話題となった。
芸能人の声優起用は、メディア取材を呼び込み、大々的に宣伝することによって集客数を伸ばすことが目的の一つとされている。今作も人気芸能人の多数出演が功を奏したのか、公開初日から3日間の累計で興行収入8億9,000万円(興行通信社調べ、以下同)を突破しており、細田作品で歴代最高の最終興収58億5,000万円を記録した『バケモノの子』を上回るロケットスタートを切った。しかし最近では、芸能人の声優起用が興行収入に直結するか否かはケースバイケースのようだ。
「神木と上白石萌音がダブル主演した『君の名は。』(16年)は、累計興行収入250億円の大ヒットを記録しました。一方で、キャストに芸能人を使わなかった昨年公開作『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の興収は400億円を突破し、日本歴代興行収入1位の『千と千尋の神隠し』(01年)の記録を塗り替えることに。『主要キャラクターの声優に芸能人を起用する』というこれまでのアニメ映画のセオリーも通用しにくくなりつつあります。『鬼滅』のヒットは、今後のアニメ映画のキャスティング方法にも、大きな変化をもたらすかもしれません」(声優業界関係者)
芸能人の声優起用をめぐり、アニメファンから最も懸念されるのは「声の演技力の乏しさ」だ。本作『「竜とそばかすの姫」』でも、声優初挑戦の中村に対して「歌は素晴らしいけど演技が残念」「ダントツで演技がヘタだった」「プロの声優を使ってほしかった」など、本業である歌唱力はネット上でも高く評価されている一方、声優としての実力には厳しい声が寄せられている。
では、これまでのアニメ作品で評価が低かった芸能人はほかに誰がいるだろうか。
「古い作品だと、ジブリ映画『もののけ姫』(1997年)のヒロイン・サン役の石田ゆり子や、細田作品では『サマーウォーズ』で夏希を演じた桜庭ななみが、ネット上で『セリフが棒読み』だと批判されました。最近の作品で最も酷評されたのも、やはり細田監督の『未来のミライ』(18年)で、4歳の男の子・くんちゃんを演じた上白石萌歌でしょう。そもそも、この作品で初めて声優に挑戦した彼女には、当時18歳ながら幼児を演じなければならないという高いハードルが課せられました。プロの声優でも難しい演技を要求された上白石は、案の定、『キャラと声が合ってない』『違和感がありすぎて物語に入り込めなかった』などと非難を浴びています」(同)
また、作中で描かれた“家族観”が賛否を呼んだこともあり、『未来のミライ』の最終興行収入は28億8,000万円と、前作『バケモノの子』から大きく落ち込むことに。
「しかし、上白石の演技に批判が集中したのは仕方のないこと。声優は“声”だけで表現するプロですから、全身を使って表現する俳優や女優に同等のレベルを求めることは酷なんです。今後は『鬼滅』の功績が後押しして、必ずしも“ヒットする作品=芸能人を起用した豪華なキャスティング”ではないことに、世間も気づきはじめると思いますよ」(同)
公開3週目で累計33億円を突破するなど、興行的には成功を収めている『竜とそばかすの姫』。主演の中村の演技には賛否が寄せられている中、果たしてどこまで数字を伸ばせるだろうか。