• Tue. Oct 26th, 2021

仲良し姉妹の関係は簡単に変わった……認知症の母について「妹とは気持ちが通じ合ってる」と思っていたが

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)

 そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。

 親の「ヨロヨロ・ドタリ」期には家族の関係も変わっていく。川原路子さん(仮名・53)と妹の由美さん(仮名・50)の話を続けよう。

 路子さんと由美さんは、父親と離婚した母親の土地に家を建て、3世帯で仲良く暮らしていた。母親の物忘れがひどくなったころ、シングルマザーだった由美さんが再婚した。路子さんは由美さんが再婚後の家族を優先して、母親のことをないがしろにしていると感じるようになった。

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何かあったらそのときに考えればいいじゃない

 由美さんが再婚相手と同居すると、路子さんは由美さんののんびりした性格にいら立つことが増えた。由美さんは新しい家族をどうつくっていくかで頭がいっぱいだったのだろう。路子さんが母親の物忘れのことを相談しても、上の空のように思えた。そんな由美さんの態度に業を煮やした路子さんがきつい言葉で由美さんを責めても、「何かあったらそのときに考えればいいじゃない」という返事がきただけだった。

「みんなで暮らせる家を建てたときは、こんなことになるなんて思ってもみませんでした。父のことでずっと苦しんできて、妹とは気持ちが通じ合っていると思っていました。私たち姉妹の関係がこんなに簡単に変わってしまうなんて……。こんなことなら、みんなで住める家なんて建てなければよかった」

 母親は認知症と診断された。もはや由美さんとの関係が好転するのを待っている時間はない。今後、母親が金銭管理をするのも難しくなるだろう。土地のこと、家のこと、お金のこと……今のうちにやっておかなければならないことはたくさんある。

 路子さんは焦った。

「いろいろ調べると、任意後見制度というのがあるのがわかったんです。それで、母に判断力があるうちに私と妹を任意後見人に選んでもらって、財産管理ができるようにしておきたいと考えました。でも妹に何度そう言ってものらりくらりとかわすばかりなので、私一人で司法書士の先生のところに相談に行ったんです」

 路子さんがいう任意後見制度とは、認知症などで判断能力が低下したときに備えて、本人が選んだ任意後見人と事前に財産管理などを契約しておくという制度だ。路子さんは、一人で母の財産管理を行うのは荷が重たかったので、できれば由美さんと二人で行いたいと考えていた。

 ところが相談した司法書士の言葉で、路子さんは再び由美さんとの関係を考え直すことになった。

「今、妹との関係に不安を感じているのだとしたら、妹と一緒に任意後見人になるのはやめておいた方がいいと言われたんです。考えてみれば、確かにその通りかもしれないと思いました」

 もちろん、今後由美さんとの関係が良くなるのなら杞憂で済むだろう。でも、関係が改善しなかったとしたら――土地や家のことで、由美さんと意見が合わず、争う可能性も出てくる。そんなことまで想像して、路子さんはゾッとした。

「母の介護費用を捻出するのに、土地を売らなければならなくなるかもしれないし、悪くすれば私たち家族が住むところを失うことにもなりかねません。それだけは、どうしても避けたい」

 路子さんは司法書士の意見に従って、もう一人の任意後見人として路子さんの長男を選ぶことにした。といっても、選んだのは母親ということにはなっているのだが。

 任意後見契約をするとき、由美さんが欠席すると厄介だと路子さんは不安だったが、幸い同席はしてくれた。

「ものすごく機嫌が悪かったですが。そりゃ当然ですよね」

 そして意外なことに、路子さんと路子さんの長男が任意後見人になることにも反対しなかったという。

「あっさりと同意したので、私たちも拍子抜けしたほどでした。反対されたら司法書士の先生に説得してもらうよう準備もしていたんですが。たぶん、妹は面倒なことはしたくなかったんだと思います。緻密な金銭管理とか、アバウトな妹が一番苦手なことですから」

 ホッとしつつも、これから先のことを考えると、同じ屋根の下で暮らす由美さんとどんな問題が起きるのかわからない。「不安がなくなることはない」と路子さんはつぶやいた。

 まさに、きょうだいは他人のはじまり――。