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証拠がなくてもヤクザが「死刑」になる理由――元極妻が考える、工藤會トップの「推認で死刑」判決の波紋

今は亡き某指定組織の三次団体幹部の妻だった、待田芳子姐さんが語る極妻の暮らし、ヤクザの実態――。

ヤクザにも使用者責任?

 前回も少し書かせていただきましたが、北九州を拠点にしている五代目工藤會のトップである野村悟総裁に対する死刑判決は、ほかの組織もざわつく事態となっています。 

 今までは、事件が起こるとまず実行犯が逮捕され、供述などからその親分が逮捕される「こともある」的な流れがほとんどでした。そもそもトップが枝(傘下組織)の若い衆の顔と名前など覚えているわけもなく、明確に指示しているかどうかを立証するのは難しいので、そういう流れだったのだと思います。

 一方で、トップに民事的な責任を問うケースは、前からあります。いわゆる「使用者責任」ですね。ヤクザ組織は会社じゃないのに、カタギさんの会社の 「使用者」の概念を持ってきたところで、手段を選ばない感じが伝わってきます。

 2004年には最高裁が山口組のトップである五代目山口組・渡邉芳則組長の使用者責任を認定、「国内最大の暴力団トップに傘下団体組員の使用者責任を認めた初の判断」と報道されました。これが心労になって五代目は引退されたのではないかとまでいわれています。

 この裁判では、抗争相手と間違われて射殺された京都府警巡査部長の遺族が渡邉組長と実行犯に損害賠償を請求、一審大阪地裁はトップの責任は認定しませんでしたが、二審大阪高裁と最高裁は認定しました。

 今回の工藤會の野村総裁の裁判は、民事ではなく刑事裁判での認定です。若い衆に犯行を指示したとして、総裁に死刑、田上文雄会長に無期懲役の判決を言い渡しました。指示したことを示す直接証拠はなく、総裁や会長の組織内の存在感から「事件への関与を強く推認できる」という判断ですから、そりゃ、ほかの組織もざわつきますよね。

 この「推認で死刑判決」は、識者の間でも判断が分かれるようですが、問題視すれば「暴力団をかばっている」と言われてしまうので、なかなか指摘しづらいのだと思います。

 こうした緊張感の下で出された山口組の9月1日付の通達が、ネットでも話題になっています。通達は、「六代目山口組総本部」名で、傘下組織の構成員に口頭で「公共の場で銃器を使わないように」指示しているそうです。

 朝日新聞は、8月24日の工藤會判決を受けて「最高幹部の刑事責任を認める判決を福岡地裁が言い渡したことを受けた対応とみられる」としています。若い衆が事件を起こした時に、「組織としては銃器の使用を禁じていたのに、若い衆が勝手にやった」と言うためのアリバイ作りということでしょう。

 ちなみにオレオレ詐欺(特殊詐欺)については、山口組に限らず各組織が禁止する通達を以前から出しています。

 この「公の場での銃器使用禁止」について、ネットには「公の場じゃなくても、銃を持ってちゃダメだろう」「単なるアリバイ作り」などと批判の声が上がっていますね。その通りなのですが、それだけ「推認で死刑」は、ヤクザ組織にとって深刻な問題なのだと思います。

 ていうか、そもそもなぜ銃を持っているのかというと、まあいろんなルートがあるわけです。四方を海に囲まれた日本では洋上取引が多いですが、在日米軍から不正に入手されたものも多いです。たとえば19年11月の神戸山口組幹部の射殺事件では、米軍の銃が使用された可能性が指摘されています。

 ぶっちゃけ米兵もお小遣い欲しさに売りさばいているようですが、在庫管理はどうなってるんですかね? 九州・沖縄で流通している手りゅう弾は、ほぼ沖縄の米軍から流れたものと聞いています。とはいえ最近は、ほとんど摘発されていないようですね。あとは部品で持ち込んで組み立てるとかもあります。

 知り合いの刑事さんによると、隠し方は「巧妙としか言いようがない」そうですが、そういう職人さん的な「密輸のプロ」も減っている気がしますね。

 さて、「推認で死刑判決」と「武器使用禁止通達」は、今後の犯罪捜査にどのくらい影響するでしょうか? 私は、それほど影響はないと思います。工藤會の捜査は一罰百戒的に行われただけで、全指定組織に行うつもりはないんじゃないでしょうか。それこそアリバイ作り的に「日本の捜査当局は、ヤクザの取り締まりをちゃんとやっている」アピールだった気がします。