• 日. 12月 22nd, 2024

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瀬戸内寂聴さんが“悩み相談の達人”として人気だったワケ――「いい適当さ」を振り返る

羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。

<今回の有名人>
「言うこと、聞かなくていいの」瀬戸内寂聴
『快傑えみちゃんねる』(6月1日、関西テレビ)

 相談というプライベートなことを、わざわざテレビでやる時に問われるのは、“相談を受ける側がいかにテレビ映えする回答ができるか”である。かつて、自分の言うことを聞かない相談者に「地獄に落ちるわよ」と言い放った占い師がいたが、倫理面ではアウトでも、テレビで大ヒールを演じ抜いたという意味で大成功である。

 テレビにある程度台本はあるだろうが、シロウトさんにテレビ映えする回答は難しいなと思わされるのが、『怒れるオジサンとヤバイ女』(テレビ東京系)のお悩み相談コーナーである。

 5月26日放送の同番組で、タレント・熊切あさ美の「女優業にシフトしたいが、愛之助との破局のイメージが強すぎて敬遠される」という悩みに、敏腕選挙戦略家の鈴鹿久美子氏が回答していた。鈴鹿氏いわく、「37歳の生足は難しい」。“愛人イメージ”を払しょくしたいのなら、年齢にふさわしい、きちんとした格好をしろとアドバイスしていたが、ストッキングをはいたら、女優の仕事が来るのかは疑問である。また鈴鹿氏は、熊切に若い女性への恋愛アドバイザーになることを勧めていたものの、女優の比重を増やしたいという人に、違う職種を勧めるのは適切なのだろうか。

 これは、相談を受ける者として、鈴鹿氏がダメという意味ではなく、むしろ芸能人もしくは有名人がウマすぎると言うべきだろう。よく聞いてみると実質的なアドバイスはないのに、いいことを言ってもらった気にさせるのが日本一ウマい人、それは作家の瀬戸内寂聴ではないだろうか。

 6月1日放送の『快傑えみちゃんねる』(関西テレビ)に、瀬戸内とタレント・矢口真里が出演した。瀬戸内が出演を決めた理由は、「えみちゃん、大好きなの」と語るほどの上沼ファンだからだそうだが、話題はまず“矢口の再婚”へ。矢口は、俳優である夫(当時)・中村昌也のいない隙に、自宅にオトコを連れ込んだところ、予定外に中村が帰宅。オトコをクローゼットに隠したものの、結果バレてしまうという“クローゼット不倫”で離婚に至った。矢口は活動停止を余儀なくされるが、その後、不倫相手と交際を続け、再婚を果たした。

 上沼は、この結婚はうまくいかないと予想する。不倫が配偶者にバレると、交際が終わるのはよくある話だが、矢口は交際を続けた理由を「彼と家族しか支えがなかったから」と説明する。上沼いわく、「入院中においしい弁当を届けてくれた人と婚約したら、別れる」のだそうだ。これはつまり、病院のまずい食事に比べたら、差し入れしてくれる弁当ははるかにおいしい。しかし、退院していろいろなものを自分の足で食べにいけるようになったら、差し入れ弁当のおいしさやありがたみは薄れてしまう……というわけである。

 このほかにも、元モデルである矢口の現在の夫が、騒動の余波を受けてサラリーマンになったことに対し、上沼は「サラリーマンは務まらない」と断言。また夫の経済状況に合わせて、これまでの半分以下の家賃のマンションに住んだり、生活費を折半していることに対しても、「無理している(から別れる)」と繰り返していた。

■瀬戸内寂聴のアドバイスは無責任で明るい

 上沼のアドバイスは、夫を芸能界に戻し、矢口が養えばよいというものだったが、それがどうして夫婦円満につながるのか、私には理解できなかった。一方、あれこれ言う上沼に対して、瀬戸内が「言うこと、聞かなくていい」と口を開き、「恋愛は雷に打たれるようなもので、防ぎようがない」「会うべくして(不倫相手に)会った」「あなたは損していない」「全部あなたのプラスになって栄養になって、いいことがある」「“経験者は語る”だから、安心して」と結んでいた。

 矢口に対する世論を多少斟酌して、上沼が下げ、それでは後味が悪いので瀬戸内が上げる。番組としてうまくオチがついたわけだが、瀬戸内の発言は実質的なアドバイスでないことに気づく。実務面のアドバイスもなく「大丈夫」と言うことを無責任と感じる人もいるだろうが、相談される側が、相談者の人生に責任が持てないことを考えると、これくらいアバウトな方が、お互いにとっていいのではないだろうか。悩み相談はアドバイスの質を問うものではなく、共感をもって話を聞いた時点で終了しているのかもしれない。

 そもそも、矢口が現状に悩んでいるとは思えない。『おしゃべりオジサンとヤバい女』に出演した矢口は、「(再婚したからといって)きれいなイメージに戻るつもりはない」「再婚ってさわやかな風が吹く」と発言し、司会の千原ジュニアに「(さわやかな風)全然吹いていないよ」と否定されていた。このように矢口には、自分がいいイメージを持たれていないことに気づいていない鈍さがある。こんな鈍い人に、真剣に話をする必要はないわけだ。

 『えみちゃんねる』の終わりに、瀬戸内は「“みえちゃん”だって、こんなにチャーミングだから」と上沼の名前を間違って呼んでいた。上沼は「ほんまにファンかいな」といぶかしがるが、この適当さもまたちょうどいい。適当だから、優しくなれる。責任がないから、励ませる。さまざまな世代の悩みを受け入れるために必要な愛とは、無責任とほぼ同義ではないだろうか。国民的作家の人気の秘訣は、ドラマチックな人生や文学性はもちろんだが、案外こんなところにあるのかもしれない。

仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ、フリーライター。2006年、自身のOL体験を元にしたエッセイ『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。現在は、芸能人にまつわるコラムを週刊誌などで執筆中。気になるタレントは小島慶子。著書に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)『確実にモテる 世界一シンプルなホメる技術』(アスペクト)。
ブログ「もさ子の女たるもの」

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