今や日常生活において、かかせないツールとなっているコミュニケーションアプリ「LINE」。かつては子どもの送迎時に、ママたちが立ち話をしているような光景が見かけられたが、時間に追われ忙しく過ごす共働き世帯が増えた今、ママたちのコミュニケーションの場は、LINEのグループチャットになっているという。そんな、ママたちの「グループチャット」から浮き彫りになった、彼女たちの悩みや、苦悩、気になる話題を覗いてみる。
新型コロナウイルスの感染拡大が収まらない中、Twitter上では「#いきなり赤ちゃんに触らないで」というハッシュタグが話題を呼んでいる。きっかけとなったのは、あるママが、街中で見知らぬ人にいきなり赤ちゃんを触られた時の不安な思いをこのハッシュタグをつけて投稿したこと。すると、世の母親たちから共感を呼び、現在Twitterにはさまざまな経験やエピソードが投下されているようだ。
確かに、感染を防ぐために“密”を避け、人との接触を減らすよう政府から呼びかけられている。そんな状況下において、自分の子どもが赤の他人に触れられるのは、気分が良いものではないだろう。今回は、外出先で突然子どもに触られ、対処法に悩んだというママのエピソードを紹介する。
病院の待合室で、「かわいいわね」と言いながら赤ちゃんに寄ってくる患者にヒヤヒヤ
都内に住む千紘さん(40歳・仮名)は、3歳になる娘と11カ月になる息子を育てている。コロナ禍といえど、通院や幼稚園の見学など、子どもを連れて外出する機会も多い。
「娘は、肌疾患があるので2~3カ月に一度、都心の総合病院に通っています。まだ幼い息子を家に置いていくわけにはいかないので、一緒に連れて行くのですが、病院の待合室で年配の人に声をかけられるんです」
大きな病院の場合は待合室も広く、診察までの待ち時間も長いため、声をかけられることもたびたびあるとか。
「だいたい、『今、何カ月? 』とか、『男の子? 女の子? 』というたわいもない内容なんですが、中には話しながら子どもの足を触ってきたり、裸足なのを見て『靴下を履かせてあげないとかわいそう』と言ってきたりする人もいて困っています……」
また、病院ならではの“悩み”もあるという。
「声をかけてくるのが、付き添いで来ている人ならまだいいのですが、診察を受けに来た患者さんの場合、今はコロナの心配もあるし、正直『もしかしたらウイルスをうつされてしまうかも』と不安でたまりません。嫌ならその場から離れればいいのですが、待合室自体、ソーシャルディスタンスの確保ために席数が減らされていることもあり、移動すると座れなくなってしまう。娘もいるし息子のベビーカーもあるし、その場所を動くのも一苦労なんです」
千紘さんは、1人目を出産した時に産院で知り合った仲良しのママ友へ、「通院で、知らない人に子どもを触られたんだ」という悩みをLINEで打ち明けたそう。「うちも『予防接種などで病院に行った時に、子どもに触られて困った』って返信が来て、みんな悩んでいるんだと思った」と語る。
さらに、飲食店ではこんな出来事もあったという。
「娘は今年、七五三だったのですが、お祝いの食事をしようと入った店で、着物を着た娘にわざわざ近寄ってきて、『あらー可愛いわねえ』と、着物を触ってくる年配女性もいました。赤ちゃんや、子どもに触ってくる人って、『あら、かわいい!』と言いながら近づいてくるし、別に悪意があるわけじゃないんですよね。それは理解しているんですが、やっぱり、モヤっとしてしまいます」
なお、不意に子どもに触れてくるのは、「子育てがひと段落した年代の人に多い」と千紘さんは分析する。
「私が子どもの頃は、同じ団地の中に住んでいる友達の家に約束もせずに遊びに行ったり、人との距離が今よりも近かった気がします。昔に比べ、近所づきあいが希薄となり、高齢者との関わりが薄くなっている今、互いに声をかけあうことは大切だと思うのですが、コロナのことを考えると、敏感にならざるを得ません。息子はまだ赤ちゃんなのでマスクで感染対策はできないし、ほっぺなどをペタペタと急に触られて泣きだしたりすることもあり、どう対処すればいいのか悩みますね」
身動きが取れないバスの中は、話しかけられやすい
また、千紘さんによると、急に触ってこられるケースは、移動がしづらい場所で起きやすいという。
「駅によっては、構内にエレベーターの数が少ないため、幼い子どもを連れて出かける際、最近は少し遠回りになっても電車ではなくバスを使っているんですが、車内は電車より狭いし、バス停で待っている時も列になるので話しかけられやすいんです」
加えて、ベビーカーマークが付いているバスは、基本的にはベビーカーをたたまずに乗車できるため、子どもと向き合うように座っている乗客によく覗かれるそうだ。
「必死に話しかけるなオーラを出しながら、ママ友にLINEで『また赤ちゃんに触られそうになった』と、愚痴をこぼしたこともありますね。この前は、車内がどんどん混みだして、ある年配女性が『こんなに混んでいるのに、席を代わらずに座っている人がいるなんて!』と、立っていた私に席を譲るよう、大きな声を出したんです。まず頼んでもいないし、ベビーカーがあるから立っていたかったので、ちょっと迷惑でした(苦笑)」
一方で、千紘さんは、「ある状況では、周囲から声をかけてもらえなくなった」とも語る。
「幼い子どもを連れての外出は荷物も多くなるため、親は身動きがとりづらい。街中で周囲に力を借してもらいたいとき、例えば、ベビーカーを階段などから降ろす際に『手伝いましょうか?』と言ってもらえることが減った気がします。
この前、子ども2人と出かけたとき、地下街で10段ほどの階段があったんです。エレベーターやエスカレーターはなかったので、仕方なく、先に娘と一緒に階段を上った後、下まで戻り、今度はベビーカーごと抱えて階段を上ることに。『大変そうだな……』とこちらを見ている人の視線は感じたのですが、コロナの感染予防意識から、『ベビーカーに触れることは、かえって迷惑なのでは?』と思い、声をかけにくかったのかもしれないと思いました」
このように、“誰かに手伝ってもらえたら楽になる”という状況で周囲からの協力を得られにくくなったケースは多いようで、「あるママ友は、子どもを乗せたまま自転車を倒してしまったけれど、自分だけでは起こせなかったため、大声を出して助けを呼んだと話していた」そう。
「ちなみに、『#いきなり赤ちゃんに触らないで』というハッシュタグは、ほかのママ友も目にしていたようで、みんな同じような経験があるのか、LINEのグループチャットでは、『「触らないで」って言いづらいよね』と共感し合っていましたよ。あるママからは、他人から触れられないよう、虫除けカバーをベビーカーに取り付けたといういい情報を教えてもらったので、マネしようかなと思いました。抱っこひもを使って抱っこしていれば、ベビーカーに乗せているときよりは触られていることに気づきやすいんですが、紐から出ている赤ちゃんの足を触ってくる人は意外と多いんです。親ができるだけ注意を向けるしかないですね。でも、LINEでママ友と悩みを共有したことで、『自分だけではない』と気づけて良かったです」
まだまだ感染予防に気が抜けない状況だけに、“赤ちゃんや子どもには、勝手に触らない”という認識が社会全体に広がるまでは、ママ側の自衛も必要なのかもしれない。