日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。10月17日の放送は「ボクと父ちゃんの記憶 ~家族の思い出 別れの時~」。
あらすじ
千葉県南東部、緑豊かな睦沢町で暮らす高校3年生の大介は、若年性アルツハイマー型認知症になった父親を日常的に介護している「ヤングケアラー」だ。
大介の父親、佳秀はもともと東京で映像制作の仕事をしており、ディレクターとして多忙な日々を送っていたという。1999年、43歳の時に妻の京子と再婚してからは、大切な約束を忘れてしまうなど仕事でミスが出始めるも、疲れからくるものだと思っていたという。
その後2003年に大介が産まれ、このころから車で出勤したのに、それを忘れ電車で帰ってくるなど日常生活にも影響が出始める。大介が2歳、佳秀が50歳の時に若年性アルツハイマー型認知症と診断される。
病気の進行を遅らせるため、一家は千葉に越して仕事を減らしたため、幼少期の大介のそばにはいつも佳秀がいたという。かつてはラグビーを大介に教えるほど、心身とも安定していた佳秀だったが、大介が中学校、大介の下の妹たちが小学校に上がるころから、症状は坂道を転がるように悪化していく。症状が悪化する前の佳秀について、大介は「まだ父ちゃんが父ちゃんだったな」と話す。
現在の佳秀は、会話がほぼ成り立たず、トイレも一人で行けない。日中はデイサービスに通っている。認知症の症状の一つとして、機嫌のいいときはにこやかだが、唐突に腹を立てることもあるという。京子が働いて一家を支えており、仕事で遅くなる京子に頼まれて、大介が佳秀を寝かしつける様子も映されていた。
京子は、大介を介護の助け手にしていることに悩んでいた。京子の友人たちが、自分の子どもが20歳になったら家から出すと話しており、大介もそうだと伝えたところ、「出てっていいの?」と喜んだ反応が返ってきたそうで、「家にいなくちゃいけないと思ってたみたい」と番組スタッフに思いを話す。
京子は佳秀を受け入れる施設を探すも、コロナ禍の状況であり、さらに、コロナがなくてもインフルエンザなどの感染症を防ぐため、希望する施設は11月から4月までは面会謝絶だという。
一度、施設に入れたら、もう佳秀から家族の記憶は完全になくなってしまうだろうとためらいもあったようだが、京子は施設に入れることを決断する。
京子の決断を聞いた大介は「(佳秀には)入ってほしくはなかったけど、お母さんが限界だからね」と、便まみれになっていた佳秀を京子が介護していたことをスタッフに話す。
施設に入る前に、京子は家族や、佳秀と前妻との息子一家を集めパーティーを開いたが、佳秀は久しぶりに会う長男がまったくわからない様子で、自分が主役なのに何のパーティーなのかもよくわかっていないようだった。
施設に行く当日、涙をこらえハンドルを握る京子と、父親を見つめる大介の横で佳秀はただニコニコしていた。感染症予防のため施設内に家族は入れず、玄関で別れを告げることになったが、佳秀は自分の状況を把握できていないようで、にこやかにスタッフと歩いていった。その背中を、残りの家族は見守った。
番組内で京子は以下のように話していた。
「みんな(佳秀が)認知症で大変っていうけど、大変なことがあっても必ずプラス・マイナス・ゼロぐらいいいことあるじゃない。『子どもたちしっかりしてるね』って言う(言われる)けど、認知症のお父さんがいてそれで育ててくれたんじゃないのかな」
外的要因で、年の割にしっかりせざるを得なかった子どもというのは切ない。それぞれの家族固有の事情や歴史があるだろうし、大介や妹たちがどう思うかはわからないが、私は、この京子の発言には共感できなかった。
むしろ共感できたのが、介護施設のスタッフが、佳秀を預けたあとに大介にかけた「夏休み楽しんでください」という言葉だ。大介が中学に入るころから佳秀の症状は悪化したとあり、大介の思春期は、ほぼ佳秀のケアとともにあったのだ。
大介は高校卒業後に就職が決まっているため、すぐに社会人となる。残りの半年、子ども時代の終わりを気ままに過ごしてほしいと願う。
厚生労働省のホームページでは、ヤングケアラーは「一般に、本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子ども」とされており、その範囲は広い。
・障害や病気のある家族に代わり家事をしている
・家族に代わり幼いきょうだいや、障害や病気のある家族の看病、世話をしている
・(認知症などで)目の離せない家族の見守り、気遣いをしている
・日本語が第一言語でない家族のために通訳をしている
・家計を支えるために労働をしている
・アルコール、ギャンブル、薬物など問題を抱える家族に対応している
・慢性的な病気の家族の看病や身の回りの世話をしている
NHKの公式サイトにはヤングケアラーの特集ページがあり、精神疾患を持つ親の世話をする子どもなど、実際の声が紹介されている。
ヤングケアラーの「しっかりせざるを得ない」子どもたちは、年相応に子どもらしくのほほんと、気ままにワガママに甘えて過ごす同級生たちがどう映るのだろう。当事者の自分の境遇の理不尽さへの怒りと諦め、深い孤独を思うとやるせない。
私事だが、40歳を過ぎて健康保険料が急に上がって驚き、思わずネットで検索してしまったが、同様に驚いている人も多く見つかった。これは、介護保険料が加わったためだ。自分がこの恩恵にあずかれるかは不透明だが、少なくとも大介のようなヤングケアラーは個々人がなんとかする問題ではなく、社会がなんとかする問題だと私は思う。
ヤングケアラーの負担が少しでも減るために自分の介護保険料が使われるなら、個人的には納得のいく使われ方に思う。
次週の『ザ・ノンフィクション』は「奇跡の夏に輝いて ~ピュアにダンス 待寺家の18年~」。番組が18年見つめてきたダウン症のあるダンサー、待寺優31歳。ダンサーとしてのピークは過ぎ、どう自立への道を進んでいくのか。優と家族を見つめる。当作は令和3年度(第76回)文化庁芸術祭参加作品でもある。