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男性の育休取得率200%の田辺三菱製薬に聞いたダイバーシティ推進の歩み

ByAdmin

Sep 25, 2021

 厚生労働省が7月30日に発表した「雇用均等基本調査」によると、2020年度の男性の育休取得率は12.65%。10年前(1.38%)と比較して10倍も上昇したことを鑑みると改善傾向にあるが、それでも1割程度しか男性が育休取得できていない現状は問題である。

 とは言え、職場の雰囲気や膨大な業務量のため、男性の育休取得を促進することに苦慮している企業は少なくない。

 企業側の意識改革はもちろんだが、男性の育休取得率を上げる第一歩としてまず必要なのは「ロールモデルを知ること」ではないだろうか。

 田辺三菱製薬株式会社は、2020年度の男性の育休取得率が88%と9割近い(参照リンク)。また、3歳まで取得可能であり、出産該当年度に取得するとは限らないことから、2018年度(200%)、2019年度(108%)と100%を超える年さえある。なぜ田辺三菱製薬株式会社は男性育休を普及させることができたのか。

 京野潔氏(人事部 ダイバーシティ推進グループマネジャー)と、岩本美能里氏(人事部 ダイバーシティ推進グループ)に、男性の育休取得率上昇のために行った施策や、現在も抱える葛藤などについて話を聞いた。

女性活躍には男性育休が必須
――男性の育休取得に力を入れるようになった経緯をお聞かせください。

 当初は「男性育休の取得率を上げよう!」と掲げていたわけではなく、ダイバーシティ推進の観点から、女性活躍推進がスタートしました。その施策のひとつとして、男性育休の取得にも注目するようになりました。

――働き方を見直すキッカケは何だったのですか?

 2013年ごろに安倍政権下で「2020年までに女性の管理職を3割にしましょう」と掲げられたことに加え、同時期に労働組合からも「多様な働き方を推進して」という要望が寄せられ、その第一歩として女性活躍推進に取り組んだことがキッカケです。

 当時、女性活躍推進を始めるにあたり、女性管理職の割合をまとめたグラフを人事担当役員に持っていきました。弊社は優秀な女性社員が多く、経営層は男女関係なく力を発揮していると考えていたみたいです。しかし、女性管理職の割合が想像以上に低く、そのことに役員はショックを受けたようで「本気で女性管理職の割合を高めよう」と、経営課題として真剣に取り組むようになりました。

 その後、女性活躍の実現について考えた際、女性ばかりに家事育児を担わせるのではなく、男性もきちんと家庭に参画することの重要性に気付き、男性育休の取得にも注目するようになりました。

女性管理職の低さは優しさが原因?
――なぜ女性管理職が少なかったのでしょうか?

 弊社は、もともと女性管理職が少なかったので、目標とすべきロールモデルも少なく、女性社員が具体的なイメージを持てなかったという点が挙げられると思います。

 また、部署によっては定時に業務が終了せず、育児をしている女性社員は時間の融通が利かないため、退職してしまったり、管理職をあきらめたりするケースもあったと思います。

 長時間労働だけでなく、“アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)”もそうした状況を促進しました。

 職場では「育児をしている人に負担の重い仕事を任せるのは良くないのでは?」と考える上司が、女性が管理職になるために必要なステップを踏めない働き方をさせているケースもありました。そのことが女性従業員に「自分は会社から期待されていないんだ……」という意識を根付かせ、キャリアアップに対するモチベーションを削ぐことにつながっていたと思います。

――長時間労働は当時から問題視されていたのですか?

 2010年ごろから長時間労働削減に取り組んでいたのですが、当時は「人事が言っているから仕方なく……」といった後ろ向きな部署もあり、本格的な改善には至りませんでした。風向きが変わったのは2016年。大企業の新入社員が過労自殺した事件を機に、当時の社長が経営層に「働き方改革を進めなさい」とメッセージを出し、トップダウンによる強力な取り組みが始まりました。

――人事部としては具体的にどのような働きかけを行ったのですか?

 経営会議で毎月、超過労働時間や有給休暇の取得率を部門別に報告し、長時間労働が常態化しているところには、従業員一人ひとりの状況を個別にヒアリングし、改善に向かうようサポートしました。

 また、フレックスタイム制は早くから導入していました。当初はコアタイムを10時~15時に設定していましたが、現在はコアタイムを廃止しています。各従業員が自身の生活に適した働き方を実現できるように整備しました。テレワークに関しても2016年度から導入しており、今では新入社員を含めテレワークを活用して働くのが普通です。

――テレワークやフレックスタイム制など、柔軟な働き方を導入する際に生じた苦労はありますか?

