9月16日、ムード歌謡グループ・純烈の所属事務所に脅迫文を送るなどし、メンバーの酒井一圭を脅した疑いで、ファン女性が逮捕されたことがわかった。
複数の報道によれば、女性は刃物で切り刻んだ男性用の下着や、刃渡り15センチの包丁、「あなたを無傷で終わらせません」と書いた手紙を事務所に郵送し、酒井を脅迫。2年半前から純烈のファンクラブ会員だったが、「応援する別のメンバーを(酒井が)バカにしたような発言をしているのが許せなかったので、改心してほしかった」と供述しているという。
ネット上では、酒井を心配する声が多数上がっているほか、「メンバーを脅迫するとか、そんなの本当のファンじゃない!」「私も純烈を応援してるから、同じファンの中にこんな人がいると知って怖い」などと衝撃を受ける人や、「こういう話って、ほかのタレントにもあるよね」「アイドルファンとして他人事とは思えない」といった声も見受けられる。
ファンがタレントに危害を及ぼす事件は、残念ながらたびたび報じられており、特に目立つのはジャニーズタレントへの被害だろう。今年2月には、テレビ東京の地下駐車場で関ジャニ∞の男性マネジャーを待ち伏せしたとして、会社員の女を逮捕。ニュースサイト「文春オンライン」によれば、女は19年8月、Hey!Say!JUMP・中島裕翔につきまとったとして、ストーカー規制法違反の疑いで現行犯逮捕されていたという。
さらに遡れば、09年6月には、当時JUMPメンバーだった森本龍太郎の携帯電話を盗んだとして、17歳の少年が窃盗容疑で逮捕された事件も。なお、この少年も森本にしつこくつきまとっていたなどと報じられていた。
ジャニーズファンの間で、こうした行為に及ぶファンは「ヤラカシ」と呼ばれており、近年さらに問題視されている。というのも、タレント自身が公式ブログなどで被害を告白するようになり、精神的な負担を訴えているのだ。しかし、それでも状況は変わっていないとされる。
サイゾーウーマンでは過去に、タレントに危害を加えるファンの複雑な心理について、臨床心理士の杉山崇氏に話を聞いていた。「ヤラカシ」はタレントと自身をどのような関係性だと考えているのか、“治す”方法はあるのかといった疑問について知るため、改めて同記事を掲載する。
(編集部)
(初出:2018年11月13日)
11月8日、関ジャニ∞の大倉忠義が、公式携帯サイト・Johnny’s web内の連載「関ジャニ戦隊∞レンジャー」で、「ルールを守らない方達について」というテーマのブログを更新した。そこに書かれていたのは、過激ファンの存在についてだ。駅や空港で執拗に追いかけてくる、カバンの中にモノを入れる、突然手をつなぐ……そんな大倉が実際に受けた迷惑行為を告白し、「すごく憂鬱」「怖い」「ストレス」などと本音を吐露したのだ。
こうした過激ファンは、かねてより「ヤラカシ」と、ジャニーズファンの間で呼ばれている。いわゆる“マナーの悪い追っかけファン”で、大倉が受けたような行為以外にも、アイドルの自宅や学校に押し寄せる、最寄り駅で待ち伏せる、アイドルの乗った移動車を追走するといった、ストーカー同様の迷惑行為を繰り返す者を指す。当然、ジャニーズ事務所はヤラカシの存在に頭を悩ませており、Johnny’s webのトップページには「大切なお願い」として、「マナーに反する過激な行為を行う」に対する警告文も掲載しているのだ。
こうしたヤラカシ問題に、多くのジャニーズファンは激怒。応援するアイドルが危険に晒されている事態は捨て置けないと、「ストーカー規制法で逮捕してほしい」「事務所と警察は早く対策を取って」などとネット上で声を上げているが、一方で「ヤラカシは、なぜ大好きなアイドルに嫌われるようなことをするの?」「大好きなアイドルに嫌がられることをして楽しい?」といった疑問も飛び交っている。
ヤラカシの複雑な心理とは一体どのようなものなのか? 今回、神奈川大学心理相談センター所長、人間科学部教授である臨床心理士の杉山崇氏に話を聞いた。
杉山氏はまず、ヤラカシにとって「『アイドルと自分』は、『アイドルとファン』の関係性ではなくなっている」と、その心理状況を指摘する。
