羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。
<今週の有名人>
「喫茶店のお姉ちゃん」石井亮次アナウンサー
『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系、8月11日)
研ナオコの公式YouTubeチャンネルに投稿されている、メイク動画をご存じだろうか。すっぴんの状態から研が愛用しているコスメを使って、テレビでおなじみのあの顔に仕上げるまでを映したものが特に人気で、再生回数480万回を超えている動画もある。人気動画だけに視聴者からのコメントも多く、その中に、研の使用しているコスメがすべて高級品ではないことについて触れたものがあり、「人気芸能人が庶民的なコスメを使っていて、ますます好きになった」「ドラッグストアで買える化粧品を使っていて親近感」といった趣旨のものがいくつかあった。
人気芸能人が使っているから、その商品を私も使いたいと憧れるのではなく、自分と同じようなものを使っている芸能人に好感を抱く。ある意味、視聴者が「自分中心」になっているといえ、大御所芸能人の研ですら「視聴者に『私と一緒』と思ってもらえないと生き残れない」時代なのだろう。
こうした時代の流れをいち早く察知したのは、アナウンサーではないだろうか。元NHK・有働由美子アナは、90年代に女子アナで初めて“自虐”をした人だと私は認識しているが、モテるであろう女子アナが「モテない」と言うことは、当時、かなり画期的なことだったと記憶している。私のように骨の髄までひねくれている人間は「そんなわけねーだろ」と鼻白むが、世の善良な人々は「女子アナなのに気さく」だと、彼女の自虐を歓迎したようだ。
ちなみにモテないはずの有働アナ、巻髪のカツラとサングラスで変装して、ある野球選手の家に通う姿を写真週刊誌に撮られているほか、デートやお泊まり報道が出たこともある。やはり、おモテになっていたのだろう。
この「恵まれているように思われると損」という考えから出る自虐は、徐々に男性アナウンサーにも浸透したように感じている。たとえば、日本テレビの桝太一アナウンサーは東大出身で見た目も良く、オリコン調査の「好きな男性アナウンサー」ランキングで5年連続1位に輝いて殿堂入りを果たすなど、“ザ・人気アナウンサー”だといえる。そんな彼のすごいところは、人気が出だしてからも、“非リア充アピール”を欠かさなかったことだと私は思っている。
2015年10月21日放送の『今夜くらべてみました』(日本テレビ系)に出演した桝アナは、中高時代、彼女はおろか女友達もいなかったこと、大学時代は「シャツはイン、ポシェットつけちゃって」というファッションセンスだったことを、自虐的に明かしている。また、モデルや芸能人と結婚する男性アナウンサーもいるなか、桝アナの妻は一般人で恐妻家のため、しょっちゅう怒られているとも話していた。これらのエピソードはスタジオ内でウケていたと記憶するが、なぜウケたのかというと、「見た目と経歴がよい桝アナにもダメなところがある」という親近感を得て、経歴も見た目も恵まれているが「笑ってもいい存在」と思われたからだろう。
日本テレビには、桝アナの1年先輩に上重聡アナウンサーがいるが、この人は桝アナと反対の“リア充アピール”をしてきたと言ってさしつかえないだろう。PL学園高校出身で、甲子園では“平成の怪物”と言われた松坂大輔と対戦、立教大学時代は東大相手に完全試合を達成している。『おしゃれイズム』(日本テレビ系)に出演した際、プライベートでは「とんねるず・木梨憲武、俳優・佐藤浩一、中井貴一ら有名人とゴルフに行く」「女性にモテるため、ワイシャツ姿で料理をする」と語るなど、キラキラ志向であることを隠さなかった。
しかし、15年4月に「週刊文春」(文藝春秋)が、スポンサー企業の元会長から2000万円のベントレーを借りて、局で禁じられている車通勤をしたり、同氏から1億7000万円を無利子で借りてタワーマンションの最上階を購入したことを報じると、当時、サブ司会を務めていた『スッキリ!!』(日本テレビ系)内で謝罪し、16年3月に番組を降板している。報道から1年後の降板なので、騒動と直接的には関係ないかもしれないが、局側が禁止している行為の制裁と考えるのが自然だろう。もしくは、「タニマチに貢いでもらってウハウハ」という芸能人ぶった行動は、「私と一緒」であることを重んじる今の視聴者に受け入れられない、と上層部が判断した可能性もないとは言い切れないと思う。
それでは、桝アナのように“非リア充”を装えばいいのかというと、それもまた違うと思う。いいバランスを保たないと、違うリスクを背負うことになるのではないだろうか。
8月11日放送の『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)に出演した石井亮次アナウンサーがいい例だ。彼は元CBCのアナウンサーで、『ゴゴスマ~GOGO!Smile!~』(TBS系)の司会者である。同番組は13年の開始時こそローカル放送だったが、今や高視聴率番組となり、全国進出を果たした。番組を成功させたからか、20年にフリーに転身している。
そんな石井アナは、今年7月4日放送の『ワイドナショー』(フジテレビ系)に出演した際、人気者になり天狗になったと思われないように、低姿勢を心掛けていると話していた。フリップを指すときに腕が映るが、高級時計をつけていると視聴者の気が散るため、あえて980円の安物の時計をつけ続けるという。
私には、こういう行動のほうが嘘くさく感じるし、プライドが高くて面倒くさい人だと思うが、おそらく善良なる視聴者のみなさんにはウケる、効果的なアピールなのだろう。しかし、なんでもかんでも自分や身内を下げておけばいいというわけではないはずだ。
『ホンマでっか!?TV』で、出演者のフリーアナウンサーの配偶者について話が及んだ時のこと。司会を務める加藤綾子アナの夫は、年商2000億円といわれる実業家で、元テレビ朝日・竹内由恵アナの夫は医師、元NHKの神田愛花アナの夫は売れっ子お笑い芸人のバナナマン・日村勇紀である。経歴や聞こえが華やかな職業の配偶者を持っている人が多い中、石井アナは、自分の妻を「喫茶店のお姉ちゃん」と言って笑いを取っていた。
その昔、ビートたけしや明石家さんまがテレビでよく「飲み屋のお姉ちゃん」という言い方をしていたが、血縁関係のない若い女性を男性が「お姉ちゃん」呼ぶことはある。しかし、あまり相手に敬意を払っていないというか、相手を「ちょっと下に見ている」ニュアンスが含まれていることは否めないだろう。
前述の通り、石井アナは「天狗になっていない」アピールに過剰なまでに心をくだいている人だから、あえて「お姉ちゃん」という言い方をして、視聴者から共感を得ようとしたのかもしれない。しかし、今の「自分中心」で「私と一緒」を重視する視聴者は、「私だったら、そういう言い方をされたらいやだ」と、石井アナの妻でもないのにそっぽを向く可能性があるのだ。
一昔前、夫が妻や子どもを「愚妻」や「豚児」とへり下った言い換えをすることがあったが、自分のことは下げても、家族のことは決して下げないのが今どきの謙遜ではないかと思う。特に全国ネットの番組で、いろいろな属性の人が見ているテレビでは、「自分の妻を下げることは、女性視聴者全体を下げること」くらいに捉えたほうがいいのかもしれない。
「女性の気持ちをつかめ」というのは人気商売でよく言われることだが、これは簡単なことではない。仕事のできる人の謙遜を「デキた人」と取る人もいれば、嫌みだと思う人もいるし、誰を下げるかによって印象も変わる。そのあたりの塩梅が視聴率のキモになる難しい時代だと思うが、『ゴゴスマ』を成功に導いた石井アナはフリー転身後も活躍できるかどうか、気になるところだ。