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日本と海外の映画ポスターはどうしてこんなに違う? その理由を映画ポスター専門店に聞いた

ByAdmin

10月 21, 2021

 昨今、ネットでよく話題となる「日本と海外の映画ポスターの違い」。

 キャッチコピーが多く入れられた日本のデザインと、シンプルでビジュアルを優先した海外のデザインが比較されることが多いが、こういったデザインの違いはなぜ起きるのだろうか?

 数多くの映画ポスターを取り扱ってきた大阪の映画ポスター専門店「ドメニカポスター」の店長・前田さんに、海外と日本の映画ポスター文化の違いや、ポスターコレクターの世界について伺った。

ドメニカポスター
アメリカ版を中心に世界各国のコレクション向きの貴重な劇場用オリジナルポスターからお手軽なリプリントポスターまで豊富に取り揃えた本格的な映画ポスター専門店。 海外規格サイズのフレームも各種取り揃えております。コレクションはもちろん、お部屋やお店のインテリアとしてもご活用いただいておりますので、初めてのお客様もお気軽にご来店ください。店舗は大阪・心斎橋にございます。全国通信販売も承っております。

デザインのために映画の「タイトル」を削ることもあるアメリカのポスター
――ドメニカポスターでは、主にアメリカの映画ポスターを扱われているそうですが、アメリカ版の映画ポスターは、日本と比べるとシンプルなデザインのものが多いように思います。

 そうですね。日本のポスターも最近は変わってきていますが、全体的にはキャッチコピーを多めに入れたわかりやすいポスターが多いように思います。

 一方で、アメリカの特に早い時期に貼られるポスターなどは、余分な情報をけずったシンプルなものが多いです。

 誰もが知っている人気のシリーズなどであれば、映画のタイトルをポスターに入れないこともありますね。

映画『トムとジェリーの大冒険』ポスターの例。シルエットのみで作品名は入っていない(ドメニカポスター提供)
――なぜこういった違いがあるのでしょうか?

 まず、日本とアメリカではポスターが担っている役割が違うように思います。

 日本では「ポスター=広告」という考えが強いですが、アメリカの場合は「ポスター=作品の一部」として考えています。

――確かに「広告か作品か」はかなり大きな違いですね。

 作品なので、予算もかけられるというのはあると思います。

 それから、日本などのアジアと比べて、アメリカでは「ポスターを買う」という文化が根付いていることも大きいです。それも希少価値の高いオリジナルポスターを大人のコレクターが集めるだけではなくて、ティーンエージャーの学生などが部屋にお手軽な映画ポスター(リプリントポスター)をベタベタ貼るのが普通なんです。

 ポスターには「オリジナル」という劇場で貼られているものと「リプリント」という販売用のものがあります。オリジナルは非売品につき定価はなく、一般的な新作映画で4000円程度~入手難度により高額なものは数万円するポスターもありますが、リプリントは2000円~3000円ほどで、専門店以外でも気軽に買えるんです。

――買う人が多いから制作側も気合いを入れられるし、その逆も起きるということですね。
ポスターをきっかけに映画の人気が出ることも多いのでしょうか?

 映画やドラマの登場人物の部屋に「小道具」としてポスターを貼り、それがきっかけで古い作品が注目されるということはあります。

 そうやって新しい作品を通じて古い作品が注目されるというサイクルを、アメリカはずっと繰り返していますね。

――生活において、映画ポスターは非常に重要なものなんですね。

 ただ逆に、日本や韓国で多い「映画のチラシ」はないんです。上映後に買うパンフレットもありません。

 なので、アジアのチラシやパンフレットの文化は、アメリカから見るとおもしろいんじゃないかと思います。

――なるほど!アメリカがビジュアルを使ってスマートに伝えようとするのに対し、日本含むアジア圏は言葉や文字でわかりやすく伝えようとする傾向があるのかもしれないですね。

シンプルな映画ポスターは最近のアメリカでのトレンド
――「日米で映画ポスターのデザインが全然違う」というのは、最近ネットでよく話題になるトピックですが、こういったポスターデザインの違いは昔からあったものなのでしょうか?

 アメリカの映画ポスターは歴史が長いので、違いはもともとありますが、「シンプルなデザインの映画ポスター」に関していうと、近年増えてきたものです。

 まず、アメリカでは1本の映画にかける予算が数十年前と比べてかなり増えているんですね。なのでポスターにかけられる予算も増えて、公開日のかなり前からポスターを出し、公開に向けて何種類ものポスターを出すようになりました。

 それで、公開前の早い時期に出されるポスターは(入れるべき情報がまだ少なく)デザインの自由度が高いので、この時期のポスターはかなりデザインにこだわって作られるようになりました。

 あとは、予告編が早く出せるようになったので、ポスターは多少シンプルでもよくなったというのもあります。

――最近よく聞く「アメリカの映画ポスターはシンプル」というのは最近のトレンドだったんですね!

 そうですね。映画ポスターのトレンドも移り変わりがあって、たとえば80年代はイラストのものが多く、90年代は人気の俳優を押し出したものが多かったです。

80年代のイラストものポスターの例:『バック・トゥ・ザ・フューチャー1』(ドメニカポスター提供)

90年代の出演俳優を押し出すポスターの例:『トップガン』(ドメニカポスター提供)
 その影響で、2000年代は大手スタジオのものより独立系の映画が人気になり、2010年代はシンプルなポスターが多いというのがおおまかな流れでしょうか。

00年代の独立系ポスターの例:『コーヒー&シガレッツ』(ドメニカポスター提供)

10年代のシンプルなポスターの例:『シンデレラ』(ドメニカポスター提供)
――映画のトレンドとともにポスターもどんどん移り変わっているんですね!

