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子育てのゴールは「ひとりで楽しく暮らせる力」を習得させること 千葉リョウコ×御手洗直子 対談

ByAdmin

10月 6, 2021

 『うちの子は字が書けない』『「うちの子は字が書けない」と思ったら』(ポプラ社)で発達性読み書き障害の子どもの「学びと自立」について描かれた千葉リョウコさんと、『つっこみが止まらない育児日記』『さらにつっこみが止まらない育児日記』(ベネッセコーポレーション)でふたりの娘さんの成長を描いている御手洗直子さん。

 独自の視点で子どもを見守り、育てているおふたりは、同人活動をきっかけに15年来のお付き合いだといいます。コロナ禍において不安を募らせている保護者も多いであろう子どもの学びと将来について、おふたりに語っていただきました。

千葉リョウコ
漫画家。20歳長男と19歳長女の見守り & 11歳の次男の子育て中。子どもを描いた著書に『うちの子は字が書けない』『「うちの子は字が書けない」と思ったら』(ポプラ社)がある。

御手洗直子
漫画家。8歳と4歳の姉妹子育て中。著書に『マンガ家主婦のツッコミが止まらない掃除と片付け』(マキノ出版)、『つっこみが止まらない育児日記』『さらにつっこみが止まらない育児日記』(ベネッセコーポレーション)など。

――まず最初におふたりの出会いとお子さんの年齢を教えてください。

千葉リョウコ(以下、千葉):子どもは3人。長男フユは20歳、長女のナツは先日誕生日を迎えて19歳、次男のアキが小学6年生です。上の2人が発達性読み書き障害で、文字を「読む」ことはできるけれど「書く」ことが苦手で、それにまつわる本を2冊出しています。

(千葉リョウコ・宇野彰『「うちの子は字が書けないかも」と思ったら』/ポプラ社刊 p.4より)
御手洗直子(以下、御手洗):長女(むすめ)が小学2年生、次女(通称2号)が4歳の年中さんです。婚活や育児、最近は掃除のマンガを描いています。

(C)御手洗直子 左から次女、御手洗、長女
千葉:出会いは、15年くらい前でしょうか? きっかけは同人活動です。同じジャンルで活動していて仲良くなりました。以来、たまに会ってお茶をしたりする関係です。マンガ家って家から出ることがほとんどないので、たまには出かけようということで外でお茶を。

御手洗:千葉さんは名刺を作って営業の方にお渡ししていたり、真面目で気遣いができる方だな~と思ってました。

千葉:御手洗さんは真面目なんだけどすごくおもしろくて、漫画もそうなんですけど、これからホテルのアフタヌーンティーに行くぞってときにざんばら髪で現れたり……

御手洗:そんなことありました!?

千葉:美容院で髪の毛切ってる最中に、このままだと約束の時間に間に合わないって途中で出てきたそうです。そして、アフタヌーンティーを終えてまた美容院に戻っていきましたよ(笑)

御手洗:覚えてないけど、汚い恰好で現れがちなのでたぶん私ですね、きっと……

千葉:あれは衝撃的でした。すごく真面目ですごく面白い。ちょうどその時期に、婚活のマンガを描かれてたんですけど、それも、自主的に〆切を決めてピクシブに掲載していてすごいな~と思いました。私はちゃんとした〆切がないと描けないので。

御手洗:婚活はもう、ほんとにおもしろくて。あらゆる友達にしゃべっていたんですが、とにかくもうみんな食い付くし、みんなこういうグロいネタ大好きだよね?と思って描いてました。

千葉:婚活マンガで火がついて、そして子育てマンガへ……子育てマンガもおもしろいです。2号ちゃんが生まれて、姉妹の違いがまたいいですよね。

御手洗:千葉さんにはむすめの保育園入園のときに入園申し込み書類の書き方などをいろいろ教えてもらいました。あれがあったから第一希望の保育園に入れたんだと思います。

(御手洗直子『つっこみが止まらない育児日記』/ベネッセコーポレーション刊 p.75より)
千葉さんの仕事量がすごすぎて、どう書いたらここまですごい仕事量っぽくできるか悩みました(御手洗)
小学生のあいだは1日1時間、中学生になってからは1日2時間勉強するのが「私にとっての普通」
――御手洗さんは長女が小学2年生とのことですが、自宅学習はされていますか?

