「婦人公論」(中央公論新社)の8月24日号が発売中です。第1特集は同誌おなじみの“ていねいな暮らし系”の「暮らしを小さく整える」ですが、気になるのは第2特集「真夏の怪奇ファイル」。読者から寄せられた奇妙な実話、心霊体質の女優・室井滋やホラー作家・川奈まり子の恐怖体験談など、オカルト誌「月刊ムー」(ワン・パブリッシング)に張り合うがごとく盛りだくさん。
その中には「婦人公論」ならではの怪奇特集の特徴も見られました。さっそく中身を見ていきましょう!
<トピックス>
◎読者体験手記傑作選 見た、聞いた、感じた、あれは――
◎室井滋 お稲荷様に呼ばれてずっとお祀りする覚悟を決めた
◎川奈まり子 亡くなった方の魂が生きる者にかかわろうとする
霊にも優しい目線を忘れない「婦人公論」
まずは読者から寄せられた怪談手記をまとめた「見た、聞いた、感じた、あれは――」から。人の死の臭いを感知できるという読者、若いカラスと心が通じ合った体験をつづる読者、妊娠中のおなかを亡き祖母が撫でに来てくれた体験を持つ読者、金縛りののち鎧兜の武者に話しかけられた読者。合計4編の手記が掲載されています。
どの手記も、ただ「怖い」だけでなく、どこか温かいまなざしもあるのが特徴。例えば、カラスと15分ほど見つめあうなど、カラスとの不思議な交流をつづった読者は、そのカラスを「顔のシュッとした、ちょっと小柄で若そうなカラス」と、イケメン俳優かのように表現。そんなイケメンカラスと心の交流が生まれ、「優しいカラスには感謝の気持ちさえ湧いてきます」とのこと。この読者とカラス、来世では恋に落ちそうな予感です。
4編の中で最も怪談らしさが強かったのは、鎧兜の武者の霊を見た読者の手記。午前2時、金縛りにあい、現れた武者から「私のことを覚えておいてほしい。私のことを忘れないでほしい」と話しかけられたというゾッとする内容ですが、読者はその体験後、土地の歴史を調べ上げます。そして、そこで無念の思いを抱いたまま亡くなったのであろう武者に思いを馳せ、「たった一人でもその魂の存在を覚え忘れないことが供養」となるのではないか……と思いやる気持ちから、手記を書いています。
若い世代が「怪談=エンタメ」的に面白がるのに対し、「婦人公論」読者層は霊的な存在をどこか自分ごととして考えているのかもしれません。人間、年を重ねて身近な人の死や自身の病気に接するごとに、死後の世界と仲良くなっていけるのかも。だとすれば、年を取るのも悪くないと思えるような気もしてきます。
続いては幼いころから不思議な出来事に遭遇しやすいという女優・室井滋のインタビュー「お稲荷様に呼ばれてずっとお祀りする覚悟を決めた」。室井といえば、心霊体験を中心につづったエッセイ「あなたが怖い」(文春文庫)を出していたり、オカルト好きの間でよく知られた都市伝説「偽の警察官」を生み出していたりと、この界隈のベテランといっていい存在。
今回のインタビューでは、お稲荷様を祀る土地に引っ越した不思議な縁や、ロケ先で体験した恐怖体験などを語っています。室井いわく、地方ロケでの宿では「薄気味悪い部屋」にあたることもあるとか。「私の場合、そのような部屋に入ったとたん、鉄錆を舐めさせられたような感覚が唾液腺から出てくる」と心霊現象の予兆を語ります。
ここで注目なのが「鉄錆」というワード。実は、先に取り上げた読者体験手記の中の、人の死の臭いがわかるという読者も実は、翌日死ぬ人からは「錆臭さ」を感じると書いているのです。
信じやすい筆者は、死後の世界のものって錆臭いのか!? とインプットされてしまいました。
怪談のプロが説く「あの世」とは……
こういった怪奇現象について、プロ目線で見解を寄せてくれているのが、実話系ホラーを得意とする作家・川奈まり子氏です。5,000件以上の怪談を取材し、自らも数々の不思議な体験をしている川奈氏。
インタビュー「亡くなった方の魂が生きる者にかかわろうとする」では、「いわゆる『あの世』を信じ込んでいるわけではありません。『そういうものがあるとされている』と知識として捉えています」と冷静に語り、実際に心霊現象を目の当たりにした際には、「もしかすると『あの世』と『この世』の境には、本当に三途の川みたいなものが横たわっているのかもしれないと、柔軟に考えることにしています」としています。川奈氏の考えでは、その「境界線」の向こうから、亡くなった方たちが生きている側に「かかわろうとすることがあるかもしれない」とのことでした。
もう一つの世界を否定するのではなく知識として取り入れ、説明のつかない現象は正常バイアスにとらわれず柔軟に、あるがまま受け入れる――。怪談だけでなく、今の時代に必要な考え方であるような気がし、陰謀論などにハマる人々にも読んでほしいインタビューです。
いやしかし、「死後の世界=錆臭い」問題についても、川奈氏の意見を聞いてみたかったです。今号のおかげで、これからは錆臭さを感じるたびにびくびくすることになる読者も多いのではないでしょうか。