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“ショッピング”も社会運動のひとつ 生活の中から行動し社会を動かすアメリカの若者に学ぶ『Weの市民革命』

ByAdmin

Sep 24, 2021

 「若者たちは政治や社会のことにあまり関心がない」今の日本では、世間一般的にそう思われている。実際、日本の国政選挙における年代別投票率を見てみると、一番最近の平成29年10月の衆議院総選挙では、全年代の平均が53.68%であるのに対して、20代は33.85%、30代は44.75%と、たしかに圧倒的に低い。(総務省「国政選挙における年代別投票率について」)

 その一方、#MeToo運動などをきっかけとして、ここ数年は日本でもオンラインを中心にフェミニズム運動が活発になった。その影響もあって、ジェンダーやセクシュアリティ・人種など、社会の中の様々な差別や不平等の問題について積極的に学び、考え、行動するようになった若者が確実に増えていることを、当事者の一人として実感してもいる。

 そうした「数字的データ」と「自身の実感」との間にあるギャップには、複雑な思いを抱かざるをえない。それは、社会の中の問題について真剣に考え、改善のために声を上げる若者が増えているという実感があっても、結局はまだ少数派であるという事実を突きつけられているからという理由もたしかにある。

 だがそれ以上に、投票しない若者たちはただ単に興味関心がないというよりも、「自分が投票したところで、一体何が変わるの?」と、投票という自分の「声」や「行動」が社会に与えうる影響が取るに足らないものであるという、諦めや無力感のようなものを抱いているようにも感じられるからだ。

 投票率の数字が示すように、あるいは上の世代の人々が言うように、日本の若者たちは本当に政治や社会のことに関心がなく、そして彼ら/彼女らの声は、この社会では小さくて取るに足らないものなのだろうか。

 そんな憂いやもどかしさを抱えている人に、力強く明るい兆しを示してくれる本がある。それが、『Weの市民革命』(著:佐久間裕美子 朝日出版社)だ。

『Weの市民革命』(著:佐久間裕美子 朝日出版社)
 日本にとって身近な国の一つであり、政治・経済・文化と様々な面で大きな影響を受けることの多いアメリカでは、近年ドナルド・J・トランプ氏の大統領就任やパンデミックという危機的な状況を経験した結果、主に20-30代の若者たちを中心とした「消費を通じたアクティビズム」が急速に開花し、社会を変えていく大きな影響力を持つようになったという。

 アメリカでは、1981-1996年生まれのミレニアル世代と、それに次ぐ1997-2000年以降生まれの「ジェネレーションZ(Z世代)」が全世代の中で圧倒的な購買力と高い人口比率を占めている(2世代合わせて4割の人口比率)。

 この2世代の若者たちは、社会問題や人権、環境問題への意識や関心が他の世代と比べて非常に高く、所得格差やあらゆる差別を是正することは「自分たちの共同責任」であると考え、経済的・環境的な状況への危機感も人一倍強い。消費に関しても、ブランドネームよりも商品の品質やサービスの価値、社会責任政策などによって、自分がお金を使うブランドや企業を決める傾向がある。

 だから、トランプが大統領になったことで明らかになった、社会の中に根強くはびこるレイシズムやアンチ多様性の価値観の存在と、これまで前進してきたはずの社会の状況が急速に後退していく様、依然として経済を優先するために見過ごされる労働・環境問題を目の当たりにしたことで、彼らは未だかつてない規模で連帯し、購買力やSNSでの発信力という武器を使って、企業にサステナビリティ対策や社会的責任などを求める運動を推し進めることによって実際に社会や政治を変えてきたことが、数多くの具体例を交えながら紹介されている。

 たとえば、大統領選終了直後からトランプ政権と金銭的な関連のある企業を対象にした不買運動が起こったり、トランプの人気向上に貢献した極右ニュースサイト「ブライトバード」の広告を多くの企業に取り下げさせるといった動きが起こる。さらには、社内の給与格差や倉庫スタッフの待遇の低さ、労働組合運動を妨害してきたアマゾンの第二本部建設に対して大規模な反対運動が展開されたり、長年ヘイト対策を取らないという態度を貫いてきたフェイスブックのCEOマーク・ザッカーバーグに対して、従業員からのオンラインでのストライキや告発、ミレニアル世代の広告エージェントが出稿中止キャンペーンを展開したりするなど、その行動や成果は驚くほど広範囲にわたっていることがわかる。

 日本でもよく知られた名だたる大企業やその経営陣に対して、若者たちを中心としたSNS上での圧力運動や不買運動などによって、労働者の待遇改善や、利益のためならあらゆる差別や搾取を黙認してきた企業の行動や価値観を変えさせたという事実を次々に見せられると、違う国での出来事とはいえ、思わず拍手したくなるような高揚感を覚えた。

 「政治」や「社会運動」というと、とりわけ日本ではハードルが高く感じられ、自分に直接関係がある実感があまりない人も多いかもしれない。けれども、「若者たち」が主導となって「SNSでの発信」や「自分の消費行動」が直接社会をよい方向へ動かす大きな原動力になりうるという事実や、必ずしも自分が当事者ではない問題に対して、「みんな」が責任を持って共に改善を目指すことが当たり前となりつつある価値観の存在にはかなり勇気付けられるし、ぐっと身近に感じられる人も多いのではないだろうか。