 あとは、アメリカは「ポスターを紙に印刷する」ということへのこだわりが非常に強いんですね。日本と比べると劇場のデジタルサイネージもまだ少ないですし(紙ではない)、ビニールのバナーなどもポスターのデザインとは異なるキャラクター別などで使用されるケースが多いと思います。

――紙のポスターへの強いこだわりを感じます。

 そうですね。印刷にもこだわっていて、オリジナルのポスターだと、裏面に反転のプリントがしてあるものも多いです。

 アメリカのいまの劇場は、暗いロビーの壁にバックライトを仕込んだ展示スペースを作り、そこにポスターを貼るというのが主流です。なので、白いポスターだと後ろのライトが透けてしまったり、色の濃いポスターだとムラが目立ってしまうんですね。

 そこで、裏面に反転した印刷をして、ライトを当ててもポスターが鮮やかに見えるように工夫をしているんです。

『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』ポスター表(ドメニカポスター提供)

『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』ポスター裏(ドメニカポスター提供)

――集めたくなる人がいるのもわかりますね。他に、アメリカ以外の国の映画ポスターの特徴についてもお聞きしたいです。

 国によっていろいろですが、たとえばイギリスのポスターは珍しくて、横長で統一されています。これは世界でもおそらくイギリスだけの特徴です。

イギリスの横長ポスターの例:『マイ・フレンド・フォーエバー』(ドメニカポスター提供)
 それから、イタリア・フランス・ベルギーはポスターがかなり大きいですね。日本やアメリカよりも2倍程度大きく、基本的に折りたたんだ状態で流通させるので、折り目がついたものを劇場に飾っています。

フランス版の折り目がついた大判ポスターの例:『レ・ミゼラブル』(ドメニカポスター提供)

――同じ映画ポスターでも、国それぞれでいろんな違いがあるんですね!

奥が深い映画コレクターの世界
――「映画ポスターを集める」という文化についてもお聞きしたいのですが、まずコレクターはどういった方が多いのでしょうか?

 日本だと、劇場に貼られる「オリジナル」なら20代後半ぐらいから、販売用の安い「リプリント」なら、中学生ぐらいから購入されています。男女どちらも多いですが、やや男性が多いですね。

――日本のコレクターに特に人気の作品などはありますか?

 ご自身の好きな監督・俳優・シリーズで集められる方が多いですが、昔から特に人気なのはディズニー・アニメーションのシリーズ、スター・ウォーズ関連作、007作品などですね最近はマーベルやDCといったアメコミの映画化作品を集められる方もとても増えています。

 あとは、先ほどの話にあった、アメリカで早い時期に出されるシンプルなポスターは人気になることが多いです。

 もともとの枚数が限られていますし、デザインが印象的なことも多いので「すべてのポスターが出揃った後で、一番最初のものが人気になる」というのはよくあります。

――すべてのポスターが出揃うというお話がありましたが、「公開後にポスターが追加で作られる」ということもあるのでしょうか?

 アメリカでは、まれにあります。アカデミー賞は1月から12月に公開された作品が候補になるんですが、やはりその年の最後の方に公開されたものの方が印象が強いんですね。

 なので、上半期に上映していた映画をアカデミー賞のノミネーションの時期にもう一度上映することがあります。そのとき、別のバージョンのポスターを作ることもありますね。

 あとは、人気の作品のリバイバル上映のときに、新しいポスターを作るということもあります。

 特に、ディズニーの「白雪姫」「わんわん物語」はアメリカのリバイバル上映でも非常に人気で、上映するたびに新しいポスターを出しているので、さかのぼって集められている方も多いです。

『白雪姫』1983年再公開時ポスター(ドメニカポスター提供)

『白雪姫』1987年(50周年記念)再公開時ポスター(ドメニカポスター提供)

『白雪姫』1994年再公開時ポスター(ドメニカポスター提供)
――コレクターの間で特に話題になった映画ポスターがあればお聞きしたいです!

 いろいろありますが、「スター・ウォーズ エピソード1」のポスターなどは圧倒的に話題でした。

映画『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』ポスター(ドメニカポスター提供)
 「この少年がいかにしてダース・ベイダーになったのかを描く」というのがシンプルに示されていて、それまでのスター・ウォーズ・シリーズのポスターとはまったく印象が違うものだったので、非常に話題になりました。

――おもしろいですね。「作品はあまり有名ではないが、ポスターは人気がある」というケースもあるのでしょうか?

 ありますね。60年代、70年代のオリジナルのポスターだと、映画自体は有名でなく、観ていない作品でもデザインがいいので買われるということもあります。

 紙質や印刷技術でいくといまのポスターにかなわないですが、折り目がついていたり日焼けがあるのが、逆に当時の雰囲気を感じさせるいい味わいになっています。

『THE HIRED KILLER』(ドメニカポスター提供)

『THE GREAT SPY CHASE』(ドメニカポスター提供)
――前田さんの映画に対する愛も伝わってきて、非常におもしろいお話でした。本日はありがとうございました!

By Admin