御手洗:私は、私の母が教育ママだったこともあり、むすめの勉強も同じように見ています。月~金は1時間、できれば土日も。私自身が<決まった時刻に決まった時間勉強する>で育ったので、同じようにやってます。食事が終わったら、さあやるよ~って感じで。

千葉:すごい!! うちではつい最近も、小6の次男に「宿題やりな」と声かけてトイレに行き、戻ってきたらもう終わっていて、そのあとは好きにゲームをしている……ということがありました。宿題、こんなに早く終わるのなんで? と聞いたら「なんか学校で終わってた」とかいう感じで……宿題終わってるならまあいいかと。

御手洗:そんな感じなのが多数派でうちみたいなのが少数派ってのを最近になって知ってそうなんだ!? って思いました。まあ私の親も私も過保護なんだろうなって自覚はあるんですが。私はきっと親に勉強をやらされなければやらなかった……と思っているので、娘にもやらせてます。

千葉:うちは無理やりやらせてもできないとも思います。特に2番目のナツは興味のないことはまったく頭に入らないタイプなので難しかったでしょうね。その反面、好きなことにはいつでも全力で、絵を描いていると時間も忘れるくらい集中するのですが。

御手洗:子どもの特性によって教え方も変わりますよね。

千葉:そうですね。できるできないも興味のあるなしも違うし。御手洗さんも漫画に描いてたよね。

御手洗:漫画に描いたのは未就学児のころの英語教室のお話しでしたが、うちの長女の場合は、反復練習じゃ覚えにくいようで。今は漢字を練習しているんですけど、英語と同じく知らない単語は20回くりかえしても覚えられない。

 じゃあどうやって覚えるのかというと、物語があったり、絵や歌があると覚えられる。たとえば、「行事」という言葉を覚えるとします。まだ「行事」という言葉の意味を知らないので、「行事っていうのはイベントのことだよ~。イベントってわかる? 運動会とか……」と運動会の絵を描きました。むすめからは「ヤゴレスキュー」という学校でやった活動が出てきて、「それも行事のひとつだね」と会話したり。

千葉:ヤゴレスキュー?

御手洗:プールにわいてしまったヤゴを捕まえて教室で育てようっていうイベントです。こういうふうに話、体験、絵を混ぜないと覚えられないんですよ。なので、教えるときにはそれを意識してますね。

千葉:フユのトレーニングを思い出します。長男のフユは発達性読み書き障害で、書いて覚えるのが苦手でした。書くより文章にして口で覚えるほうがいいということで、漢字を分解して文章をつくるのをたくさんやりましたね。漢字ひとつにつき、文章をひとつ考えて、それを単語カードの表裏に書いて……週に5日、5枚ずつを中1から高3まで繰り返しやりました。

御手洗:そうそう、千葉さんの本に書かれていた、漢字を「花が咲いてイヒヒと笑う」と分解するみたいな感じです。とても参考になりました。

(千葉リョウコ『うちの子は字が書けない』/ポプラ社 p.53-54より)
千葉:でもその教え方も、子どもの特性によって変わってくるんですよね。フユがその方法なら覚えられるとわかるまでに、いろいろな検査をしました。ナツはナツで、英語だけが特にできないと思って中学生で検査を受けさせたら、実はひらがなの「め」と「ぬ」とか「む」「ね」のような丸くなる部分がある字がわからないと判明したり。御手洗さんはそういうことなく、ご自分でお子さんの得意な方法を見つけていて驚きです。

