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現世に残された側を描いた漫画『私の息子が異世界転生したっぽい』に込められた思い︎

ByAdmin

9月 27, 2021

 wezzyで「世界一役に立たない育児書」を連載中の漫画家・かねもとさんの新刊コミック『私の息子が異世界転生したっぽい』(KADOKAWA)が発売されました。この作品は、高校生の息子を事故で亡くした母があまりの悲しみに事実を受けとめられず「息子は異世界へ転生したに違いない」と、異世界転生ものに詳しい同級生に会いにいくところから始まる物語です。作品に込められた、作者・かねもとさんの思いを詳しくお聞きしました!

かねもと
東北在住。在宅ワーカー経歴=長男と同じ歳。ゲームをしながら時々マンガを書いている。著書に、ドラマ化もされた『伝説のお母さん』、新刊『伝説のお母さん つづきから』(ともにKADOKAWA)がある。

twitter:@kanemotonomukuu

ーー『私の息子が異世界転生したっぽい』を描いたきっかけを教えてください。

 最近、漫画やラノベにおいて、いわゆる「異世界転生」をテーマにした作品が増えています。異世界転生というのは、主人公が事故や事件などのなんらかの理由で死ぬところから始まり、違う世界に生まれ変わってからの姿を描くというもの。転生後がメインですから、最初は必ず主人公の「死」で始まるわけです。同じ異世界転生というジャンルでも、冒険ものや恋愛もの、様々な作品があります。そうした作品を読んでいくうちに「元の世界にいるはずの主人公の親はどうしているんだろう」と思ったのがきっかけです。

ーーなるほど。異世界転生をテーマとした作品は多いですが、多くは異界転生した側の物語で、『私の息子が異世界転生したっぽい』のように残された側の物語は見かけません。

 私が中高生だった頃から、主人公が異世界へ転生または転移するという漫画はいろいろありました。例えば、CLAMP『魔法騎士レイアース』(講談社)、渡瀬悠宇『ふしぎ遊戯』(小学館)、篠原千絵『天は赤い河のほとり』(小学館)など。どれも素晴らしい作品ですが、私は特に『天は赤い河のほとり』が大好きでした。最初こそ元の世界に戻って親に会いたいと願っていた主人公が、様々な葛藤を抱えながらも異世界で使命を感じ、恋をして、その新しい世界で生きていくことを決めるシーンを読んで感動しました。

 ところが、自分が親になってから読むと「子どもが突然いなくなって異世界で生きていくと決めてしまって、そんなことを知るすべもない親はどうしているだろう」って思ったわけです。自分が子どもだったときは主人公の異世界での活躍を応援するばかりで、親のことなんてちっとも考えなかったのに、今では描かれていない親のことが気になるんです。

ーー確かに親の視点に立てば、自分の子どもが急に異世界転生していなくなったら困りますね。一大事です。

 自分が子どもだった頃は主人公の視点で読んでいたのに、今では主人公の親の目線で読むようになりました。たとえば、異世界転生ものではない漫画でも、幼児がひとりでお使いにいく場面があると、作り話だとわかっているのに「お使いなんてまだ早い! 危ない!」って心配してしまったり(笑)。ある意味、エンタメをエンタメとして楽しめなくなった部分があってマイナスかもしれないんですが、一方で新しく親の視点を持てたという面もあります。だから『私の息子が異世界転生したっぽい』を描けたというのもあるし。

ーーよく「親になってから、子どもの事故などのニュースを見るのがより耐え難くなった」と聞きます。私もそうなりました。

 私もです。漫画などの創作においてだけじゃなくて、現実でも同じ。子どもが亡くなったというニュースを見るのが一層つらくなりました。大切なお子さんを失った親御さんの気持ちをリアルに想像してしまうからです。私も子どもを亡くしたらと思うだけで怖い。もちろん、いろいろな親がいますが、多くの親にとって、子どもを失うことはもっとも耐えがたいことだろうと思います。

ーー『私の息子が異世界転生したっぽい』の美央は、異世界転生のラノベを好んでいた息子・大我が車に轢かれて亡くなり、きっと異世界に転生したんだと言います。

 美央は大切な子どもを失った事実を認めたくなくて今もどこかにいると思いたかったし、大我が残したラノベのなかに車に轢かれてから異世界転生する物語がいくつもあったことから、そう思ったわけです。たまたま異世界転生に救いを求めたのであって、きっと毎日ただ祈ること、新しい宗教に入ること、ボランティアを始めること、ふさぎこむこと……きっと人によって救いを求める先は違うんだろうと思うんです。

ーー美央は、17年ぶりに再開した異世界転生に詳しい同級生の堂原にも救いを求めます。この堂原が、人としてかわいくてやさしいですよね。

 そうなんです。以前はおたくはモテないっていう偏見がありました。おたくの喋り方や格好を真似て嘲笑の対象にしたりとか。おたくにもおたくでない人にも、いい人も悪い人もいて、堂原は「おたくだけどいい人」じゃなくて、堂原がいい人なんです。私はこういう人が好きです。堂原は、息子の死を受け入られず苦しむ美央に、ただ寄り添って話を聞き、一緒に再会する方法を調べたりします。普通みんなこういうときに「異世界転生なんてあり得ないよ」「お母さんがしっかりしないと」「亡くなった息子さんが悲しむよ」「病院にいったほうがいい」などとアドバイスしてしまいがちですよね。でも、美央に……かけがえのない相手を失った人に必要なのはアドバイスではなくて、受け止めてもらうことだと考えたんです。たとえ、それで悲しみが完全になくなるわけではなくても。

