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伝説のドラマ『NIGHT HEAD』に詰まった90年代前半の“空気感”――豊川悦司の「怒り」と武田真治の「弱さ」が、暗い輝きとなった

――ドラマにはいつも時代と生きる“俳優”がいる。『キャラクタードラマの誕生』(河出書房新社)『テレビドラマクロニクル1990→2020』(PLANETS)などの著書で知られるドラマ評論家・成馬零一氏が、“俳優”にスポットを当てて90年代の名作ドラマをレビューする。

 7月14日よりフジテレビ系の「+Ultra」枠で放送されている深夜アニメ『NIGHT HEAD 2041』は、1992~93年にかけて放送された伝説の深夜ドラマ『NIGHT HEAD』(同)をリブートしたものだ。

 超能力者ゆえに15年もの間、研究所に隔離されて育ってきた霧原直人・直也兄弟。外に出た彼らを持ち受けていたのは、超能力者が取り締まられ、超常現象を題材にした創作物が思想統制された日本だった。

 物語は霧原兄弟のエピソードと同時に、危険思想を取り締まる国家保安部の特殊部隊に所属する黒木タクヤ、ユウヤ兄弟の物語が描かれ、やがて彼らにも超能力が備わっていることが明らかになる。

 アニメ版の脚本はテレビドラマでも監督・原作を担当した飯田譲治。霧原兄弟の物語はドラマ版の展開をなぞっているのだが、舞台を2041年の日本をとすることで、全く違う物語になっている。

 筆者は高校生の時に『NIGHT HEAD』をリアルタイムで見たのだが、アニメを見ているとドラマが放送されていた当時のことをいろいろと思い出す。深夜に偶然目にした『NIGHT HEAD』は衝撃だった。オープニングとエンディングでは怪しげな奇声の入った民族音楽が流れ、映像も不気味で生々しい。物語は超能力者の兄弟が行く先々で人間のおぞましい一面を覗き込んでしまうというもので、後味の悪い話が描かれ、毎回ブツ切りでドラマは終わる。

 兄の直人(豊川悦司)は、感情が高ぶると周囲のモノや人を傷つける念動力の持ち主。弟の直也(武田真治)は、他人の心を読み取るリーディング能力の持ち主で、2人は普通の生活に憧れていた。

 劇中では「精神世界」「変革」「100匹目の猿」といった意味ありげな言葉が飛び交い、ほかのドラマと比べた時に宗教的、哲学的なテーマを扱っている難解な作品に思えた。現在の視点から見ると、思わせぶりでハッタリの演出にすぎないのだが、当時は世界の真実を知らされたようなショッキングな映像体験だった。まだネットが普及する前に作られた深夜ドラマだからこそ成立した、カルトドラマだったと言えるだろう。

 こんな怪しい深夜ドラマが隠れたヒット作となり、のちに映画化されたことに当時は驚いたが、人気の大半を占めていたのは謎に満ちた物語ではなく、霧原兄弟を演じた豊川悦司と武田真治が醸し出す色気だったのだと、今ならよくわかる。

 豊川と武田は90年代を代表する人気俳優だが『NIGHT HEAD』出演当時はまだ無名だった。

 豊川は、渡辺えり子(現・渡辺えり)が主宰する劇団3〇〇に所属していた俳優で、1989年に退団した後、中原俊監督の映画『12人の優しい日本人』(91年)などの作品に端役として出演。翌92年に主演ドラマ『NIGHT HEAD』で大きく注目され、95年に北川悦吏子脚本の恋愛ドラマ『愛していると言ってくれ』(TBS系)の主演を務めたことで大ブレーク。「トヨエツ」という愛称で親しまれるようになり、アイドル的な人気を博すようになった。

 一方、89年に「第2回ジュノン・スーパーボーイ・コンテンスト」 のグランプリを受賞して芸能界入りした武田も駆け出しだったが、『NIGHT HEAD』と同時期に放送された「ボクたちのドラマシリーズ」第1作の『放課後』(フジテレビ系)に出演したことをきっかけに、若者向けドラマの常連となっていく。

 ひたすら暗鬱としたマニアックなドラマだった『NIGHT HEAD』に出演していた豊川と武田が、同作を機にあれよあれよと連続ドラマで主演を務める人気俳優に変わっていく姿に当時は戸惑ったが、今振り返ると、2人がまとっていた独自の雰囲気が、あの時代の気分をいち早く反映していたからこそ、一気に受け入れられたのだと思う。 

 『NIGHT HEAD』が放送されていた90年代前半は、今振り返っても奇妙な時代だった。まだまだ日本は豊かで明るかったが、昭和から平成に時代が移り、バブルも崩壊し、世紀末ということもあって、世の中が暗くなる兆候が次々と現れ始めていた。

 そんな、暗い影が差し込みはじめた時代の気分をいち早く捉え、人間の心の闇を描いたドラマが『NIGHT HEAD』だったのだ。豊川も武田も、80年代のトレンディ俳優とは違う、独特の暗さを身にまとっていた。

 豊川の場合は、それが怒りで感情が爆発した時に見せるドスの利いた迫力となって現れており、武田の場合は人の悪意に触れる度に心を病んでいく弱々しさへとつながっていた。

 2人とも端正な顔立ちだったが、美しさの背後に「怒り」や「悲しみ」がにじみ出ていた。それはとても病んだものに見えたが、そうしたマイナスの感情をテレビドラマでここまであらわにできること自体に爽快感があった。

 現在の武田は筋トレを売りにするマッチョなタレントとなり、豊川は偏屈なおじさんを演じる怪優になっている。不健康な怒りや弱さを全面に打ち出していた『NIGHT HEAD』の頃の面影は、もはや存在しない。そのことを寂しく感じる時もあるが、だからこそ当時の2人の芝居は、あの瞬間にしか成立しない暗い輝きとして、ドラマの中に刻印されているとも言える。

 おそらく今回のリブートがアニメだったのは、霧原兄弟は当時の2人にしか演じられないと作り手が思っているからだろう。生涯に一度しか出会えない完璧なハマり役だったと、あらためて感じるのである。
(成馬零一)