非科学的な健康法や、悩みに忍び寄ってくるスピリチュアルビジネス。それら「トンデモ」の沼にハマった体験を、当事者に語ってもらうシリーズ「わたしがトンデモだったころ」。今回は「神から選ばれた女神」と自称する、キラキラスピリチュアル教祖様にハマっていたというメイさんとハナさんのおふたり(ともに仮名)に、同時の出来事を語り合っていただきました。
・メイさん(以下、メイ)=40代女性、一児の母。スピリチュアルな世界はあまり興味がなく、本人曰く「霊もオーラも前世も見れないタイプ」
・ハナさん(以下、ハナ)=30代女性、独身。メイさんとともにロスジェネ世代。同じ教祖様のファンコミュニティを通じてメイさんと意気投合し、沼抜けした今も交流中
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――まずは、おふたりがハマっていた「教祖様」について教えてください。
メイ:恋愛指南がウリの作家さんです。スラッとしていてスタイルがよく、容姿やプロフィールの華麗さで、一時期マスコミからも注目されていました。ここでは仮名で、ヒカル先生と呼びましょうか。私がファンクラブに入った当時はスピリチュアルな発信は少なく、同じ女性として憧れる気持ちで追いかけていました。イベントでは、すごくよく似合うタイトなミニスカート姿だったのを覚えています。その服装で壇上の椅子に座り、下着が見えてしまうほど大胆に脚を組み替えたり、ずれたショーツをなおしたり。同性でもちょっとドキっとさせられてしまうような無防備な姿を、彼女のウリだった「モテ」の裏付けのように感じていましたね。
ハナ:私はヒカル先生が、その後スピリチュアル路線に走った時代からのファンなので、ファン歴としてはメイさんの後輩にあたります。ヒカル先生が自分のことを「宇宙から来た女神」「日本の世直しメンバーとして、伊勢の神に選ばれた」と衒いもなく話す大物感に心を奪われ、前のめりに信じ込んでいました。今思うと「神(上)から目線」と呼びたいくらいの、壮大な自分アゲ。女王のようなふるまいや傲慢さ。そこに特別なものを感じ、酔いしれていたんです。
メイ:誰も到達できない高みにいるという感じだったよね。今思うと言っていることはほかのスピリチュアル教祖と似たり寄ったりなんだけど、ヒカル先生はそういった既存のものにカテゴライズされるのを極端に嫌っていた。ヒカル先生信者たちって、子宮系女子の信者とすごくかぶるんですよ。それに気づいたときも「子宮に石をいれるなんて!」※とか、激しくディスっていたのも懐かしい。
※2014年ごろ、金属のパーツでパワーストーンを連結させた「ジェムリンガ」という雑貨が、子宮系女子と呼ばれる一派のあいだで流行していた。正確には子宮でなく腟に挿入して使う。
ハナ:謙虚が美徳みたいなこの国で、あの女王様全開の傲慢キャラクターは本当に強烈だった。当時はそれがすごく魅力的で「この人は破格の存在。私のものさしでは測れない。真実を伝えているに違いない」なんて思ってしまって。私、彼女にあこがれるあまりイベントに参加するときには白ワンピコーデで「白巫女♪」とか気どってましたね。……恥ずかしい(笑)。
――おふたりが「ヒカル先生」のファンになったきっかけは?