御手洗:千葉さんの本を先に読んでいたっていうことはあるかも。本以外でもTwitterなんかで発信されていた情報も知っていたので。

勉強が得意不得意じゃなくて、教え方が合っているかどうか
千葉:2号さんはどういう感じ? まだ勉強はしないか……

御手洗:むすめの勉強時間に一緒にやってます。3人座れるベンチで、私の左右にむすめたちが座って。自分から「私もやりたい」って来るんですよ。ただ、4歳に2年生と同じように1時間やらせようと思っているわけではないので、一緒にはじめて好きな時間まで一緒にやってるという感じです。

千葉:いま4歳で、なにをやってるんですか?

御手洗:カタカナ表をうつしたり、ですね。2号は「頭がいいですね」。覚える速さがとても速いです。上に姉がいることも大きいのかな。文字にふれるようになったのが上のむすめより3年早いですし、機会も多い。上のむすめは1年生でカタカナがやっと書けるぐらいで、学校と同じくらいか、むしろ遅いペースで習得しましたが、年中の2号はすでにカタカナ読み書きができて。

千葉:えっ、書きも……?

御手洗:書きもできる! そして、漢字も読めます。

千葉:す、すごい~~!

御手洗:これも2号の個性ですね。絵を描いたり、文字を書くことに興味がある。長女はどちらかというと読み書きには興味がなく、運動が好きでした。

千葉:兄弟で興味の方向が全然違うのっておもしろいですよね。文字の読み書きひとつとっても、フユは「もっと書けるようになりたい」と発達性読み書き障害だとわかった小6から高校3年生までトレーニングを継続したけれど、ナツはあっさりと「私はトレーニングしなくていいかなー。漢字書く必要あるときはスマホ見ればいいし!」と言い放ちましたからね。読み書きは苦手だけど、勉強そのものができないんじゃなくて、家庭教師には「文章問題ふつうに解かせたらできないけれど、文章を読み上げて口頭で答えさせればほぼ全問正解できる」と驚かれました。

御手洗:ですよね~。教え方で覚え方が変わるというのは、むすめで実感したので、学校で成績がいいのも悪いのも勉強が得意不得意なんじゃなくて、学校の教え方にあってるかあってないかというところが大きいと思います。

(御手洗直子『さらにつっこみが止まらない育児日記』/ベネッセコーポレーション刊 p.80,83より)
子育てのゴールは「人とのかかわりを持ちつつ、ひとりでなんでもできる力」を身に付けさせること
御手洗:私の母が教育ママだっただけじゃなくて、私自身も勉強が好きでした。勉強した先の、たとえばテストで100点をとるとかそういう達成感が好きで。ゲーム要素的にもいい点数をとることが楽しかったんです。中学生までは毎日2時間の勉強が苦じゃなくできていました。

千葉:ところが……

御手洗:高校1年生で、受験が終わった! 自由の身だ! 同人誌はじめよう!! となった結果、高1の終わりには進級会議にかけられるような状態に……

(御手洗直子『腐女子になると、人生こうなる!~底~』/一迅社刊 p.96より)
千葉:そこまで振りきれるメンタルがすごい!!

御手洗:勉強やっていた2時間が全部原稿の時間になるんですよ。勉強は覚え込み、積み上げだからやってる時間だけ成果が出る……ところが原稿をやっているとその時間がなくなり、なんなら授業中もネームやプロットをやってると、今まで授業時間を合わせて毎日8時間とかあった勉強時間が0になるんですよ。テスト前日に地方の即売会に行って夜行バスで帰ってきて東京駅からそのまま学校へテストを受けに行く……とかね。テストの単元もわかってなくて、テストを受けて知るという感じでした。

千葉:いや~私も同じころに同人活動していましたが、メンタルが弱いのでテスト勉強だけはしていました。思い切りがよすぎる!
御手洗:そのまま専門学校に行って、漫画を描き続け、一度も就職しないまま今に至るので、娘たちが大学行かないとか就活しないって言っても1ミリも反対できないですね……

