羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。
<今週の芸能人>
「時代に合ってないんだ」ベッキー
『あちこちオードリー』(9月8日、テレビ東京)
結婚してお子さんに恵まれ、テレビにも復帰。今年8月には23年間所属した事務所・サンミュージックから独立し、元マネジャーが設立した会社に移籍するなど、ここ最近、環境の変化が続くタレント・ベッキー。ようやく世間サマも忘れたころに、古い話を蒸し返して申し訳ないが、いまだに「どうしてベッキーは不倫なんてしてしまったのだろう?」と思うことがある。
2016年にゲスの極み乙女。・川谷絵音との不倫が明るみになったベッキーだが、その前まで、彼女はいろいろなバラエティ番組で「誤解を招くといけない」という理由から、デビュー前より男性と一緒に写真に写らないようにしていると話していた。それは逆にいうと「売れたい」「芸能人で居続けたい」気持ちの表れだと思うが、そこまでリスクを排除していたベッキーが、正月に妻のいる男の実家に堂々と出向き、「週刊文春」(文藝春秋)にその様子を撮られてしまった。
ベッキーは06年に出演した『オーラの泉』(テレビ朝日系)で、毎朝欠かさずファンやスタッフへ「感謝の祈りを捧げている」と明かしていたが、不倫なんてしたら、スタッフに迷惑がかかることは想像に難くない。なお、「文春」によると、ベッキーは川谷と知り合ったとき、彼が既婚者だとは知らなかったそうだ。
「好きになったらどうしようもないのが恋」と言われてしまえばそれまでだが、明るくさわやかなイメージで売っていたベッキーにとって、この不倫報道は致命的で、CMはすべて降板、芸能活動を休止するまでに追い込まれる。その後、翌17年12月31日放送の『ダウンタウンのガキの使いやあらへんでSP 絶対に笑ってはいけないアメリカンポリス24時』(日本テレビ系)に出演し、「ベッキー、禊のタイキック」として、女性ボクサーから腰にキックされていた。
おそらく、番組側は「不倫を笑いに変えよう」と思ったのだろうが、なんのお咎めもなしに活動を続けているという不公平感が川谷に対してあったので、ネット上では「なぜ女性だけが“罰”を受けなくてはならないのか」「弱い者いじめで笑いを取るな」などと番組へ批判が続出。結果的に、ベッキーの不倫はますます“笑えない話”になってしまった。
それから1年以上が経過した19年2月23日配信のニュースサイト「デイリー新潮」の記事によると、同12日に放送された『行列のできる法律相談所』(日本テレビ系)にベッキーが出演した際、視聴率こそよかったものの、視聴者から「なぜ出演させるのか」といった抗議の電話が鳴りやまなかったという。「報告を受けた日テレ上層部は『まだしばらくは、ベッキーを出演させないほうがいい』と判断したようですよ」という関係者のコメントも載せていた。やはり、この不倫の代償は大きいと言わざるを得ない。
そんなベッキーが、バラエティクィーンとして活躍していた20代を、今月8日放送の『あちこちオードリー』(テレビ東京)で振り返っていた。ベッキーは当時、「疲れた」とか「忙しい」という言葉は自分の中で禁句にしていたそうだが、実際は疲労困憊だったようで、ストレスのため「20代、ほぼ毎日泣いていた」と告白。移動中の車内で泣いたり、楽屋で1人にしてもらって泣いたりと、こっそり涙を流していたというが、「29歳の時に人前でも泣くようになっちゃって」「舞台挨拶のとき、舞台に上がった瞬間に泣きそうになっちゃった」などと、メンタルの状態は悪化したそう。本人も「ヤバい」自覚はあったようで、週に一度休みをもらい始めてから、状況が改善したと話していた。
川谷と交際していた頃、ベッキーは31歳。同番組で彼女は「30歳手前でオンナは揺れるの」「プライベートの時間を増やしたくなったり、人によっては恋したくなったり」とも語っていた。「売れたい」という望みはかなえたものの、20代の頃から人知れずストレスを抱え込んでいたベッキーにとって、川谷との恋愛は現実逃避かつ、精神のバランスを取るためのものだったのかもしれない。
一方でベッキーはここ数年、不倫を差し引いても、バラエティタレントとして生き残ることの難しさを感じていたようだ。『あちこちオードリー』では、「去年、バラエティもうやめようかなって、なんか思っちゃった」と明かし、その理由として「時代が変わってきている」ことを挙げた。これまでと“言っていいこと・悪いこと”の基準が違っている、ノリも変わってきているように感じており、「思っていた感じと違う空気になったり」「良い感じでバトルになるかなってところも、ならなかったり」「ツッコんだつもりだったけど、ただのうるさいおばさんに映っていた」ことから、自分は「時代に合ってないんだ」と思ってしまったという。
そんな中、同時期にバラエティで活躍していたタレント・若槻千夏から「ベッキーさんには前のところに戻ってほしいし、戻らなくちゃいけない」と言われたことで、やる気を取り戻したとか。ベッキーのように売れている芸能人は、活動期間が長くなるからこそ、時代の変化のようなものに敏感になるのだと思うが、私は、不倫を経た今の彼女のほうが「時代に合っている」のではないかと思う。
同番組司会のオードリー・若林正恭に「子育て大変でしょ?」と聞かれたベッキーは「芸能界はいいよ、香盤表があるんだもん」と答えた。仕事は予定通りに進むが、育児はそうはいかないという意味だろうが、昔のベッキーなら「大変だけど、生まれてきてくれたことに感謝」くらい言ったのではないだろうか。
キャラなのか素なのか、かつてのベッキーは少し“いい子ぶりっ子”するクセがあり、そこが好感度につながっていたのだろうと推測するが、不倫がバレた以上、いい子キャラは封印せざるを得ない。しかし、これは長い目で見ると、いいことのような気がする。若い時ならともかく、オトナの女性がいつまでもいい子キャラでいることは、限界があるように思うからだ。
不倫を経ていい子キャラをやめたベッキーは、番組内で「インスタで『今日は子どもとこんな格好してお散歩』って人は“ヘッ”ってなる」「そんなキラキラしてられねーよ」と毒を吐き、スタジオでは笑いが起きていた。「子育てにまつわる毒舌」というのは視聴者ウケするし、ちょうどいい毒といえるのではないだろうか。
なぜかというと、子育てが大変なのは親のせいでも子どものせいでもなく、誰も悪くない「そういうもの」だからだ。ベッキーのように腕のある人なら、育児ネタ以外でも、今の時代に合った「人を傷つけない」かつ「共感を得られるトーク」を展開できるだろう。
不倫騒動が起きたとき、業界内外からベッキーの芸能人生命を危ぶむ声が上がった。しかし、結果としてかつてほどの活動ではないものの、復帰できている。日本のスピリチュアル界のドン・江原啓之センセイは『オーラの泉』で「すべては必然」とよく言っていたが、ベッキーにとっては不倫もそのうちの一つで、良いキャラ変更のきっかけだったのかもしれない。睡眠を十分とって心身を休めながら、まだまだがんばっていただきたいものだ。