メイ:私は子どものころから空気を読みすぎては疲れてしまう神経質なタイプで、学生時代は人間関係でストレスをためこみ、パニック障害や過敏性腸症候群などの神経症で悩んできました。今はだいぶ落ち着きましたが、就職、結婚、出産したあとも周期的に悪化することがあり、現実的に対処するも限界を感じていました。そんなころ、江原啓之氏を筆頭にスピリチュアルブームが来て、スピリチュアルに心の安寧を求めるようになりました。でも、クラシックなスピリチュアリズムでたどり着く答えって、硬派なものが多いんですよ。「悩みや苦しみは魂の成長のために自分で選んできた課題で、もがきながら四つに取り組むことで魂は磨かれる、その過程こそ神様からの贈り物だ」とか。なんだか古代先住民族の長が厳かに語るような感じで、素直に飲み込みにくい。結局世界は苦しみに満ちているのが初期設定なのは変わらないし。
ハナ:もとからスピリチュアルが大好きだった私も、その飲み込みにくさは、すごく同感。なんだろう、わかりやすく言うと「もっと承認欲求を満たしてくれるスピリチュアルはね~か~?」と、山から街へ下りてくる飢えた獣のような渇望があったような感じ。そういった需要に応じて登場してきたのが、ヒカル先生をはじめとする「キラキラ系スピリチュアル」だったんですよね。先生のブログには「私のことが気になって本を読んでくれる子や会いに来てくれる子を見ていたら、天使さんや天女さんがすごく多い。きっと魂で呼びあってるのだと思う」だとか、ふいに読者の自尊心をくすぐってくる発言が、たくさん書いてあった。あれで一気に心をつかまれたんだよな。
メイ:それそれ。むずかしい話をすっ飛ばして「ここに来てる人たちは大丈夫」「選ばれた存在」「あなたたちは特別なお役目の存在」と語っていて、それがすごくよかったのよ~。これは教祖様が信者をとりこむ常套手段だと思うのだけど、私も多くのファン同様、そのサービストークを素直にツルッとダウンロードしてしまった。ヒカル先生は「天使は小柄でカワイイ系」「天女はスラッと背が高くてキレイ系」と、誰にでも当てはまりそうな特徴を説明していたんだけど、それを「私は身長が高いし天女だな!」とうれしく思っていた。なんて、インスタント。
ハナ:天使、天女、あったね(笑)。きっと私たち以外のファンたちも、この閉塞感のある世の中でヒカル先生の言葉を聞き、「私は天使なんだ、天女なんだ」「選ばれた特別なお役目があるんだ」と救いの糸を垂らされたように思え、藁をも掴む勢いで握りしめてしまったのだと思います。ちなみに天使、天女の名称は後に、さらに次元上昇感のある「女神」という呼び名に変わりました。
――ヒカル先生は「こうするとうまくいく」とか、具体的なアドバイスはくれるのでしょうか?
メイ:コレを使えばOK! みたいなグッズをすごく上手に売っていましたよ。私もですが、多くのファンが買っていたのは「岩戸の塩」。これはヒカル先生が「体に入り込んだ悪いモノが浮かびやすくなる」と言い、小さじ1をお白湯に入れて飲むことをすすめていました。チェルノブイリで被爆した子どもをたくさん救ったスピリチュアルなお塩だという説明もあったかな。当時は福島の放射能漏れ事故が起こったあとだったので、私は飲み過ぎなくらい飲んでいましたね。実感は、白湯なので身体がポカポカしてくるくらい(笑)。 あと、飲みすぎると吐き気がしてくる。塩なんで当然なんだけど。
ハナ:その塩、ヒカル先生が言っていた「放射能のデトックス、アレルギーが治る、子宮の病が治る」というようななことって、結局誰か体験したのかなあ。ファンのブログでは「お風呂に入れると除霊できる」なんて話もあったわ。
メイ:昨今は「ファブリーズ除霊」なんてワザもあるから、アリっちゃアリかもしれないけど……。塩のほかにはクリスタルのブレスレットも、ファンのあいだで定番アイテムだったよね。
ハナ:先生本人とそのファンは「清らかすぎて常に闇のエネルギーから狙われているので、クリスタルで防御が必要」という設定になっていて、オリジナルとして販売されていたヤツだ。先生は片腕に3つ重ね付けしたうえに、足首にも付けたりしてた! するとファンたちがそれを見習うんですよ。イベントに行くと、先生のサイトから買ったパワーストーンのアクセサリーを何重にも重ね付けしている女子があちこちに。まるでありったけの貴金属を身につける、遊牧民みたいな光景だった。私は自分が特別に清らかだとも思えず、強大な闇の勢力に狙われている実感もないので、最新のブレスレットをひとつだけつけてました。
メイ:伊勢神宮の五十鈴川で、このブレスを洗うのも流行ってなかった? 五十鈴川で、ヒカル先生のファッションをコピーしたようなファンらしき女性たちか、控えめにパワーストーンをゆすいでいるの、見たことあるわ。ヒカル先生のファンは、基本的には今どき珍しいくらい、純粋そうなやさしそうな若い女性が多かった印象。中には変わった人もいて、突然話しかけてきてトンデモ健康法を延々説明してくる人とかもいたけれど。イベントの開演前に、どちらがよりスピリチュアルに造詣が深いかを競い合うような、マウンティングのバトルも目撃したな。でも今、みんな穏やかで幸せに暮らしているといいな。そこは、心から願いますね。
