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HPVワクチン接種でひとりでも多くの命を救うために…厚労省は積極的勧奨を再開せよ

ByAdmin

9月 6, 2021

 HPVワクチンへの対応が、正念場を迎えている。このままだと2022年以降、ワクチンが入手困難になる可能性があるのだ。HPVワクチンの子宮頸がんなどへの有効性が示され、世界中で需要が急増していることがその背景にある。

 日本においてHPVワクチンは2013年4月から定期接種が行われており、対象となる女性は無料で受けられる。しかし定期接種が行われるようになった直後から「神経症状が出て苦しんでいる子がいる」という情報が新聞などでセンセーショナルに報道され、わずか2カ月後には積極的推奨が差し控えられた。希望者は無料で接種できるが、積極的に勧めない、という中途半端な施策だ。その後もワクチンの危機をあおる報道は暴走し、それまで70%ほどだった接種率は1%未満へと激減した。

 しかし状況は変わりつつある。2018年2月に7万人を対象にした「名古屋スタディ」が、2021年1月には韓国の成均館大学校から大規模な調査が発表され、HPVワクチン接種と重篤な健康被害の関連性はないことが示された。過激な報道とは異なり、ワクチンの安全性が次々と証明されている。

 ワクチンの効果に対するエビデンスにも続報が続く。2019年に新潟大学が約1500人を対象に調べたところ、初体験前にワクチンを打った人は感染リスクが93.9%も下がっていたという。

 2020年にはスウェーデンのカロリンスカ研究所が約167万人を対象にした調査結果を発表。接種者は子宮頸がんの発症リスクが63%、17才未満で接種した人に限ると88%も低いとのデータを示している。

 ところが未だに積極的推奨への議論が始まらない。今年10月までに再開しなければ、定期接種の最終学年である高校1年生分に確保したワクチンすら使い切れない公算が高い。つまり日本向けに調整されたワクチンがだぶつき、廃棄せざるを得ない可能性が出てきている。

 HPVワクチンは、咽頭がんや肛門がん、陰茎がんの予防にもなるため男性が打つことにもメリットがある。しかし供給の少なさから多くの国で男性への積極的接種は行えないのが現状だ。そんな状況下でワクチンが廃棄されれば、世界的に非難されるだけではなく、今後のワクチン供給にも影響が出ることは間違いない。

 一刻の猶予もない状況になり、「一般社団法人HPVについての情報を広く発信する会(みんパピ!)」が署名運動を行った。3日たらずで55,616名もの賛同者を集め、「HPVワクチンの積極的勧奨再開を目指す議員連盟」による積極的な接種勧奨を求める要望書とともに署名を田村憲久厚生労働大臣と加藤勝信官房長官に提出した。

 それを受けて田村厚労大臣は8月31日、閣議後に記者会見を行った。会見では積極的推奨再開について「なるべく早く」としながらも、「コロナが一段落してから審議に入る」として時期については明言しなかった。これでは10月に積極的推奨が再開されるのは実質不可能に近い。

 HPVワクチンは3回接種が必要だが、自費だと約5万円かかる。無料で接種できるのは小学6年生から高校1年生の女子のみ。高1女子が3回接種を対象期間内に終えるには、今月中には接種を始めなければならない。

 「みんパピ!」代表の産婦人科医稲葉可奈子氏は記者会見でこう訴えた。

HPVワクチンの安全性は、世界中の調査研究で確認されています。科学的に安心してお勧めできるもので、多くの医師が国の積極的勧奨を求めています。事務的な面やマンパワー不足など、何かハードルがあるなら、具体的に言ってもらえればなんでも協力します。コロナを言い訳にただ先延ばしにはしないでほしい。

 実際に子宮頸がん患者を診ている医師の発言は切実だ。命を落としたり、子宮を失って絶望したりする女性たちを目の前で見なければならない。「ワクチンさえ打てていれば」と思うのは、医師としてどれほど無念だろうか。

 毎年1万人以上が新たに子宮頸がんと診断され、2800人以上が命を失っている。また30代以下の1200人が手術で子宮を失っている。

 大阪大学は、2000〜2003年度生まれの女子はほとんど接種しないまま対象年齢を越えたため、将来17000人が罹患し、4000人が死亡すると試算している。死亡はせずとも、子どもを望む女性にとって子宮を失うことは人生を狂わす大きな悲劇だ。少子化が問題となって久しいが、出産適齢期の女性たちの健康を守らずに放置しているのはなぜなのか。

もしこれが男性が20,30代で陰茎を失う病気を予防するワクチンだったら、恐らく8年間も放っておかれなかったんじゃないかと思います。(稲葉医師)

 2020年10月、緊急避妊薬(アフターピル)を処方箋なしで購入できるよう検討すると発表された。緊急避妊薬は性交渉後72時間以内に服用することで、妊娠の可能性を高確率で下げることができる。望まない性交渉を強いられた女性たちが、妊娠という二重苦を負わないためにはそれこそ緊急に服用できる体制が必要だ。敷居の高い婦人科に行かなければ処方されないのでは、お金もかかる上に精神的負担も大きい。

 しかしこの問題にも田村厚労大臣は「これまでの議論を踏まえて検討していく」と述べるにとどまり具体的な見通しを示さなかった。2021年中に市販薬とする方針と報道されたが、実施される見込みは限りなく低い。

 女性の生き方や健康に関する問題は、男性社会の中でいつでも後回しだ。男性対象の勃起不全薬バイアグラは半年で認可されたが、低用量ピルには34年もかかっている。

 低用量ピルは避妊だけではなく、重い生理痛や体調管理にも欠かせない薬だが、なぜこんなにも議論が進まなかったのか。自分のことは自分で決めるという当たり前の権利が、女性に与えられていないのが今の日本ではないのか。

 繰り返しになるが、HPVワクチンは3回接種する必要があり、基本的には6カ月、短縮スケジュールでも4カ月かかる。高校1年生の女子は今年の11月に接種を始めるのが、無料接種への最終リミットであり、この機会を逃すと自費で1回につき計約1万5千円の接種費用がかかる。ぜひ周囲に対象者がいたら伝えて欲しい。

 接種に不安がある人は、「みんパピ!」サイトに分かりやすく情報発信されている。

みんパピ!
https://minpapi.jp/

この記事の監修

稲葉可奈子
医師・医学博士・産婦人科専門医
みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト 代表 / コロワくんサポーターズ / メディカルフェムテックコンソーシアム 副代表 / 予防医療普及協会 顧問 / NewsPicksプロピッカー
京都大学医学部卒業、東京大学大学院にて医学博士号を取得、大学病院や市中病院での研修を経て、現在は関東中央病院産婦人科勤務、四児の母。
子宮頸がんの予防や性教育など生きていく上で必要な知識や正確な医学情報の効果的な発信に努めている。

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