波瑠が主演を務める月9ドラマ『ナイト・ドクター』(フジテレビ系)。「あさひ海浜病院」の夜間救急専門チームで働く朝倉美月(波瑠)、成瀬暁人(田中圭)、深澤新(King&Prince・岸優太)、桜庭瞬(北村匠海)、高岡幸保(岡崎紗絵)という5人の医師が命と向き合い、家族や恋人への悩みを抱えながら成長していく“青春群像劇”だ。
波瑠や田中など、テレビドラマでお馴染みの顔ぶれが目立つ中、放送前から演技力が“いろいろな意味”で注目されていたのが岸だった。岸はジャニーズJr.時代の2015年、深夜ドラマ『お兄ちゃん、ガチャ』(日本テレビ系)の主演(鈴木梨央とダブル主演)に抜てきされるも、その後はSexy Zone・中島健人主演映画やスペシャルドラマに数本出たのみで、プライムタイムでの連ドラ出演はなかった。そのため、『ナイト・ドクター』の出演が発表された際には、ファンから「え? 月9のメインキャスト? すごい!」とどよめきが起きていた。
同作では、両親を早くに亡くし、病弱な妹(原菜乃華)の面倒を一人で見る研修医あがりの元内科医を演じる岸だが、その演技をプロはどう見るのか。現在、「エイベックス・アーティストアカデミー」のシアター総合コースディレクターとして演技講師も務める演出家で俳優の秋草瑠衣子氏に、7月19日に放送された第5話を見てもらい、気になるシーンをピックアップしてもらった。
気になるシーン1:「“わかっていない”という態度がリアル」
序盤では、患者の処置に手こずる朝倉に成瀬が「どけ」と言い放ち、慣れた手つきで処置を終わらせてしまう。立場のない朝倉が深澤や高岡の前で「なんなの成瀬先輩、なんでも一人でやっちゃってさあ!」と言い放つと、深澤が冷めた表情で「仕方ないだろ。ここじゃ成瀬先生が一番腕もいいし、経験豊富なんだから」と正論で返す。この言葉でさらに苛立ちを募らせた朝倉は、深澤に近寄り大声で不満を爆発させる。
秋草氏 このときの岸さんは、“なんで目の前の人が怒り出したのかわからず、ビックリしている”という演技がうまいです。“自分の言葉の何がダメだったのかわかっていない”という態度がリアルですね。相手の反応を見てから、自分も反応できています。
気になるシーン2:「“体の反応”として動けている」
母親の越川法子(紺野まひる)に付き添われた子ども・日向が夜間に運び込まれる。うろたえるあまり処置室にまで入ろうとする母親を、深澤が「お母さんはここまで!」「落ち着いてください」などとなだめるシーン。
秋草氏 ここでも、共演者の声に気づいてから対応する芝居ができています。芝居というのは台詞だけでなく、だいたいの動きも決められていることがほとんどですが、岸さんは“決められた動き”として動くのではなく、“相手の台詞や芝居を受けて、感情が動くから体がそう動く”という“体の反応”として動けているのがとても良いですね。
越川が問診票に記入した生年月日と、日向の年齢が合わないことが発覚。真相を探るため、高岡が日向のベッドへ直行するが、不審な行動をとる。その場面を目撃した深澤が「高岡?」「おい! 何やってんだよ!」と小走りで駆け寄るも、高岡から「静かに!」と注意されてしまう。
秋草氏 ここでは、高岡の姿を確認→彼女が早足でどこかに向かっている→どうしたんだろう?→「高岡?」という流れ。これを大げさにしすぎず、でもちゃんと表現できているのがとても良いです。その後の「静かに!」と注意された時の反応も、全身を使って愛嬌たっぷりに表現できているので、“体の反応”として動けている良いお芝居ではないでしょうか。
気になるシーン4:「岸さんの人間性」が出た?
チームのメンバーが一丸となって日向の脳出血のオペにかかる中、デスクでひとり雑用をこなす深澤。そこへやってきた指導医の本郷亨(沢村一樹)が「お前はいつもハムスターだなあ。いつまでたってもたった1人、同じところをクルクル回っている」と皮肉を言い、深澤に飲み水を渡す。あっけにとられた深澤は、「チキンの次はハムスターかよ……」とつぶやき、「いただきます」と水を口にする。
秋草氏 岸さんの良いところが詰まったシーンです(笑)! 冒頭の「そうですか~」と、その後の「えっ?」という台詞、これも沢村さんの言葉を新鮮に受け取って、自分の気持ちが変化してから発語しているので、短い言葉に感情をうまく乗せることができています。そして最後の「いただきます」。これは良い芝居が出ましたね!
何か嫌味っぽいことを言われたことに対する反発心よりも、「その言葉の意味はなんだろう? 自分はもっとどうすれば良いんだろう?」という戸惑いと、水を自分の分も置いていってくれた上司の心遣いに対する素直な感謝の気持ちが含まれたレベルの高い一言だったと思います。演技として狙ってやったというよりは、岸さんの人間性が出ていたのかもしれません。ドラマや映画を見る時に、俳優の人柄が滲み出る一瞬を探すのも、見ている側の愉しみかもしれませんね。
気になるシーン5:「一度も瞬きをしていません」
成瀬から「お前はいつまでポンコツでいるつもりだ」と鼓舞された深澤。複数名の負傷者が出ているという事故現場からドクターカーの要請が入ると、深澤は珍しく「待ってください。自分もいかせてください。チャンスをください」と本郷に訴える。
秋草氏 ここもとても良かったです。「行かせてください!」と初めて自分から言い出すシーンですね。瞬きを一度もしてないんです。岸さんは気持ちが揺れているシーンでは瞬きが多くなるお芝居をされているのですが、このシーンでは「行かせてください!」と言ってから一度も瞬きをしていません。意志の強さをうまく表現できています。
初回から“物語のキーマン”と言われている岸だが、第5話でも重要な役どころであった。そんな岸の演技を「全体的にとても自然体で良い意味で力が抜けていて好感が持てます。岸さんは、演じよう、演技しなきゃ、良く見せなきゃ……という意志が見えないのが、まず良いです」と語る秋草氏。その理由を、次のように予想した。
秋草氏 ドラマの現場で“俳優の先輩方に囲まれている”という状況も役の立場と似ていますし、役の性格もご自身と近い部分が多いのかもしれない。現場で「演じようと思わず、そのままでいいよ」と演技指示を出されている可能性も高いです。演技は台詞だけで見せるものではなく、全身を使って表現するものなので、パフォーマンス能力の高い岸さんは俳優に向いていると思います。テレビやコンサート映像で拝見する際、パフォーマンスの中で“目線”の使い方がとても上手だなと思っていたのですが、ドラマの演技の中でも同様に、違和感なく、効果的に目線を使えていると思います。今後、俳優としてのご活動もますます楽しみですね!
秋草瑠衣子(あきくさ・るいこ)
元宝塚歌劇団男役。フリーの演出家・俳優。2017年文化庁新進芸術家海外研修制度に選出され、パリにて演劇教育についての研修に励む。エイベックス・アーティストアカデミーシアター総合コースディレクター。
~秋草氏の最新情報~
『ココ・デ・テアトル -奈良町・西村邸』
日程:2021年9月30日~10月3日
「奈良県奈良町にて"町歩き演劇"を演出します。町の人々の実際の”記憶”や”物語”をお借りしてRPGのような演劇をつくります」
※詳細は公式ホームページ