• Wed. Oct 20th, 2021

野球カード欲しさに万引きを繰り返した児童……やるせない犯行動機とは?

 こんにちは、保安員の澄江です。

 先日、今年8月に福岡市西区のコンビニエンスストアで菓子を万引きしたとして、福岡県臨時職員の女(46歳)が逮捕されました。被害品は、フィナンシェ1点、計160円。棚卸をしていた店主が、在庫数の不一致に気付いて防犯カメラの映像を確認したところ、女による犯行の様子が記録されており所轄警察署に相談。その結果、被疑者の特定に至り、後日に逮捕された事件です。

 逮捕された被疑者は、公務員であるためか実名報道となり、県のホームページに謝罪文が掲載される事態にまでなりました。デジタルタトゥー化した犯歴は消えることなく、再起の障害となることは明らかで、いわゆる公務員による万引きが割に合わない結果をもたらすことを示しています。多くの方は、たったそれだけのことで逮捕されるのかと思われるでしょうが、軽微な万引き事案での立件は余罪があることが多く、素直に同情することはできません。コンビニエンスストアをはじめ小規模店舗では、来店するたびに小さな商品を1点だけ持ち去る万引き常習者は珍しくなく、蓄積される被害に頭を悩ませる商店主が多いのです。

 今回は、以前に小さなスーパーで捕らえた少年常習者について、お話したいと思います。

 当日の現場は、東京の下町にある住宅街の一角に位置するスーパーT。コンビニを2回りほど大きくしたくらいの売場を有する地域密着型のオーナー店舗で、定期的にスポット契約を頂いているクライアントです。開店直前、青果の品出しに勤しむ顔馴染みの社長さんに挨拶をすると、慣れた口調で歓迎されました。どことなく往年の坂上二郎さんに似た柔和な雰囲気を持つお方です。

「おう、ご苦労さんです。今日は、何時まで?」
「開店からですので、18時までお邪魔致します。最近は、いかがでございますか?」
「小さい店だからさ。一度にたくさん持っていく人は見ないけど、様子がおかしいのは、ちょこちょこ来てるよ。ま、注意してみて」

 変な話に聞こえるかもしれませんが、一度に盗まれる品数が少ないほど、摘発の難易度は高まります。たったひとつの商品を盗む犯行の一部始終を明確に現認することは至難で、それを実現するには、いち早く不審者の来店を察知し、その行動を見守るほかないのです。その一方、入口の自動ドアが開くと同時に犯行に至る確信が得られることも珍しくありません。そうした人の多くは、その外見や行動、雰囲気などから犯意が滲み出ており、自然と目を奪われるものなのです。開店まもなくから出入口を見渡せる位置に陣取り、自分の気配を極力殺しながら入店チェックを始めた私は、ちらほらと入ってくるお客さんひとりひとりの様子を確認していきます。

(あれ!? あの子、なんだろう……)

 午後3時を過ぎた頃、小学3~4年生くらいにみえる少年が、ひとりで店に入ってきました。野球帽を深めに被っていることもあってか、顎を上げて周囲を見回すような視線が不自然で怪しく、発見すると同時に目が離せない気持ちになったのです。

 そのまま行動を見守れば、お菓子売場に直行した少年は、ポテトチップスのコーナーで足を止めました。その場にしゃがんで、商品棚の最下部に陳列された「プロ野球チップス2021」を手に取ると、大人顔負けの悪い目で周囲を見回しています。まもなく商品に貼られているおまけのカードを剥がして、それをズボンのお尻ポケットに隠した少年は、この上ない早足で売場を離れていきました。必死に追いかけるも、足が追いつかずに見失ってしまい、どこを探しても少年の姿は見当たりません。

(おまけひとつの話だし、子どものやったことだから、あきらめて戻ろう)