千葉:ああそれはわかります。私も大学卒業後はぽーんと東京に出てきて、アイドルおっかけしながら漫画家のアシスタントから入ったので、絵を描いてばかりのナツを見ても、自分で手に職をつけるための勉強をしているなら見守って応援しようと思います。

御手洗:自分自身の勉強の知識が中学生で止まっているので、今はこうして勉強を見ていますが、高校以上はサポートできないですね。将来役立ちそうなもので唯一教えられるのはクリスタ(※)の技術くらいですかね。これからの時代、就職できるひとはもちろんそこで生きていくのが安全だろうけど、それが難しければ自分でなにかを立てて個人でやっていくのもアリだと思うんです。うまい背景を描けるプロのアシスタントは需要があるので、そういう道でもいいよな~と思います。

(※)クリップスタジオペイントの略…漫画・イラストなどの作品制作アプリのこと。

千葉:コロナ禍で働き方は大きく変わりましたもんね。職を失ったひとも多い。なかなか外に出られない。となると、手に職を持っているのは強いのかもしれません。ナツはいろんな特性の影響で、社会で生活するのが難しそうなところがあります。もちろんできるなら一度就職して会社勤めもやってみてほしいけれど、親から見ても難しそう。今すでにイラストやライブ2Dなんかは私より上手なので、あとは「こういう道があるよ」と教えてあげたいですね。会社に就職することがすべてじゃない。

御手洗:個人でやっていくことができる、というのは私も子どもたちに教えてあげたいですね。私たちも個人でマンガを描いてるわけですが、今はいろいろ幅広くできますから。

千葉:フユくんもがんばってますよ。家を出て、ひとり暮らしをしていますが、仕送りもなしに生活できています。どうしても困ったら言いなさいと言っているけれど……自分ひとりのほうが楽なんでしょうね。私も学校を出たあとは好きにしていたし、「好きにする時間」って大切ですから。今は見守り中です。と言っても、フユくんが30歳くらいまでですかね。それを超えると私の年齢的にもうサポートできないから、それまでになんとか今のひとりの生活を継続して、したいことができて、楽しい生活が送れたらいいなと思います。

(千葉リョウコ『「うちの子は字が書けないかも」と思ったら』/ポプラ社刊 p.209より)
御手洗:私も、リョウコさんがおっしゃっているのと同じ結論です。ひとりになったときに楽しく暮らせるだけのお金を得られて、楽しく好きなことができる。ひとりでライフワークを完結できるというか。

千葉:うんうん、楽しく暮らせるって重要ですよね。

御手洗:たったひとりきりで生きていく、というのではなくて、ひとりで友達をつくる、ひとりで楽しいことを見つけてそれを維持していく力、自分の機嫌を自分でとれる力。楽しくなれる力。

千葉:……同人誌かな?(笑)

御手洗:そうなんですよー!! もう完全にそうなんですよね、私たちの場合。

千葉:ナツはひとりで同人誌を出してイベントに出たので、もう生きていけますね!(笑)

御手洗:同人活動ってやること多いですからね! でもほんと、同人に限らず、自分で自分の楽しいことって、なにかを作ることだと思うんですよね。買って楽しむのって限界があるけど、漫画だけじゃなくて、服でも料理でも曲でも……作るのは限界がないから。と言ってもこれもね、子どもの好みによりますが。

千葉:なにを選んでも本当にひとりで生きるってことはないですからね。私だって漫画を描くのはひとりでも、編集さんもいて、印刷・製本してくれる方もいて、こうして対談もしていただいて……御手洗さんのおっしゃるように「人とのかかわりを持ちつつ、ひとりでなんでもできる力」が大切ですね。私も今日、御手洗さんのおかげで考え方がまた広がりました。ありがとうございます。

御手洗:こちらこそ、ありがとうございました。今度またお茶ご一緒してください~!

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