――パワーストーンに塩。扱っているモノ自体はすごくありきたりなんですね。
ハナ:先生のトークで、オリジナリティがあったのは「バブ」かな。
メイ:ああ……その言葉にはさんざん振り回されたわ。私はいまだに、先生の言うバブとは何なのか理解しきれていないけど、要は幼児性のエネルギー体? でいいのかな? もともとヒカル先生の宇宙母胎にぬくぬくと住んでいて、長年懇意にしている顧問神主さんとのスピ儀式の最中にオギャーと泣いていたのを見つけたって話だった。これ強烈で、今もセンテンスごと頭に入ってる(笑)。
ハナ:そんな話あったあった! バブ玉ヒカル先生の中に巣くってただけでなく、地球上をあまねく侵略していたことがわかったという話。パソコンのモニターに、ひとりでにバブのBという頭文字が「BBB…」入力される話、当時はすごい怖かった(笑)。そして憑りついたバブを外すサポートに、3万円くらいするトルマリンブレスレットが有効だとヒカル先生が宣伝すると、これがまたバカ売れするんですよ。
メイ:イベントで、ファンクラブ会員を壇上にあげて、バブかどうか判定するパフォーマンスも覚えてる。たしか汚部屋女子が、バブだと認定されてたハズ。それに対し、ヒカル先生はとりあえず神社に行けと言ってたけど、その点は信者だった当時でも「バブって神社でお祓いできるんだ~」と、ウケてしまった。
ハナ:やっていることは古典的な霊感商法と変わらないんだけど、キャッチーでオシャレな感じに仕立てるのがうまかった。わかるようなわからないような先生の語る概念に支配され、他人のことは「あいつはバブだ」とジャッジして、自分は「私、憑りつかれてる」「私はバブかも」と不安を煽られる。そして不都合の原因がすべてバブでは? と思えてくる。でも結局はヒカル先生が言っているだけの存在だから、わかるわけがない。そしてヒカル先生に「バブで大変なんです! これはバブですか?」と泣きつくループを作っているように思えました。
――依存させるテクニックなのでしょうかね? 当連載がよくとりあげる子宮系女子も「カルマ粒」だの「子宮の声」だの、集金のための自由な世界観を女性一般にあてはめて発信していましたが、テンプレがあるんだなと感心してしまいます。実際、お金はどれくらい使いましたか?
メイ:ファンクラブは年会費1万円くらい。それに加えてイベントが辺鄙な地域での開催が多いのと、昼の部・夜の部、数日にわたり何コマも組まれていたので、逐一仕事を休んで泊まりがけで行くことが必須になってきます。チケット代、交通費、宿泊費その他もろもろ、そして物販! これを足すと1回のイベントで7~8万は出ていたかな。
ハナ:そのイベントも急に「光のタイミング」で決まることが多いから、結果的に生活全般が振り回されるんですよね。そんな感じでコツコツと10年くらいで、私は200万近くは使いました。ほかの高額なスピリチュアルビジネスに比べるとかわいいレベルの損失と思われそうだけど、金銭面で多くを奪っていかないことに対する安心感から、メンタルを明け渡してしまうというデメリットがあるように思える。
――おふたりとも今はファンをやめたとのことですが、そのきっかけは?
メイ:私は、ヒカル先生が出産し、お子さんを商品にしはじめたことが決定打でした。以前は、自分は波長が高すぎてこの俗世に順応できなくて「子どもを産めない設定」だと発信していたんですよね。でもそれを乗り越えて出産したことは、心からおめでとうって思ってた。ところが、出産後「神の子を産みました☆彡」と言い出したのでドン引きです。しばらく活動中止していたので「おかえりイベント」が開催されたけど、それもすごかったですよ。
ハナ:私と一緒に行ったやつだ。自分の子どもについてひたすら語り、「●ちゃんは、頭から金粉を出すの!」「●ちゃんは地球の救世主のうちの一人なの!」「神の子とか言うと、この地球では、すぐに自慢! と嫉妬されるの!」と……。ふたりで顔を見合わせてしまいましたね。だから、冷めたタイミングはハナさんと同じかな。急におかしな人に思えてきてしまって。
メイ:スピリチュアル界では、胎内記憶なんか、すごく子どもを商品として使いますよね。『かみさまは小学5年生』のすみれちゃんとか。ああいった普通の子どもを大人の都合で「神さま」としてビジネスのレールに載せるのは、私個人の意見だけど、虐待にあたるのではと思ってるんです。特にヒカル先生は産まれる前から神様設定を発信してそのレールを準備して、子供を自分のファンクラブのマスコット的な存在にしている。大人になってから、お子さんが心のバランスを崩さないか、老婆心ながら心配になります。ヒカル先生は高齢出産の初産なんですが、条件的に受け入れてもらうのがむずかしそうな「自然なお産」を金科玉条とする有名医院で出産したことを著書でも公言しています。かなり頼み込んで受け入れてもらったという話だけど、あれって後にファンや自然派ママから見て、箔が付くことをわかっていたからじゃないかな?
