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スクールバスの意外なメリット・デメリット 学力向上の可能性といじめ対策の問題

ByAdmin

9月 17, 2021

 スクールバスには子供たちの学力を向上させる効果があるかもしれない、と聞くと驚く方がほとんどではないでしょうか? 実は今、日本とアメリカの双方でスクールバスが大きな話題となっています。

 今年の6月に千葉県八街市で飲酒運転のトラックが下校中の小学生たちに突っ込み、5人が死傷した事故がありました。これをきっかけに子供達の登下校時の安全を確保する手段としてスクールバスに注目が集まりました。この結果、8月に与党内で全国の公立小学校にスクールバスの導入を目指す議員連盟が立ち上がりました。

 アメリカでは、スクールバスの運転手不足がかなり深刻な事態に陥っていることが話題となっています。新型コロナによる景気の落ち込みからの回復期にあるアメリカでは、人手不足が深刻な状態になっており、どこもかしこも人件費が高騰しています。このため、これまでの給与水準では運転手を見つけられなくなってしまったのが原因の一つです。

 もう一つの原因は、どれだけ運転手を雇ってスクールバスを運行すれば良いのか状況がはっきりしないことです。途上国では新型コロナによる学校閉鎖で、今年度の入学者数が分からず、教科書などどれだけ配布すれば良いのかも分からなくなっている国があると聞きます。アメリカも同様で、生徒が引っ越したのかどうか、新しく入ってくる生徒がいるのか否か、どこに住んでいるのか把握が進まず、スクールバスの運行経路を決めることが出来ないために必要な運転手の数を算出できないという状況になっているのです。

 このように、奇遇にも海を挟んだ日米双方で話題となっているスクールバスですが、その導入・運航に関して、意外なメリットと、リスクに言及されているのをどちらのメディアでもほとんど見かけません。そこで今回は、子供達の登下校を本当にスクールバスに託して良いものか参考にしてもらえるように、このメリットとリスクの話をしたいと思います。

スクールバスの意外なメリット
 冒頭にも書いた通り、スクールバスには子供達の学力を向上させる効果が見込まれます。私が通う大学院の先輩でもあるDanielle Sanderson Edwardsさんの研究では、ミシガン州にあるスクールバス運行に関する決まりの特徴を活用して、スクールバスが子供達に与える影響を分析しています(ワーキングペーパー段階のもので、学術誌の査読を通ったものではない点に注意が必要ですが、私が読む限り大きな瑕疵があるようには思えませんでした)。

 結果を簡潔に言うと、スクールバスの運行は子供の欠席率を、特に社会経済的に不利な背景を持つ子供達の間で下げる効果を持つというものでした。欠席率と学力の間に関係があることをいくつかの研究が明らかにしているので、恐らくこのスクールバスが子供の欠席率を引き下げたことは学力改善にも結び付いているのだろうとしています。

 似たような話は途上国でもされています。世界銀行が、途上国で子供達の学力を向上させる費用対効果の高い教育支援について、教育経済学や開発経済学の大家の人達を招いてまとめたレポートを昨年出版しました。

 その中で、費用対効果が恐らく高いであろう教育支援の一つに、通学時間を減らす支援が挙げられていました。さすがに、国際機関の支援対象となる地域や層でスクールバスを運用するという方法は聞いたことがありませんが、貧しい農村部で自転車を配布して通学時間を短縮させると、子供達の学力が向上したという研究が出ていますし、そういったプロジェクトがあることも聞いたことがあります。この話でも、通学時間と出席に話題が及んでいるので、やはりスクールバスの予期せぬ効果が起きる経路としては通学時間→出席率→学力ということになりそうです。

 私の出身地は、濃尾平野の中でも奇跡的にどこの街にも近くない絶妙な立地の田舎です。小中高と通学時間がかなり長い方でした。暑い日に重いランドセルを背負って30分近くも歩いたのはなかなかの苦行でしたし、大雨の日に色々な用具を持って自転車を漕ぐのはダルイの一言に尽きる感じだったので、言われてみるとなるほどなと思いました。

スクールバスのリスク
 日本同様にアメリカでも子供のいじめと自殺は大きな問題となっています。近年再び学校ごとの人種の偏りが大きくなり学校内に異なる人種がいるケースが減少しているためか、人種が原因となるいじめは大きな問題とはなっていません。しかし、性的マイノリティの子供達を筆頭に、障害を持った子供達や親が軍人である子供がいじめのターゲットとなってしまっています。もちろん、豊かな学区のしっかりした学校であればそれなりの対処が取られますが、そうでない学校ではまともな対処も為されず、教育政策上の課題となっています。

 スクールバスという空間は、いじめのリスクが高い場所となります。ハーバードの修士の学生がこの点についてインタビューで分かりやすく解説してくれているので、少し紹介してみます。

 なぜスクールバス内でいじめが起きやすいのかというと、大人の目の届かない上に逃げ場のない密室である、という空間的な特徴が挙げられます。さらに、校長先生や学校の先生と、スクールバスの運転手の連携が取れていないことも拍車をかけています。また、スクールバスの運転手は教員のようには子供に関するトレーニングを受けていないので、いじめが起きているのかどうかを確認することも、そしてそれにどう対処するのかも知識が不足しています……ということです。

 日本では地域のバス会社を活用してスクールバスを運行しようという話も出ているようですが、そのような選択肢を取った時に、①運転手以外にもう一人子供達を見守る大人を搭乗させる人件費をどうするのか、②民間のバス会社の運転手も学校教育を構成する重要な人員の一人として迎え入れ、他の教員や校長、教育委員会としっかり連携を取れる体制を築けるのか、③民間のバス会社の運転手に子供やいじめに関する研修を実施して、それを実践的な知識として運用してもらえるのか、といった課題を乗り越えなければならないことが示唆されます。

 また、攻撃の対象は子供に限りません。実際に、バスの運転手が子供達から攻撃されてメンタルを病んでしまうケースというのがアメリカでは報告されています。この点についても対処策を考案しておく必要があります。

まとめ
 スクールバスの導入はシンプルな物に見えて、学力向上という思わぬ副次的な効果があったり、スクールバス内で起こりうるいじめにどう対処していくかといった、想像以上に多くの要因を考慮する必要があります。

 教育とは関係ないので本文では扱いませんでしたが、アメリカで車の免許を取る際に驚いたのは、子供が乗り降りをするために停車しているスクールバスを追い越してはいけないというルールです(州によってルールが違うので全米ではないかもしれませんが、私が住んだワシントンDC・バージニア・ニューヨーク・ミシガンはそうでした)。確かにいつ子供が飛び出してくるかなんて分かりません。このルールは妥当なものですし、日本でもスクールバス実施の際には導入されるのがいいと思います。免許更新の際などに周知徹底する必要が出てくるでしょう。

 このようにスクールバス導入はいろいろと考慮しなければならない点があるので、様々な角度から包括的に政策的な議論が行われることを期待しつつ、今回の話が、我が子がスクールバスで通学するようになれば保護者としてどうするのか考える参考になれば幸いです。

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