「アイドルをあまりにも身近に感じすぎるあまり、家族や恋人のような存在になっているのでしょう。母親が家族のことを心配して世話を焼く感覚で、自分もアイドルのことを気にかけているといった感じです。このように、ヤラカシの頭の中では、アイドルはかなり身近な人物なのですが、そんな人に、自分の存在を無視されるのは、とてもつらいこと。愛情の反対は、“無視”ですから、たとえアイドルから向けられる感情が憎しみであっても、無視されるよりはいい……となるわけです」
確かに、家族や恋人から、理由もなく無視され続ければ、「どうして?」という悲しみがわき、自分に何でもいいから反応を返してほしいと思うだろう。そして、返してくれたら「よかった」「うれしい」と感じることを、「理解できる」という人は少なくないのではないだろうか。
また、杉山氏は、ヤラカシに境界性パーソナリティの傾向も見られるという。
「境界性パーソナリティの人は、人間関係のストレスを抱え込む力が弱い。そのため、大好きな相手が自分の気持ちに応えてくれずストレスが溜まると、途端に相手のことを大嫌いになり、嫌がらせをしたり、悪口を言うなど、攻撃するようになる。そうすることで、自分の存在を維持させようとするのです」
アイドルに接触を図ろうとするヤラカシとは違うものの、ネット上で、少し前まで応援していたはずのアイドルに、罵詈雑言を浴びせかけているというファンを見たことはないだろうか。そういった人もまた、境界性パーソナリティの傾向が見られると言えるかもしれない。
「境界性パーソナリティの“種”のようなものは、誰しもが持っています。割りと、子どもってそういうところありませんか? 好きという気持ちが強すぎて、構ってくれないと相手が困ることをしたくなる……という。こういう心理状態は、心理学用語で“退行”と呼んでいます」
ブログに警告文をつづった大倉の心境について、杉山氏は、「かなり追い詰められていると思います」と見解を述べる。
「ヤラカシは、何をどこまでやらかすか予想ができないため、大倉さんは戦々恐々としているのでしょう。人間は、不安のスイッチが一度入ると、『こんなことも、あんなこともされるのでは?』と連想し、さらに不安が増すもの。大倉さんがブログに書いた内容は、とても理解ができます」
大倉は、迷惑行為を「無視することが最大の抵抗だと思っていました」としつつも、「でも、言わずにはいられない」と、今回のブログを書いた背景を説明している。
「無視は、ヤラカシに最大の苦痛を与えるという意味では確かに“最大の抵抗”です。先ほども述べた通り、無視は愛情の反対ですから。しかし、何かしらのリアクションを求めるヤラカシは、無視されればされるほど、諦めるのではなく、ますます行動をエスカレートさせてしまう。なので、アイドルは、ヤラカシに“上手にリアクションすること”が大事。もちろん相手に、『ヤラカシをするといいことがある』と思わせてはいけないので、時々『やめてください』『ほかの人にも迷惑です』と伝える程度がいいのではないでしょうか。事務所に間に入ってもらっても、ヤラカシにとってそれは『アイドルに無視された』のと同じですし、それで迷惑行為がやむことはないと思います」
そこで気になるのは、ヤラカシは“治るのか”という点である。例えば、ストーカー規制法違反で逮捕されたとしても、懲りずにまた同様の行為を繰り返す可能性も否定できない。
「改善はできます。ポイントは『現実感覚を取り戻せるか』です。例えばヤラカシ自身が逮捕される、逆にアイドルが恋人と結婚するなど、第三者が介入し、ヤラカシに現実を突きつけることで、改善することはあると思います。また、現実に耐え切れず、余計ファンタジーに逃げ込んでしまうヤラカシには、カウンセリングを通しての改善が期待できるのではないでしょうか。もしくは、ヤラカシが自ら気づくケース。『私は、こういうことをやるくらい、あなたのことが好きなのよ!』など、『ヤラカシ行為=正しい』と思いこんでいた人が、ふと冷静になったとき『私、一体何をやってるんだろう?』と気づき、足を洗うこともあると思います」
大倉はブログで、「ルールを守らない方達」のことを、一度も「ファン」とは書かなかった。もしヤラカシたちが、大倉と自分のことを「アイドルとファン以上の関係」と信じ込んでいるのだとしたら、一刻も早く「ファンですらない」ことに気づいてほしいものだ。