 テレワークを導入する前は、上司から見えないところで働くことで、不測のトラブルが起こるのではないかと不安を感じていた管理職もいました。そこで、全社で半年間のトライアルを行い、その後アンケートでテレワークを実施した本人、同僚、上司の意見を、トラブルも含め吸い上げました。

 その結果、意外にもテレワークに対する好意的な意見がとても多く、心配していたようなトラブルもほとんどなかったため、テレワークが可能な業務で上司の許可がある人は、だれでもテレワークができる制度としました。

――男性育休に関する制度についてお聞かせください。

 男性育休の取得率を上げるため、2016年10月に育児休業の最初の5日間を有給化しました。ただ、それで何かが変わったということはなく、2017年10月に“イクパパ休暇”という名前に変更。同時に出産に係わる入院日から出産後2週間以内に5日間の有給休暇を取得できる“プレパパ休暇”も導入しました。

 イクパパ休暇とプレパパ休暇をセットにした男性育休制度をPRするポスターを社内に貼ったり、育休対象者とその上司にメールで取得を促したりといった地道な取り組みを続ける中で、徐々に取得率が上がりました。

 男性育休の取得率は上がっていますが、イクパパ休暇は5日しか有給として適用されないため、5日後にはすぐに働き始める人が多いのが現状です。来年春以降の改正育児・介護休業法施行に合わせ、もっと男性に育児参加してもらうための環境作りを課題に据えています。

――課題が見えつつも男性育休の取得率は右肩上がりですが、当初はどのような苦労がありましたか?

 2015年に男性育休を取得した人は3人しかおらず、その3人は全員20日以上取得していたのですが、本当に限られた人だけが利用するものでした。やはり会社全体が男性育休に慣れておらず、非常に取得しにくい雰囲気があったと思います。ですが、何とか理解してもらえるように現場にアプローチを続け、5日の有給期間だけでも育休を取得する男性が増えたことで、男性も育休を取得することが当たり前の風土に変わりました。最近は、1カ月以上育休を取得する男性も増えています。

ダイバーシティマネジメントができる上司の育成
――男性の育休取得は上司に柔軟な判断力が求められますが、どのように理解を促したのですか?

 育児をしている人に限らず、介護をしている人、外国人など、様々な背景、事情を抱える人たちが自分らしく働いてもらえるよう、管理職を対象にしたダイバーシティ教育に力を入れています。毎年、ワークライフバランスやLGBT、アンコンシャスバイアスといったテーマを取り上げて研修をしたり、“イクボス検定”という、ダイバーシティマネジメントや、当社の両立支援に関する制度を再確認するe-ラーニングを実施するなど、人事から「こういうマネジメントをしてほしい」というメッセージを伝える機会を積極的に設けています。

  また、“イクボスアワード”といって、社内公募で「うちの上司ってイクボスだよね」「子育て世帯の気持ちを理解してマネジメントしてくれている」と思える上司を推薦して、大賞を決める社内行事も行いました。社内報で、受賞者の取り組みや推薦者の声を紹介し、ダイバーシティマネジメントができる上司が評価される風土づくりも進めています。

――子育て世帯だけでなく、親の介護を理由に柔軟に働きたい人も恩恵がありそうですね。

 はい。弊社では40歳以上の従業員の比率が増加したこともあり、親御さんの介護に直面する人は珍しくありません。介護を行っている従業員がテレワークを主体とする働き方で、介護と仕事を効率よく両立しているケースも多いです。

 上司に対しては育児だけでなく、介護その他いろいろな事情を抱えて働く従業員をフォローするように求めており、仕事の成果も当然重視しますが、各従業員の事情を把握したうえでマネジメントするようにメッセージを送っています。

自分時間を充実させる働き方
――今後の課題はありますか?

 男性育休の取得率自体は伸びていますが、まだまだ取得日数は伸び悩んでいるのが現状です。これまでの取り組みで、長時間労働はある程度削減できましたが、業務負荷により長期休暇を取得できないことが、取得日数が伸びない一因と考えています。今後は業務負荷をいかに削減するか、例えばRPAを活用したオペレーションワークの削減などに取り組んでいきます。

――田辺三菱製薬株式会社として、今後どのような働き方を目指すのでしょうか?

 少々壮大ではありますが、「ビジネスパーソンとしてだけでなく、一人の人間として豊かな人生を送ろう」ということをコンセプトに掲げ、会社を上げて取り組む予定です。

 これまでと同様に働き方改革を進めますが、今後はもう一つ先のステージとして“自分時間の獲得”を促し、スキルアップに励んでより一層やりがいを持って働いてもらったり、仕事でもプライベートでもネットワーク作りを通して、視野を広げたりなど、個々人の生活が仕事もプライベートも充実した彩りあるものになるようにデザインしていきたいです。

(取材、構成:望月悠木)