ハナ:お産も子供も、どこまでも自己実現の道具にしている感じだよね。私が一番嫌悪感を抱いたポイントは、ヒカル先生が不妊治療などで授かった赤ちゃんを「肉の子」とネーミングしたこと。あれはさすがに酷くて、決定的な分岐点となりました。ちなみにヒカル先生やファンの子どもは「神の子」なんですって。あと獣の子、悪魔の子ってのもあったかな。優生学にも結びつきかねない発言です。腹が立って仕方ありません。ヒカル先生はこのような意見が出ると「私の発言を歪んで理解している」と詭弁で済ますことが多かったけど、いくらなんでもこの発言は重すぎるでしょ。ちなみにこういった炎上するような発言は、ブログもファンクラブの書き込みも、全ての発信をすごくこまめに消しています。絶対にアーカイブを残さないのは、抜かりない。
メイ:今回、この企画で当時を振り返るためにすごく久々にサイトやTwitterを見たら、反ワクチンやパンデミックにすら懐疑的なゴリゴリの「Jアノン」になってたよ。最近はイベントの開催がむずかしくなってるからか、ラジオ配信しているようなんだけど、配信中に何度も音声が途切れた原因について「やっぱり邪魔が入った! 大切なところで邪魔が入る!」と騒いでいて、ご本人もファンも相変わらずな様子でした。いまだに闇の勢力につけ狙われているんだね、きっと(笑)。荒唐無稽な世界感が、年々ディープになっていくけれど、どこまでもついていかれるファンはすごいなあ。私がファンやめした理由は、中年になって自分のダメな部分も見逃せるようになったからかも。もともと自己肯定感が低いので強くて女王様っぽい人になびいてしまったけれど、歳をとるとその自己肯定感の低さをなんとかしようと思わなくなるというか。
ハナ:私の場合は、信じてお金も時間も使ったぶん、それなりのリターンを得たいと思ってもがいていたので、きれいさっぱりお別れというふうにはならなかった。沼から抜けたつもりでも、つい気になって2年間くらいはチラチラサイトを覗いたりしていた。その未練が意地汚く思えて、自己嫌悪になったり……。最近は自分が望めば、エセスピやトンデモを牽制してくれる情報をSNSで得られるのが、本当にいいことだと思う。そこで他者の体験や意見を耳にすることで、呪縛がちょっとづつ解けていって、今こうやってネタとして笑って話せるようになったかなと思っていて。
メイ:ハナさんも私も、ヒカル先生の体験を経て、霊的な話やスピリチュアル全般を嫌悪しているかと言えば、そんなことはないんですよね。変わらずそういう世界が好きだし、エンタメとして楽しんでいます。でも、特定の発信者に入れ込むことは、この先もうないと思います。霊能力のある知人の話を興味津々で聞くこともありますが、小一時間もすれば忘れてしまう(笑)。今の自分には、そのくらいの楽しみ方がいいと思っています。
ハナ:あらためて振り返ると、スピ教祖様は課金して「繋がっている」ときはリップサービスで気まぐれにやさしさをおすそ分けしてくれるけど、本当に窮地に陥っても、一切助けてくれません。今はコロナ禍で出口の見えない不安から、スピリチュアルやトンデモに手を伸ばす人が多く見られます。会員制の閉鎖空間では、エコーチェンバーもより強固になりやすい。そういったシステムを見抜いたり抜け出そうとしたりするときに、私の話した体験が、小さな布石になるといいなと。それが今回この取材をお受けした理由です。
メイ:こうした沼って、表向きは「女性たちを応援」とか「女性や子どもをサポートしたい」と爽やかで明るいけれど、内部に濃く関わるとコンスピリチュアリティ※※の巣窟。子どもまでを救世主に担ぎあげ、教祖ポジションに執着する姿には、本人も引っ込みがつかなくなっているのかなとも感じます。コンスピリチュアリティは、信者も教祖も両方を幸せにできないのではないか? 遠くから界隈を眺る今、そう思えてなりません。
※※コンスピリチュアリティ=陰謀論(コンスピラシー・セオリー、Conspiracy Theory)とスピリチュアリティ(Spirituality)を組み合わせた言葉。
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当時の出来事から自己分析まで、大変意義のある体験談をありがとうございました。今回お話くださったメイさん&ハナさんは、「ヒカル先生」という華やかなスピリチュアル有名人にハマりましたが、商売の手口や説得力を盛るための物語は、多くのスピビジネスに共通するものばかり。そして、それにハマってしまう心理も。メイさんとハナさんのリアルな体験談、身に覚えのある人もいるのではないでしょうか? 似たような体験をした方は、出来事を自分の中で整理するきっかけに。こういった世界に魅力を感じている人は、そこが健全な場かどうかの見極めに。メイさん&ハナさんの体験が、参考になるかもしれません。