 おまけのカードを取られて損壊された商品を回収して店長に報告するべく、敗北感にも似た重い気分を抱えて売場に戻ると、さきほど見失ったばかりの少年が同じ場所にしゃがみこんでいました。またやると確信して、先程より見通しの良い位置から行動を注視すれば、おまけのカードを次々に剥がしています。最終的に、陳列されたほとんどの商品からカードを剥がした少年は、それを手に持って売場を離れていきました。

(ここまでされたら、きちんとしないと)

 このような商品は、おまけのカードがついてなければ売れません。もはや“子どものいたずら”では済まされない事態に、失敗を取り返すべく慎重に追尾すると、店内の死角にある棚の隙間にしゃがみこんで、身を隠しながらカードを開封する瞬間が確認できました。目当てと思しきカードを尻のポケットに隠し、不要なカードと袋は棚の下に隠して店の外に出た少年が、出口脇に停められたギア付きの子ども用自転車に手をかけたところで、そっと声をかけます。

「こんにちは、お店の者です。僕、野球好きなのかな? カード取られちゃうと、みんな売れ残っちゃうから、困っちゃうのよ。ちょっとお話聞かせてもらってもいい?」
「あ、はい。ごめんなさい……」

 泣きそうになりながらも素直に認めてくれたので、店内に放置された被害品や袋を回収しながら、なるべく目立たぬよう親子の体で店内を歩き、奥にある事務所まで連行します。今回の被害は、計11点、合計で1,100円ほどですが、少年の所持金は皆無で商品を買い取ることはできません。近くの小学校に通う小学3年生だと話しているものの、身分証明書を持っているわけもなく、自宅の正確な住所や電話番号さえ言えない状況にありました。

「野球選手のカード、集めているの?」
「うん」
「でも、盗ったらダメだよね。今日は、どうしちゃったのかな?」
「大事にしていたレアカード、パパが売っちゃったから……」

 くわしい事情はわかりませんが、大事にしていたカードを親に処分されてしまったそうで、それを取り返すべく犯行に及んでしまったようです。スマホで調べてみると、確かに売買がなされており、少年のいう選手のレアカードには1,000円以上の値段がついていました。

「キミさ、いままでにも、同じことしていたでしょ? おとといも、あそこの棚の下から、カードの袋が5枚も出てきているんだよね」
「ごめんなさい。もうしませんから、許してください。うあーん」

 体を丸めて、泣きながら許しを乞う少年の扱いに困った店長が、顔をしかめて言います。

「警察を呼ぶまでもない話だし、学校に連絡して引き取ってもらうかな」
「最近は、引き取りを拒否する学校が多いので、警察に引き渡したほうが早いと思いますけど」
「いや、近所の子だし、警察はかわいそうだよ。仕方ないから、一緒に家まで行って、お母さんに話してきてくれる? 買い取ってもらえたら、それでいいから」

 住宅街に位置する個人オーナーの店は、大型店よりも地域に密着しているため、被疑者に対する扱いが優しくなりがちです。損壊されたプロ野球チップスと被害品を集計したレシートを手に、少年とふたりで家に向かうと大きな団地の一室に案内されました。玄関口までお邪魔して、応対に出てこられた母親に本人から事情を説明してもらったうえで、速やかにレシートを差し出して商品代金を徴収します。

「ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした。よく言って聞かせますので……」
「余計なことかもしれませんが、大事にしていたカードを、お父さんに売られてしまったことを理由にしていました。念のため、お伝えしておきますね」
「あの子、そんなことまで話したんですか? こんなご時世だから、仕方ないのに。ほんと、恥ずかしい」

 否定されなかったところから察するに、少年の話は事実のようで、とてもかわいそうに思えてきました。商品代金を受け取り、玄関の扉が閉まった途端に、扉の向こうから大きな怒号が聞こえてきます。

「この、バカ! なにやってんのよ。パパに全部報告するからね!」

 果たしてパパは、どのような言葉で少年を叱るのでしょうか。理由はどうあれ自分が大事にしているモノを親に売られた子どもの心境を思えば、どんな言葉も響くことはないだろうと感じた次第です。

(文=澄江、監修=伊東ゆう)