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『ザ・ノンフィクション』がんの病床でも明るく、暗くなるのが嫌な人「笑顔で生きよう~お母さんと僕の約束~」

 日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。8月8日の放送は「笑顔で生きよう~お母さんと僕の約束~」。

あらすじ

 料理研究家の高木ゑみ、34歳。著書の一つ『考えない台所』(サンクチュアリ出版)は14万部を超えるベストセラーだ。7歳の一人息子と2人で暮らすシングルマザーでもある。コロナ禍でもオンライン料理教室を開くなど、精力的な活動を続けていたが、2020年10月31日、腰に強い痛みを覚え病院で検査をしたところ、ステージ4のがん(がんが発生個所とは別の部位に転移した状態。進行度で言えば一番重い状態)であることが発覚。腰痛は肺から転移したがんによるものだった。

 がん宣告からわずか3日後の11月2日、ゑみは病室からインスタグラムのライブ配信を行う。化粧をして髪を巻いた状態で、ガンを宣告された様子を明るい様子で伝えていた。『ザ・ノンフィクション』の取材もがんと闘う姿を記録してほしい、ということで始まる。

 その後もゑみは病室からインスタライブを更新していく。治療のために親知らずを抜いて顔が腫れた時の様子や、治療で吐き気がひどく食事が食べられない時につまんでいるおやつや、誕生日にプレゼントに囲まれた部屋の様子などを、常に明るく伝える。

 翌月12月15日、容体が安定しひと月ぶりに自宅に戻る。ただ、完治にはまだ時間がかかり、髪の毛も3分の1くらいが抜けた状態だと話していた。さまざまなウィッグを購入し、その様子も動画で配信、病床で差し入れでもらったグラノーラで思いつき、オリジナルのものを開発しようと今後のプランについても話していた。

 「シングルマザーだし死ぬわけにはいかない」とゑみは話していたが、離婚した元夫と息子はZOOMで会話をしているとのことで、「万が一のことを考えると、(元夫と)息子の距離をもっと近くにいてほしいと心から願うようになって、そこから私の接し方も変わりましたね」とも話す。

 がん発覚から約4カ月後になる21年2月22日、月1回の定期健診では(がんの)影も薄くなっており、血液検査の結果も良好とのこと。ゑみはオンラインセミナーで料理やテーブルコーディネートの情報を発信するなど精力的に日々を過ごす。

 しかし翌月の3月24日、体調が急変しゑみは再入院となる。入院前日の23日も動画配信をしていたが、その中では何度か咳込む様子も見られた。入院後は肺炎になりICUに移動、27日に呼吸器をつけたまま一般病棟に移るも、これは容体がよくなったからではなく、家族との時間を過ごすための病院側の配慮だった。ゑみはいつも通りメイクをして、息子と一緒に風呂に入るなど家族との時間を笑顔で過ごす。翌28日、ゑみは35歳で亡くなった。

 ゑみは学校卒業でいきなり独立したようだ。番組スタッフとの会話で「就職して誰かから『これをやれ』って振られる仕事が絶対嫌だった」「自分で好きなことを見つけて、それを仕事にするぞって言うのが昔からあって」と話していた。

 この言葉に共感する人はいるだろうし、こういう気持ちをSNSでつぶやく人も少なくない。少なくないのだが、ほとんどの人はそう希望を述べるだけで終わってしまい、何も実行できずにいる人がほとんどだろう。仮に起業までこぎ着けた場合も、実質それでは食べていけず、お飾りの「起業」状態になっている人の方が多いのではないかと思う。

 しかし、ゑみはそれを実行し軌道に乗せ、さらには著書『考えない台所』は14万部超えと目覚ましい結果を出している。漫画以外の書籍が1万部を超えるというのは「かなりのヒット」と言ってよく、世の中の漫画以外の9割以上の本は1万部の壁を越えられない。ましてや10万部は「異次元」の領域といっていい。運も必要だが運だけでは絶対たどり着けない領域だ。

 ゑみはがんや治療による副作用でしんどかったと思うのだが、動画上はそれをおくびにも出さず、ヘア、メイクともに華やかに決めていた。ゑみの本業である料理も、そしてゑみが最期まで大切にしていたヘアメイクも、食べたり風呂に入れば跡形もなくなってしまうものだ。手を抜こうと思えばいくらでも手が抜けることだし、「やりたいときだけ頑張る」ならまだしも、それを毎日高いクオリティで維持していくのは非常に気合のいることだと思う。

 ゑみはそういった日々の営みも手を抜かない人という印象を受けた。こういった徹底した姿勢が14万部の大ヒットにつながった原動力なのではないかと思った。

 突然のステージ4のがん宣告から3日でインスタライブを病室から行ったゑみだが、その様子はちょっと驚くくらい明るく、それでいて無理をしている痛々しい感じがなかった。そして、番組の中のゑみも亡くなるまでずっとそんな印象だった。

 そんな姿を見て、ゑみは「明るくありたい人」だと思うが、さらに言えばそれを超え「暗くなるのが嫌な人」なのではないかと思った。「病院にいると病人になっちゃうから、血色は悪いし髪とかにはケアしないし。鏡見るたびに、どんどんげっそりしてるとかなるけれども、常に美容とかに意識をすると、パックしたりとかお化粧したりすると自分が病人であることを忘れる」と、かつてゑみは話していて、そのときも明るい様子だった。

 ウェブサイト「AERA.dot」の連載「鴻上尚史のほがらか人生相談」で、予後不良のがんと言われつつも日々“のんき”に過ごす女性が、友人からの「絶対治るから希望を捨てないで」「強い気持ちを持って」という励ましがうるさい、という相談があった。

 この相談者もおそらく「暗いのが嫌」なのだろう。一方で、とことんこういうときは落ち込む人もいると思う。

 これはどちらがいい悪いかではなく、当事者はその人のその時々で移り変わるであろう気持ちに嘘をつかないでほしいし、周囲は自分の価値観を押し付けず、病に向き合う当事者の価値観を確認して尊重することが大切なのだろう。