ーー堂原とともに前向きに異世界転生した息子を探そうとする美央ですが、急に悲しみにのまれて動けなくなるときがあります。その描写がリアルに感じられました。

 心底つらく苦しいことがあったとき、必ずしも常に激しくドラマチックに嘆き悲しむケースは少ないと思うんです。大切な誰かを亡くしても世界は変わらず、日常は続いていく。心は死んだようになっていても、体は生きていこうとする。顔を洗ったり、食事をしたり、歩いたり、考えごとをしたり、そうこうするうちに「なぜこんなにつらいのに生きているんだ!」という気持ちが度々湧き上がってくるんじゃないかなと。だから生活と地続きの悲しみを描くように心がけました。

かねもと『私の息子が異世界転生したっぽい』(KADOKAWA)より

かねもと『私の息子が異世界転生したっぽい』(KADOKAWA)より
ーー私自身にも子どもがいることもあり、特に美央が「異世界にいるんだって思わないと、自分が生きている意味がない」といった発言をする場面、「子どもの名前をたくさん書いてきた」と言う場面では感情移入して胸が苦しくなりました。

 乳幼児期から巣立つまで、親は自分の名前以上に、子どもの名前をたくさんたくさん書くんですよね。最初は母子手帳に、それから服に靴下に、学用品に、あらゆる持ち物に。子どもの名前をたくさん書いてきたという場面については、特に読者の方からも共感の声が届きました。

 子どもがすべてではないとはいえ、仕事や趣味や他の楽しいこともあるとはいえ、親は毎日驚くほどたくさんの時間を子どもを見て世話して暮らしています。他人からは見えなくても、多くの親子にはたくさんの時間の積み重ねがある。だから子どもが突然いなくなったら、親は「生きていく意味がない」とまで思ってしまうのだろうと思います。

ーーたとえ事故で子どもを失っても、親は自分自身を責めるだろうと思うんです。

 そうですね。あのとき家から送り出さなければ、少しでも時間がずれていれば、あの高校に入学していなければ……、きっとキリがありません。実際、事故や犯人がいる事件のニュースでも、インターネット上などで親を責める声があがることもありますよね。もしかしたら、一瞬のミスがあったかもしれない。でも、それぞれの親子の事情や背景は外野にはわからないものです。子どもを亡くした親御さんの深い悲しみと後悔を思うと、私は発すべき言葉が見つかりません。

ーー美央には、静かに見守ってくれる堂原がいてよかったと思いました。かねもとさんは、コミックスのあとがきで「私は人と人との関係や結びつきは、その程度のほうが愛おしさを覚えます」と書かれていましたが……

 堂原にとっては、何より異界転生の話を聞いてくれる美央と一緒に過ごす時間が楽しく、かけがえのないものだったのかもしれません。美央にとっても、異界転生の話をしてくれて、静かに受け入れてくれて、息子を探すためのヒントを一緒に探してくれる堂原との時間が必要だったと思います。家族でも夫婦でも親友でも恋人でもない、こういった期待しすぎないけど、やさしくし合える関係っていいなと思うんです。だから、この話を描けてよかったと思います。

ーーこの作品は、いちばん最初にTwitterで発表され、そのときに2,8万以上のリツイート・7.9万以上のお気に入りがつき、自主制作版(販売終了)の発売を経て、このコミックの発売、週刊ビッグコミックスピリッツでの連載にもつながりましたよね。

 そうなんです。私自身も驚きの展開でした。週刊ビッグコミックスピリッツでは、原作・かねもと、作画・シバタヒカリ先生による連載『私の息子が異世界転生したっぽい フルver.』が始まっています。

ーー最後に、今回のコミックスの特色を教えてください!

 コミックスは、自主制作版と違って、プロの編集さんと相談しながら、コマを増やして補足したりすることでテンポを調整しています。またフォントやデザインも修正しているので、より完成度があがって読みやすくなったと思います。連載『私の息子が異世界転生したっぽい フルver.』のプロトタイプとして読んでもらっても面白いかもしれません。

 あとコミックス(紙の本)は、読み終えたら、ぜひカバーを取って表紙を見てほしいんです。じつは表1から表4までにわたって、あるイラストを入れています。番外編まで全部読み終わってから見ていただくと、きっとそのイラストの意味をわかっていただけると思います!

『私の息子が異世界転生したっぽい』(KADOKAWA)
 死んだ息子は実は異世界に転生して生きていると主張する母親と、 彼女の元同級生(オタク)が繰り広げる、悲しみに向き合う物語。
誰かが死んだ時、残された人々はどうやって前を向き、 立ち上がるのか。

 また『週刊ビッグコミックスピリッツ』(小学館)では「私の息子が異世界転生したっぽい フルver. 」も連載中!

 原作:かねもとさん、作画:シバタヒカリ(@sunny_615)さん。ぜひご覧ください!

※注意:このコミックのテーマには死や自死が含まれています。

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