• Mon. Nov 29th, 2021

『ザ・ノンフィクション』男親の正論と女親の意地「奇跡の夏に輝いて ~ピュアにダンス 待寺家の18年~」

 日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。10月24日の放送は「奇跡の夏に輝いて ~ピュアにダンス 待寺家の18年~」。

あらすじ

 番組が18年取材を続けている、神奈川県小田原市で動物病院を営む待寺家。待寺家の3人兄弟の末っ子、優は生後1カ月でダウン症が判明する。母の幸は当初、優の「顔を見たくなかった」ため、奥の部屋にほったらかしにしていたこともあったと、「今考えるとかわいそうですけど」と涙ながらに話す。

 合併症で心臓疾患もあった優は生後9カ月で呼吸が止まり、緊急手術の末に生還する。そのときのことを父、高志は「生涯何があっても、この子と一緒に生きていく」と決意したと振り返る。

 優は13歳でダンスに出会い、ダウン症のある人のためのエンタテイメントスクールLOVE JUNX(ラブジャンクス)の中で頭角を現していく。逆立ちをした状態で脚を巧みに動かす優のダンスは「障害者のダンス」と聞くとイメージされがちなものとは一線を画しており、ダウン症患者は筋力が弱い、というそれまでの定説を覆すものでもあった。

 優はセンターポジションで踊るようになり、活動の幅を広げていくが、「ダウン症のダンサー」という言葉が前に出るのを嫌がり、一時ダンスから遠ざかる。しかし、再びダンスに戻り、幸の送迎で小田原から東京に通う日々を送る。

 現在、優は31歳。ダンサーとしてのピークは過ぎ、LOVE JUNXのセンターポジションも今は若手だ。できるだけダンスをやらせたい幸と、自分たち親が亡きあとも、優が一人で生活できるように自立の準備をしてやりたい高志の間で、意見が食い違う日々が続く。そんな2人の空気を読んだ優も、自ら皿洗いを始める。

 ある日、憧れのダンサー・植木豪(Pani Crew)から、優の人生をテーマにしたダンス舞台の出演オファーが来る。トップダンサーたちの動きに当初ついていけない優だったが、懸命な練習で食らいついていく。

 舞台の初日は2020年3月24日。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、2月26日には政府からイベントの中止要請が出る。優の舞台も中止となり、幸は涙し、優は何も言わずに舞台で使われる予定だった歌を歌い続けていた。その後、8月の再演が決まる。

 また、優は東京パラリンピックの開会式でのパフォーマーに採用されたが、新型コロナの影響で1年延期される。開会式が迫る中、新聞の一面では開催反対の都民が60%と書かれており、逆風の中での開催となったものの、優は無事に大舞台でダンスを成功させた。ギタリスト・布袋寅泰も参加するロックショーのダンサーで、ソロもある大役だ。

 優の両親、高志と幸は優の人生の方針において意見が対立していた。まとめると、それぞれの意見は以下のようになる。

高志:親はいずれ先に死ぬ。優が一人で生きていけるよう、ダンス以外のことをさせて自立の準備をさせてはどうか。
幸:優にできる限りダンスをさせてやりたい。優のことを周りに、社会に、福祉に伝えていかないといけない。

 高志は、幸の抱く「伝えていかないと」との思いについて、それは優のためではなく「自分のため」なのではないか、と話していた。視聴している私もそう思ったし、高志の言い分のほうが納得できるものだった。

 一方、幸は意地を張っているようにも見えたが、しかし意地を張る気持ちも想像できるのが切ない。

 高志はいい父親だと思う。優が皿洗いを始めると、それを監督するなど行動が伴う人でもある。番組スタッフのインタビューには言葉少なげな優も、高志がカメラを向けているときは、にこやかにリラックスして話していて、父と息子の間に積み重ねられた日々を感じさせた。

 しかし、実際的に優と一番長く一緒に過ごし、優の世話を一番しているのは幸だろうし、幸が「あなたに何がわかる(私が一番わかっている)」となる気持ちも想像できるのだ。

 この様子には覚えがあった。『ザ・ノンフィクション』10月3日放送の「母と息子のやさしいごはん」だ。そのときも、障害(この時は発達障害)を持つ成人した息子の今後を前にして、父の正論と母の意地がぶつかり合い、結果として「母の意地が勝る」という状況だった。

 今回の高志は、「一言いうと機関銃のようにぶわーと言うから、諦めちゃう」と話し、「やさしいごはん」の回も、女親のマシンガントークを前に男親は何も言えなくなっていた。

 そして、「意地のマシンガントーク」は障害を持つ子どもの女親に限らず、女性がとりがちな手法に思う。

 男性の一部には、いわゆる亭主関白型な、自分の不機嫌さを隠しもせず立場の弱い周囲に気を使わせようとするタイプが一定数いて、こういった人の厄介さは社会的に共有されつつある。

 しかし、女性の「意地のマシンガントーク」の厄介さ、というのはあまり共有されてない印象を受ける。不機嫌で周囲をコントロールするのも、マシンガントークをするのも、「対話を拒む」という点は似ている。

 次週の『ザ・ノンフィクション』は「愛する人、見送る私 ~看護師僧侶と3つの家族~」。看護師、玉置妙憂は夫を自宅でみとったことをきっかけに出家し「看護師僧侶」として患者や家族の心のケアを続けている。玉置が出会った3組の家族の見送りの形とは。