今や日常生活において、かかせないツールとなっているコミュニケーションアプリ「LINE」。かつては子どもの送迎時に、ママたちが立ち話をしているような光景が見かけられたが、時間に追われ忙しく過ごす共働き世帯が増えた今、ママたちのコミュニケーションの場は、LINEのグループチャットになっているという。そんな、ママたちの「グループチャット」から浮き彫りになった、彼女たちの悩みや、苦悩、気になる話題を覗いてみる。
「発達障害」という言葉を目にしたことはあるだろうか。厚生労働省が2018年に公表した「平成28年生活のしづらさなどに関する調査」(2018年)では、医師から発達障害と診断された人は、48万1千人と発表されている。最近では、タレントの栗原類や経済評論家の勝間和代など、自ら発達障害と診断された経験を公表する著名人も増えてきた。その背景には、昔より病気への理解が進んだことや、症状による診断が下されやすくなったことも影響しているだろう。今回は、「子どもが通っていた保育園で、発達を指摘された」というママのエピソードを紹介する。
「あなたの息子は手がかかる」保育園から発達障害の診断を受けるよう言われて……
関東近県に住む美波さん(仮名・34歳)は、3歳になる息子と1歳の娘の育児をしながらコールセンターのオペレーターとして働いている。彼女は息子の育児で悩みがあるそうだ。
「息子と娘は同じ保育園に預けているのですが、少し前に保育園の先生から息子のことで呼び出され、個別面談をしたんです。なんだろうと思って保育園に行ったら、『一度、地域の支援センターで、心理士の先生の診断を受けてもらいたい』と言われました。息子は集団生活の中でほかの子と同じように行動ができず、『保育士がつきっきりになるために、手がかかる』んだそうです。急なことだったので驚きました」
保育参観では、少し立ち上がって歩き回ったりしていたものの、周りについていけていないようには見えなかったという。
「保育士の説明では、『来年、“加配”と呼ばれる、障害の診断を受けた子どもを対象に配置される保育士さんを増やしたい。そのためには、医師の診断書が必要』とのことでした。正直、最初は『なぜ、うちの子に?』という疑問が強かったですね。ただ、人見知りをしない娘と違い、息子は他人から話しかけられた時に何も言わなかったり、思い通りにならないと大きな声を出してかんしゃくを起こすことがあるのは気になっていました。でもまだ3歳だし、“イヤイヤ期”のまっさかりだと思っていたんです」
また、加配保育士が息子の担当につくことで、発達障害の疑いがあると周囲に知られるのが心配だったという美波さんは、仲が良いママ友にだけ、前もって息子に発達障害の疑いがあることを伝えたそうだ。
「息子がお友達に迷惑をかけていたらいけないと思い、ママ友にLINEで連絡をしたんです。そうしたら『早い時期からトレーニングすることで、周りと同じようにできるようになるから大丈夫』と言ってもらえて勇気づけられました」
その後、美波さんは保育園から支援センターに連絡をしてもらい、心理士と面談をしたという。
「息子は園に預けた状態で、私だけ呼ばれました。心理士の方が、事前に保育園での息子の過ごし方を見てきたそうで、遊びの時間から給食の時間になっても、なかなか遊びを止めることができなかったり、みんなでダンスをする時に一人だけ座っていたと聞きました。家ではそんな様子は見られなかったので、どう受け止めればいいのかと悲しくなりましたが、心理士から勧められ、一度、療育センターを利用することにしたんです」
療育センターとは、発達に不安のある児童に対し、作業療法士や心理士など専門職の職員が、子どもの特性を生かした個別療育を行う施設。自治体が運営している場合、原則として医師の診断や支援センターからの紹介がないと利用することはできない。
「保育園に行くと、息子だけ発達段階に問題があるとは思えず、ほかの児童を羨ましく思ったりもしました。でも療育センターに行くと、同じような悩みを持つママと出会えて、トレーニングに前向きな気持ちになれました」
医師の予約がいっぱいで、加配申請が通るのは来年に?
美波さんの息子は、療育センターで「診断名が付いたほうが治療をしやすい」という理由から、医師の診察を受けるように勧められたそう。
「今、医師の診察は予約でいっぱいで、検査を受けられるのは2カ月後になるので、自分で探した発達障害の診断ができる民間のクリニックに行くか迷っています。加配保育士の申請も医師の診断書が必要だし、このままでは申請が通るのが来年になってしまいそうなんです。それまで今のままで良いのかも不安だし……。何より、保育園には同じ境遇のママ友がいないので、なかなか話を聞いてもらいにくいことがつらいです」
加配制度も、以前よりは広がりをみせているが、周囲の理解を得られるかどうか、美波さんには不安があったようだ。
「でも、息子のことを相談したママ友が、LINEで民間の療育施設やクリニックなどの情報を教えてくれたんです。それまでは落ち込みがちだったのですが、『〇〇君ならできるよ!』と励まされ、元気が出ました。自分の子だけ特別扱いされると、かえって障害が目立ってしまうかもしれないと不安もありましたが、ママ友は『学年が上がると、先生一人で見る児童数が増える。その分、子どもへの注意が減ってしまう。それなら加配の先生がいてくれると、安心して過ごせるよ』とも言ってくれたので、ほっとしました」
「情報の少なさが、不安の一番の原因」
なお、美波さんは、不安を解消するために、ネットで子どもが発達障害と診断されたママのブログなども読み漁ったという。
「結局、情報の少なさが、不安の一番の原因だと思うんです。ママ同士でも話題に上げづらいし、相手のことを思うと、どこかよそよそしくなってしまいますから。でも、発達障害の症状は見られるけれど、すべてには当てはまらない“グレーゾーン”と呼ばれる子どもは、意外といるんじゃないかと思います。それぞれにあった療育を行うことで良くなる可能性がありますし、もし、気になることがあるなら勇気を出して診断を受けてみてほしいですね。息子の場合は心理士の先生から、『今は、どうやって言葉で表現すればわからないというような症状が見られるけれど、小学校に上がるまでに良くなると思います』と言ってもらえたので、通所する勇気が出ました」
その数は増えているように感じる発達障害児。しかし、周囲のフォローがまだ追いつていないようにも感じる。誰もが気兼ねなく検査や療育を受けられる環境が整備されることが、ママたちの悩みを取り除く一歩になるのではないだろうか。