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感情を踏みつけてしまう人に伝えたい 「自分を大切にする」おくすりコミックエッセイ『私をとり戻すまでのふしぎな3日間』

ByAdmin

Sep 28, 2021

「自己肯定感」「ご自愛」「丁寧な暮らし」——昨今、「自分を大切にすること」は注目を集める概念の一つである。

 だが、忙しい日々を送るなかでつい自分をないがしろにしてしまったり、感情を抑え込まなくてはいけない場面にも遭遇する。自分を大切にすることは簡単なようであって、難しい。

 漫画家の川瀬はるさんが描いたコミックエッセイ『私をとり戻すまでのふしぎな3日間』(はちみつコミックエッセイ)は、主人公のチャコが子どもの頃の自分と出会い、自分の感情と向き合うなかで自分らしさを取り戻していく物語だ。

 「人と衝突しないために感情を出さない」「自分に対して『大袈裟だよ』と言い、心を踏みつぶす」……チャコに共感する部分はどこかしらあるはず。そして、優しいイラストと温かい世界観に癒され、あなたが「自分を取り戻す」きっかけになるかもしれない。

 作者の川瀬はるさんに作品を描いた背景や、作品に込めた思いについて伺った。

川瀬はる
イラストや文章を書いています。 小さい子どもと夫と3人暮らし。 ジェーン・スーさんのラジオとパンが好き。 日常の中の小さないいものを探しています。 コミックエッセイ描き方講座1期生。

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フィクションのコミックエッセイ

『私をとり戻すまでのふしぎな3日間』9ページより

『私をとり戻すまでのふしぎな3日間』10ページより
——『私をとり戻すまでのふしぎな3日間』を描こうと思った背景をお伺いします。

 2020年9月~11月に、今回の出版元である「はちみつコミックエッセイ」編集長の松田紀子さんが主催する「コミックエッセイ描き方講座」を受講したことがきっかけです。

 そこで松田さんからコミックエッセイを描く心得として①自分の感情を見つめること②自問自答すること③描き終えた後、自分自身が癒されるかというお言葉をいただきました。

 以前、ある個人的な体験を文字に起こしたことがあるのですが、上手くいかずずっと心の中にしまっていました。ですが、松田さんのその言葉を聞き、描いてみようという気持ちになったんです。

——エッセイというと、筆者の経験談をもとにしたお話のことだと思っていたのですが、貴著はフィクションなのでしょうか。

 そうですね。講座で松田さんから「実は作者の実感をベースにしたフィクションも、コミックエッセイとして成立するんですよ」と教えていただき、本作はフィクションで描くことが私にとって自然でした。

——主人公のチャコは川瀬さんなのでしょうか?

 別人のつもりで描いています。実体験を基にしてチャコのストーリーを描きました。チャコの彼氏や会社の同僚のスズモリさん、幼馴染のいくちゃんもモデルがいるわけではなく、本作を描くにあたって生まれたキャラクターです。

大人になるにつれ“鎧”を身につけてしまう

『私をとり戻すまでのふしぎな3日間』64ページより

『私をとり戻すまでのふしぎな3日間』65ページより
——第5章で子どものチャコが登場し、「のどかわいたー」から始まり、大人のチャコとは対照的に感情をオープンにする描写が続きます。この描写にはどういった思いが込められているのでしょうか。

 大人のチャコは自分の感情を抑えて暮らしていますが、子どもの頃のチャコは感情をオープンにしていました。チャコが元々持っていた「のびのびとした側面」を出せればと思って描いています。

 自分にとって大切なことを、子どもの頃の自分は知っていたのではないかという感覚があって……。大人になるにつれ、さまざまな常識や振る舞いを鎧のように身につけているんですよね。鎧を全部外したところに無垢な自分がいるはず。そんな思いも込めています。

——6章では自分の傷つきに対し「おおげさなんじゃない」と言い、自分の感情を踏み潰す描写があります。川瀬さん自身もかつて自分で自分を踏みつけていたのでしょうか。

 そうですね。人との摩擦を恐れたり、「傷つきたくない」という気持ちから、自分の感情を出さない方が円滑に物事が進み、誰かに嫌われずに済むと考えていた時期がありました。ですが、色々なきっかけがあってその考えは徐々に変化していきました。

——読者からの反響はいかがでしょうか。

 複数の方から好評をいただいたシーンは8章です。チャコが着替えるとき、「これどう?」と子どものチャコに聞くと、子どものチャコは「しろい!」「赤!」と見たままのことだけを答えるところがあるのですが、そのシーンに関して「『かわいい』などとジャッジしないところが好き」との感想をいただきました。私も意識して描いたところなので気づいてもらえて嬉しいです。

——どのような思いでこのシーンを描かれたのでしょうか。

 容姿に関して第三者がジャッジすることを疑問視する風潮に共感しているので、「チャコがどう思うか、チャコが着たいと思うかが一番大事」という思いを込めました。

——他にも読者さんに見てほしいポイントはありますか。

 4章で、幼なじみのいくちゃんの子どものゆうくんと過ごす場面です。ゆうくんの無垢で自分に正直な姿にチャコの心が動かされます。描くのは難しかった場面ですが、大切にしているシーンです。

 また章と章の間のおまけページもお気に入りです。担当編集の片野さんに助けていただきながら、チャコの持ち物やデスクなどかなり具体的に描いたので、楽しんでいただければと思います。

「自分を大切にする」とは

『私をとり戻すまでのふしぎな3日間』102ページより
——川瀬さんにとって「自分を大切にする」とはどのようなことでしょうか。また、近年「自己肯定感」「ご自愛」など自分を大切にすることは推進されているものの、なかなか難しくもあります。「自分を大切にする」を続けるコツはありますか。

 まず、「自分を大切にする」とは、「自分がどうしたいのか耳を澄ませていること」だと思います。作中にも描きましたが周囲がどう思うか・何を言うかではなく、自分がどうしたいのかを軸にすることです。

 「自分を大切にする」ことは私も実践中です。自分をないがしろにしている時間が長ければ長いほど、自分を踏みつける癖ができてしまっていて、自分を取り戻すのに時間がかかります。自分を大切にし続けるコツは、正直まだわかりません。一朝一夕で切り替えられるものではなく、前進と後退を繰り返しながら、小さなことを繰り返すしかないと思っています。

——読者さんに伝えたいメッセージはありますか。

 作品を描いている最中は想定読者がいるわけではなく、自分の中にあるものを解放する気持ちで描いていました。今でも「こういう人に読んでほしい」といった思いはあまりないのですが、知らず知らずのうちに自分の感情に蓋をしがちだった人に届いたらいいなという思いはあります。それと同時に「こういう解釈をしてほしい」といった意図はないので、自由に読んで、自由な解釈をしていただけたら嬉しいです。