 しかしそれでもまだ、「具体的に何をしたらいいのかわからない」「どうにも自分ごととして考えられない」と感じる人に、著者はさらなる導きの手を差し伸べてくれる。

 政治や社会についてだけでなく、カルチャーやファッション業界の事情にも詳しく、世界中の様々な場所や人を訪れてインタビューや執筆を行ってきた著者だからこそ、この本の後半の「自分ごとのサステナビリティ」というパートでは、近年言葉ばかりが一人歩きしがちな「サステナビリティ」や「エシカル」といった価値観が、具体的にどんなものであり、自分の生活や「物を買う」行為と、人権・環境問題などがどのように繋がっているのか、というようなことが、著者自身の生活の中での実体験をふんだんに交えながら、一つ一つ噛み砕いて丁寧に説明されている。

 私自身も、ここ数年でフェミニズムを学び始めたことをきっかけに、あらゆる差別や人権の問題について真剣に学び考えるようになった一方で、日々の生活における自分の「消費」という行動が、それらの問題に与えうる影響については十分に考えられていなかった。ましてや環境問題については、恥ずかしながらこれまであまり関心度が高くなく、自分ごととしてピンときていない部分も多かった。

 しかし、著者の手ほどきにより、これから自分が買おうとしている物が、どこでどのようにして作られ、どんな素材が使われ、どのように値段がつけられ、どこで売られ、どのようにして手元に届き、最終的にどのように廃棄されるのかといった視点や、その一つ一つのプロセスが孕む問題や人・環境への負荷の実態を知ることで、少しずつ解像度が上がる。誰かを搾取することや環境にダメージを与えることに少しでも加担しないようにするために、生活や消費行動を通して自分で始められることは何なのか、自分にできる小さくも責任ある選択が何なのかが、具体的にわかってくる。

 日本は、人権問題や環境問題への意識が他の先進国と比べてとりわけ遅れていると言わざるをえない現状だが、この本を読んでいると、「知らない」が故に、気づくことも考えることもできていない問題がこの国にはあまりにも多いと、改めて痛感させられる。

 人権・環境問題への意識の低さはもちろん、冒頭で触れた「若者の投票率が低い」という状況も、投票によって自分たちの住む地域や国の政策を決める代表者を選ぶという行動が、ダイレクトに自分の生活や将来に繋がっているという事実やその重要性について知る機会をほとんど与えられずに育つことが、大きな原因の一つなのかもしれない。

 これまではたしかに、政治や社会に関心を持って行動する若者の数は少なかったのかもしれない。けれども新型コロナウイルスの感染拡大によって、日々の生活や仕事、命が脅かされる状況が1年以上続いている中で、逼迫する医療体制や国民の生活状況への十分な対策や補償よりも、国や権力者の利益や経済を優先してオリンピックを強行したことや、様々なレベルで杜撰な政府や自治体の運営体制が次々と明らかになり、憤りや絶望を感じている人も多い。

 でもだからこそ、危機的な状況や、十分な対策も補償もしてくれない政府や行政に対しての怒りや不信感を起点に、あるいはSNS上で頻繁に目撃するようになったハッシュタグ運動やオンライン署名活動などをきっかけに、政治や社会問題に関心を持つ若者は、確実に増えているはずだ。実際、アメリカでは、トランプ政権の誕生やパンデミックといった危機的な状況が社会の変革を加速度的に推し進める力になったというのだから、希望が持てる。

 もちろんアメリカと日本では、社会・文化的なバックグラウンドも大きく異なれば、ミレニアルとZ世代が占める人口比率も違うため(日本では2世代合わせて3割ほどとボリュームが小さい)、日本でも今すぐにアメリカとまったく同じような状況が実現することを期待するのは、難しいのかもしれない。

 それでも、まずは知ることからしか問題意識は生まれないし、現状が改善されていくことは始まらない。

 そして、すでに人権や環境の問題を真剣に考え行動を始めていて、けれどもその動きがまだ社会の中では小さな規模であることにもどかしさを感じている人も、あるいは、政治や社会の問題が自分の生活や人生とダイレクトに繋がっていることや、自分の声や行動が社会に対する影響力になりうるという可能性を信じられずにいる人にとっても、「自分にもできることがある」「たとえ個人の声は小さかったとしても、“私たち”の声には社会を動かす力がある」と希望や勇気を与えてくれる、そんな前向きで心強いパワーを持っているのが、この『Weの市民革命』という本なのだ。

 これまで、フェミニズムをはじめとした様々な差別・人権問題について個人的に学び発信したり、時に「本当に意味があるのか」と不安を覚え、自問自答しながらもSNS上でのハッシュタグ運動や抗議活動に参加したりしてきた私自身も、この本の内容に多くのことを教わり、勇気づけられた。こうして背中を押してもらったからには、今まで以上に「私」の、そして「私たち」の力を信じて、少しでもこの社会が良くなっていくように、責任ある行動や選択を一つ一つ積み重ねて、前に進んでいきたい。

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