各グループにラップ担当のメンバーが1~2人いるなど、近年のジャニーズ楽曲において“なくてはならないもの”といえるラップ。そんなジャニーズタレントによるラップパートを、プロが解説するシリーズ「ジャニーズラップ勉強部屋」。
初回となる今回は、ジャニーズに本格的なラップを持ち込んだ“開拓者”とも言われる嵐・櫻井翔をピックアップ! 嵐の楽曲でラップ詞を手がけるだけでなく、無類のヒップホップ好きとしても有名な櫻井のラップには、どんな特徴があるのだろうか。2019年9月11日にリリースされた嵐の57thシングル曲「BRAVE」の中盤のラップパートを、音楽原作キャラクターラッププロジェクト『ヒプノシスマイク』の作詞なども手掛けるラッパーのマチーデフ氏に聞いてもらった。
■音を大切にするテクニックが「とてもラッパーっぽい」
ラップの作詞も手掛けていらっしゃる櫻井さんですが、どの曲のラップを聴いても韻をしっかり踏んでいる印象です。また、踏み方がとてもラッパーっぽい。「BRAVE」の歌詞を見ていきましょう。
嵐「BRAVE」 作詞=Goro.T、櫻井翔(Rap詞) 作曲=Fredrik“Figge”Bostrom
以下、ラップ部分の歌詞
気持ちは前へ進んで行こうぜ baby
倒れた俺のことなら越えて行って
犠牲も捧げて We’re gonna take it
闘いのあとなら全てを 讃えて
後ろへ放る 明日への ball
頂上で合流 夢の道中
Hey! one for all and all for you
まず「(行)こうぜbaby」と「越えて行って」で母音の並び「o,e,e,e(お、え、え、え)」で韻を踏んでいます。ですが、1音1音をしっかり発音すると、「こうぜbaby」は「こうぜベイベー」または「こうぜベイビー」となり、母音の並びが「o,e,e,e」とはなりません。しかし、櫻井さんはこのうちの「う」と「イ」を省略気味に発音することでスリリングなノリを出してラップしてるんです。だから聴感上、「こうぜbaby」は「こぜベベー」となり、音の響きは「o,e,e,e」となるわけです。
さらに、対となる「越えて行って」のほうは、“行っ”の部分を同じように省略気味に発音し、聴感上で「こえてて」と聴こえるようにリズムを刻んでいます。つまり、字面で見ると一見踏めていないように見えるのですが、聞いてみると「こうぜbaby」と「越えて行って」が「o,e,e,e」という母音で揃ってきれいに聞こえるわけです。こういう踏み方は、ラップに詳しい人がやるテクニックな気がします。さすが櫻井さんですね。
後半も「韻の応酬」が止まらない!
続いて「捧げて」「gonna take it」「讃えて」の部分ですが、この3つは母音を「a,a,e,e」で揃えています。「gonna take it」をネイティブ風に「ガナテケ」と発音しているわけですね。よって「捧げて」「讃えて」ともキレイに踏めるし、聞いていて気持ち良い! このように違う言語で踏む韻は、意外性があってハッとするし、“テクいなあ”と思います。櫻井さんは、字面ではなく口に出した時の音の響きを大切に作詞されているんでしょうね。
さらに後半の3小節も韻の応酬は止まりません。「放る」「ball」「合流」「道中」「all」「for you」、母音「o-,u(おーう)」の韻でたたみかけます。たった3小節の中にこれだけ同じ韻を入れてしまうと、ちょっとこってりした印象になってしまいがちなのですが、櫻井さんは「合流」を「ごりゅー」というリズムにしたり「for you」を「フォユー」というリズムにしたり、同じ韻を連打しつつも、その中でリズムに変化を付けて、単調にならないように工夫しています。このあたりも見事だなあと思いました。
※次回は「SixTONES・田中樹」編を10月17日に更新予定!
マチーデフ
5人組ヒップホップグループ「オトノ葉Entertainment」の活動を経て、2014年にソロデビューし、アルバム『メガネデビュー。』『メガネシーズン』をリリース。ラップクリエイターとして『ヒプノシスマイク』の作詞などを手掛けるほかアーティストのラップレッスンや専門学校のラップ講師も務める。ドラマ『ブラック校則』(日本テレビ系)ではKing & Prince・高橋海人らのラップ指導も担当した。
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